●○○の悲しみを受け継いだのは仕方のないこと
こんにちは、井上倫子（みちこ）、みーみです。
私が子供の頃の家族構成は、両親、兄２人、私、弟１人と祖母(母方の母)の７人家族でした。
祖母はとても明るく、交友関係が広く、習い事が大好きな器用な人でした。
民謡、詩吟、大正琴を楽しみ、季節のてづくり(梅干しや味噌、漬け物、柿の葉寿司など)も作る人でした。
作ったものを人に分けることも好きで、その分いろんな方からまたお返しでいただいたり、
我が家にはいつも祖母の兄弟姉妹や知り合いの誰かが訪ねてきて、おしゃべりをする、そんな祖母の暮らしはとても豊かでした。
私のことも、孫唯一の女の子だからと可愛がってくれ、いろんなところへ連れて行ったり、物を買ってくれたり、とても大切にしてくれました。
家事炊事を教えてくれて、手伝うといつも褒めてくれました。
「かたいこや〜、みちこはほんとにかたいこや。」
かしこいとか、おりこうとかいい子という意味です。
そんな明るくて優しい祖母には口癖がありました。
「さみしい。」
「つらい。」
です。
「みちこがおってくれて、ばあちゃん嬉しい〜。みちこがおらんくなったら、ばあちゃんさみしいわ。」
「みちこ、かたいこやからばあちゃん嬉しい〜。みちこがどこか行ったら、ばあちゃんつらいわ。」
祖母はそんなふうに、時折とても寂しげな表情で話しかけてきました。
いつもは明るいのだけど、内にはとてつもない寂しさを抱えた人でした。
「ばあちゃん、みちこはおらんくならんよ。ずっとここにおるよ。」
そう、答えると祖母がほっとした表情になるのでした。
小さい時から祖母の部屋でとなりに寝ていた私が、高校になるときに自分の部屋で寝ることに決めたときも、
祖母は泣きそうな顔をして「さみしい。」と言ったのを覚えています。
私は胸がぎゅっと掴まれた感じがしましたが、どこかで祖母から離れたいとも感じていたので、高校からは別室で寝ました。
どうしてそんなに寂しがりやな祖母だったのか。
その寂しさの原因は、戦争にありました。
22歳で結婚をした祖母は、翌年母を出産。
母が1才になるころに祖父が戦争に駆り出され、そのまま帰らぬ人となりました。
祖母が24歳のときでした。
それから祖母は再婚することなく、１人で母を育てました。
私が社会人になって間もない頃、夕方のニュースで、
「フィリピンで、終戦を知らずにジャングルに身を潜めて生き延びた人が発見されました。」
とありました。
私と母は、へぇ〜くらいの反応だったのですが、隣にいた祖母が突然震えだしたのです。
「どうしよう！どうしよう！お父さん（祖父）だったらどうしよう！？」
私たちは、そんなことはないやろう〜と笑ったのですが、祖母は本気でした。
「今ごろ帰ってきてもらっても困る！
こんなにしわしわになって、歳もとってしまって、もう会えても誰かわからんはずや！」
と、涙目で話してくれました。
そのとき、私は胸がズキンとしました。
あぁ、祖母は待っていたんだ、、、。
祖父のことを戦死したと話していたけれど、本当は待っていたんだ、、、。
大好きな夫を、ずっとずっと50年以上も想って待っていたんだ。
祖母が時折見せる、悲しげな寂しげな表情の訳をそのとき理解しました。
私自身、自分のことを寂しくて悲しくてひとりぼっち、大切な人はいつか離れていくとか、
大好きな人はいなくなる、という思い込みを持っていたのは、祖母の気持ちだったとわかりました。
私が生まれ持ったものではなく、大好きな祖母に共感することで手にしたものなのでした。
以前、月経の紙芝居を作ったときに、この絵を描きました。
私の体のもとになる卵子の素は、母が祖母の胎内にいたころからすでに胎児である母の卵巣で作られ始めていたと知り、描いたものです。
そう思うと、私の素は、祖母の胎内にも存在をした。
祖父の声も、祖母の涙も、体のどこかに遠い記憶としてあるのかもしれない。
祖母の悲しみを受け継ぐのも仕方ないことだな、と。
私の中にあった、孤独感を手放そうと思えた瞬間でした。
（過去のブログ記事を少し編集をして再投稿しています）
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