9月9日の誕生花紫苑(しおん)について、少し特別なお話をしたいと思います。

花の見た目だけでなく、その花にまつわる物語や歴史を知ることで、より深く花と向き合えることに気づかされます。

紫苑の花言葉は、「追憶」「あなたを忘れない」「遠くにある人を思う」

今日は、そんな花言葉の由来となった物語をご紹介する形でお届けします。


店の奥、朝の光が棚の花々を淡く照らす時間。萌音は水差しを手に、紫苑の小さな鉢に目をやった。

「紫苑って、こんなに控えめで、それでいて凛とした花だったんですね」
萌音がぽつりと呟くと、私は微笑みながら椅子に腰を下ろし、手元の花を軽く撫でた。

「そうだね。実は、この花には古い物語があるんだ。『今昔物語集』にも描かれている話でね。」

萌音は顔を上げ、目を輝かせた。

「今昔物語…?あの昔話に紫苑が出てくるんですか?」

「そう。昔、ある国の郡に二人の兄弟が住んでいたんだ。二人の父親は早くに亡くなり、祖父母への想いを胸に抱きながら育った。年を経てもその想いは深まり、決して色褪せることはなかったという。」

私は紫苑をそっと撫でながら話を続けた。

「兄弟は、祖を失った悲しみを胸に抱え、墓の前で涙を流した。手を合わせ、声に出して懺悔や嘆きを語る。まるで祖が生きていて、自分たちの思いを聞いてくれているかのようにね。」

萌音は静かに頷いた。小さな花の姿に、そんな深い物語が宿っていることを想像する。

「しかし年月が流れると、兄弟も日々の生活に追われ、祖への思いを振り返る時間は減ってしまう。そこで兄は考えたんだ。『この想いを忘れないように、形に残そう』と。」

「形に…?」萌音は首をかしげる。

「そう、兄は墓のそばに萱草を植えた。静かに風に揺れ、長く咲く草で、見る人の心に想いを留めることができる。弟もまた、自分の祖への想いを忘れないよう、紫苑を墓のそばに植えたんだ。」

萌音は思わず息をのむ。花を通して、心を伝える――そんな昔の兄弟の行いが、今も紫苑や萱草に宿っているのだと思うと、胸が温かくなる。

「そして不思議なことに、墓の中から声が聞こえたという。『私はあなたたちの祖を守る鬼である。恐れることはない。年月が経とうとも、あなたたちの祖を思う心は変わらない』とね。」

萌音の目が少し潤む。花一つで祖への想いを形にし、そして認められる――そんな話があったとは。

「この物語には教えがあるんだ」
高瀬は静かに語りかける。

「喜びや希望を持つ人は紫苑を、悲しみや憂いを抱える人は萱草を植え、日々花を眺めることで心を守ることができる。昔の兄弟がしたように、想いを忘れないためにね。」

萌音は花に手を伸ばし、そっと触れた。

「花って、ただの装飾じゃないんですね。人の心に寄り添い、想いを繋ぐものなんだ」

「そうだよ。だから、君が誰かを思うとき、この紫苑を見てごらん。昔の兄弟のように、花が君の心を守ってくれるかもしれない。」

窓から差し込む柔らかな光の中、紫苑の小さな蕾が揺れた。静かに、でも確かに、時を超えた想いを伝える花として。

 

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紫苑(しおん)

花言葉「追憶」「あなたを忘れない」「遠くにある人を思う」