お金は人を狂わせる | こびないブログ

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大学4年生だった23歳くらいの頃、僕はこっそりホストの面接を受けたことがある。

なぜかというと、シンプルにお金がなかったからだ。

ホスト=稼げる

という至極単純な発想である。

当時はクレジットカードを4枚くらい持ち、それを限度額まで使いまわしていた。
そして誰にも言っていなかったが学生ローンにも手を出していた。

そこまで多くはないが50万程度の借金があった。

返済し終えている今だから言える話である。

とにかくお金がなかった。

その時期は3年間続けたバイトを辞めたばかりだったので、新しいバイトを探していた。

当時、アルバイトの面接を受けるときに僕は常にこう考えていた。

「選ばれるんじゃない。俺がアルバイトを選ぶんだ」

その考えのせいか、手をだしたバイトは続かなかった。

ホテルのバーはオールバックが似合わないという理由で2週間で辞め、スポーツジムは「やりがいがない」という理由で1日で辞めた。

そこで当時の俺に「選ばれた」バイトがホストという仕事である。

伊勢佐木町の某ホストクラブに電話をかけたら、「ギンジ」という店長がでた。

電話越しのギンジ店長は低い声で無愛想な感じがしたが、むしろホストたちを束ねるにはふさわしいとすら、なぜだか思った。

いざ面接当日、「顔のレベル」で足切りをされないように、オシャレをし気合を入れて行った。

店内は薄暗く、BGMもほんのりとしか流れていなかったが、夜の活気を想像させるには十分なほど「らしさ」があった。

僕が店の雰囲気に高揚していると、中から下っ端らしきスーツを着た男がやってきた。

色黒で髪は盛られているが、店にホストが30人いるとしたらナンバー29くらいの顔だった。

なんというか、サハギンに似ていた。






僕はそのサハギンに声をかけた。

僕「すみません、面接を受けに来たんですが、ギンジ店長は…」

サハギン「私です。」

僕「…よろしくお願いします。」

サハギンはギンジ店長だった。

サハギンと僕の面接が始まった。

「週どれくらいで入れますか?」

「週2くらいではいりたいなと」

「ホストの経験は?」

「ないです」

「どうしてホストの仕事を?」

「短時間で稼げると思いまして」

「…ええと。短時間では稼げないですよ」

「え…」

「うちにも月にものすごい額を稼いでるホストはいるけど、まず週2では無理だよね」

「…」

「頑張って週2以上は入れない?」

「うーん…厳しいかもしれないです」

「そっか、じゃあたくさん稼ぐのは難しいよ」

「分かりました。ありがとうございました」

他にも何か話した記憶はあるが、10分もかからず面接は終了した。

僕はホストの世界は怖いと思っていたので、週2以上は入れたくなかったのだ。

結局、ホストの世界に足を踏み入れることはなかったわけだがが、お金の問題は何も解決していない。

(最悪、男に掘られるのもいたしかたないな)

夜の横浜駅を歩きながら、当時の僕はそんなことまで考えていた。

お金は人を幸せにすることもできるが、狂わすこともできる。

そんなことを考えていたら、なんとなく家に帰る気もおきず、モアーズ前に立ち尽くしていた。

しばらく一人でぼーっとモアーズ前に立ち続けた。

時間にして23時30分を過ぎた頃。

前から一人の老婆が歩いてきた。

老婆は派手な服装で厚化粧をしていたが、老いを隠しきれていない。

そんな老婆が僕に声をかけてきた。

「お兄さん、生でやらせてあげるよ。1万でいいよ」

お金は人を幸せにすることもできるが、狂わすこともできる。

僕の頭にこの言葉がよぎる。

普段の僕なら無視をするところだが、この日はなぜかおかしくなっていたのだろう。

僕はわけもなくむしゃくしゃしていた。

そして気がつくと僕は老婆の相手をしていた。

「1万?…いいですよ」

「ホテル代もあなたが払うことになるけどいい?」

「はい。1万とホテル代、お姉さんが払う方ですけど」

この一言が相当癪に障ったのだろう。

老婆は怖い顔で無言のまま立ち去っていった。

そしてふと冷静になった僕は、

ちゃんとした仕事に就こうと思った。

この日から僕の就活が始まった。

おわり。