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Helike

わたしのミューズはニンフだった.



きのうのことを忘れないように小さな箱にいれて、なるべく空気に触れないようにして、たいせつに隠しておきたい。もう二度と、思い出さなくてもいいから、覚えていたい。



かれはわたしをちらりと見もせずうつくしかった。わたしはずーっとかれだけをみていようと思っていたのだけれど、やっぱり止めて、すべてのものをみることにした。かれの視界のはしにも入らないわたしはかれの視界のすみにうつるであろう世界をみることにしたの。四月はずっとかれしかみれなかった。七月はかれをみながらたくさんのことを考えてしまった。これはわたしの癖で、なおしてしまいたいとおもっていることなのだけど、なにかたいせつなもののまえでたいせつなものに向きあえない症。

かれになにかしてほしいとかじゃあないの。「かれがそこにいればいいのね」もっとちゃんと愛したいのに「止めて措こう、悲しくなるだけだよ」「已めてしまおう、かれをすきでいるのは、辞めてしまおう」「存在を愛していればいいのでしょう?そうしていたらしあわせなんでしょう?」そうおもわなきゃいけないの「いけないなんていってないわ」『わたしが決めることなんだから』


「そこにかれがいることでまんぞくしてたじゃあないの」そうだけどさ「なによ、笑ってないで」わたしより○▲×ちゃんが興奮してかれのなまえを呼んでいたね「そういえばそうね、声は届いていたのかしらん?」わかんない、でもきっとかれは気づいていたと思う「そういう子だものね」うん『それだからすきってわけじゃないけどね』『やっぱりすきだね』「なかないでよ」あなたもじゃあないの「不細工~」あなただってぶっさいくな泣き顔「かれの泣き顔はほんとうに美しいのにね」そうそう、叱られたこどもみたいにね、「わたしたちは雑巾みたい」わたしはぞうきんみたい「マネしないでよ」真似したくてしてるんじゃない「そうだったね」そうだよ。「笑いながら泣いちゃって気味が悪いわ」わたしだってあなたと会話してるのすっごく気味が悪い『でもなんだか落ち着くね』かれになにをしてほしいわけじゃないけれど「かれといっしょにうろんを食べたり、かれといっしょに花火をしたり、かれといっしょに」七夕に雨が降るかしらって天気予報を調べたり、いちいちくだらない時間をいっし「ょに過ごしたいわ」知ってるよ。ぜんぶ知ってるよ。


“しょくざいをかかえたにんげんがすくわれているかなんてかみさまいがいにわかりようがない”って本で読んだの。かれが生きていてかれのせいで泣いているってことで、わたしはきっと救われているんだとおもった。