あなた自身、または家族の方が、
腎臓が悪いと言われ、戸惑っている方へ
現在そしてこれからのことに関して質問形式で概略を解説して行きます。少しでも参考になれば幸いです
(私がラジオ日本でお話ししたのとほぼ同じ内容です)
連載第9回の内容は
透析と腎移植
○腎臓移植と透析の違いはなんでしょう
○良いところずくめの腎移植ですが、欠点はあるのですか
○腎臓移植はどんなタイミングで受けられるのですか
○移植を受けるにはどのようにしたら良いのですか
○移植手術を受けた後は、どのくらいで社会復帰できますか
○最後に腎代替療法を総括して、血液透析と腹膜透析、そして腎移植の選択に一番大切なことはなんでしょうか?
です
いよいよ最終回です
お答えします
透析と腎移植
○腎臓移植と透析の違いはなんでしょう
まず、透析は腎不全をコントロールする治療法です。
失われた腎臓の機能のうち、水分やミネラル、毒素を取り除くことはできますが、従来の腎臓と同じほどの能力はありません。また、腎臓が持っているホルモン分泌能もなく、食事制限や薬剤によるコントロールをうまくやらないと、動脈硬化や心血管系合併症で命を奪われます。
それに対して
腎移植は腎不全を根本から治す治療法であると言えます。
腎臓のもつ様々な機能をすべて持っていますし、ほぼ正常の腎機能の状態に戻すことが可能なのです。
このように、腎移植は腎不全の全てを改善してしまうところが透析との圧倒的な違いです。もちろん、透析で求められるような食事制限は最小限ですし、生活の拘束はほとんどありません。腎不全の治療法として、現在では最も理想に近い治療法と言えるでしょう。
さらに今は血液型が違っても移植の成績は変わらないほど進歩しました。つまりB型の方の腎臓をA型の患者さんがいただくことができるのです。もちろん血のつながっていない他人の腎臓も拒絶されずに移植する技術が確立されました。さらに、腎臓を提供していただく方の手術法に鏡視下手術が導入されたことによって、最小限のダメージで腎臓を提供することができるようになったのです。
この血液型違いの腎移植と、鏡視下のドナー腎臓摘出術の進歩によって、最近では人生を共にするご夫婦間での腎移植が増えています。ある方は、定年後は二人で旅行をと思っていたところに、ご主人が透析になられてなかなか自由にはできなくなった。そこで奥様が腎臓を提供されて、二人で楽しく旅行に行かれたというほのぼのするお話も伺っています。
○良いところずくめの腎移植ですが、欠点はあるのですか
まずは移植医療自体が自分以外の人の犠牲と好意の上に成り立っているということです。
腎臓を自主的にくれる人がいなければ、移植することはできません。これはとても大きなことです。腎移植とは腎不全の方が「私にください」という治療法ではなくて、例えばご親族のだれかや、不幸にして亡くなられた方が「私の腎臓を使ってください」と主体的に意思表示をしていただいて初めて成立するものだということです。
また、誰からでももらえる訳ではなく、倫理的観点や臓器売買をさせない意味からも日本では生体腎移植においては親族に限られます。また、亡くなった方からいただく献腎移植では、当然ながら予定が立ちません。
次に、手術を受けるリスクです。腎移植は非常に安全な手術で、腎臓を下さるドナーの方も含めて細心の注意を払って施行されています。しかし、飛行機に乗ることが100%安全ではない様に、手術を受けるという事に全くのリスクがないわけではありません。
このように多くの患者さんは手術を怖がりますが、実は移植医療においてそれはある1日の出来事で、そこからが始まりになります。
移植の中心は手術後の拒絶反応を抑える免疫抑制療法になります。免疫抑制剤と、その副作用をコントロールする技術の進歩こそが移植医療の近年の歴史でした。
3年たって95.2%成功しているという成績は、医療行為としては素晴らしい成績で、今後はさらに良くなると見込まれています。しかしそれは、反面4.8%の方は成功していないということでもあります。
そして現状では免疫抑制剤を一生飲む必要があります。最終的に飲み続ける維持量は少なく、日々の副作用はほとんどない状態ですが、長期的には正常者よりガンの発生率が若干高いという報告もあります。
最後に、移植した腎臓が一生機能する保証はありません。慢性拒絶反応や腎炎の再発などの問題があり、年々成績は向上していて今後はさらに改善する見込みですが、10年前に生体腎移植した人の約75%機能しています。
以上、腎移植の欠点は、すべてにおいて100%保証されるわけではないということになりますね。
○腎臓移植はどんなタイミングで受けられるのですか
すでに透析をされている方であれば誰でも受けることができます。
一方で、透析をしていなくてもe-GFRが15未満であれば、移植を受けることができます。この透析を開始する前に行う腎移植を先行的腎移植と言います。
腎移植はできるだけ早くやった方が良い成績が出ていますので、先行的腎移植は理想的な治療法です。ですから慢性腎不全の早いうちからご家族全員で考えて欲しいのです。
○移植を受けるにはどのようにしたら良いのですか
移植には生体腎移植と献腎移植の2種類があります。生体腎移植は親族から片方の腎臓をいただくもので、献腎移植とは亡くなられた方のご好意でいただくものです。
いずれにしても移植を考えたら、移植をやっている施設に行ってご相談ください。
まず生体腎移植であれば、何よりも提供者であるドナーを決めましょう。そしてドナーと一緒に移植施設を受診してください。速やかに準備に入り、予定した手術日に移植を受けることができます。
献腎移植の場合には臓器移植ネットワークに登録する必要があります。実際には移植施設を通して臓器移植ネットワークに登録しまので、同じく移植施設の門をたたいてください。
献腎移植の場合には、いつ提供されるかわからないため、提供者が出た時に呼び出され緊急手術になります。
献腎移植登録に関しては日本移植学会のホームページを見ていただければ詳しく書いてありますのでご参照ください
○移植手術を受けた後は、どのくらいで社会復帰できますか
まず手術をして退院するまでが2週間から1か月です。初めは免疫抑制剤が多いので、退院しても生活制限があり、毎週病院に通います。
3か月くらいに、感染症などの免疫抑制剤の合併症が出やすい時期があるので、そこまでは厳重に通院検査が必要です。
しかしその後順調であればさらに薬が減って、半年した時には健康人と同じ生活が可能になります。ですから全く通常の生活に戻るには4ヶ月から6ヶ月はかかると思っていてください。
○最後に腎代替療法を総括して、血液透析と腹膜透析、そして腎移植の選択に一番大切なことはなんでしょうか?
まずは慢性腎臓病を早期に見つけて、自分の重症度を把握して病気の進行を予防すること。
しかし、もし進行してしまった場合には、3つの腎代替療法に関してご家族やご親族と相談を始めてください。
そしてご自身の生活とご家庭の環境に合う治療法がどれなのかをよく話し合って欲しのです。
お話しした通り、3つの治療法における生活上の努力は全く違います。
腎移植は腎臓の提供がなければ不可能ですし、
血液透析は病院の拘束時間と通院に時間を奪われます。そして腹膜透析は自己管理能力が問われるわけです。
どれも公平に選択する権利は患者さん自身にあります。偏見を取り除いた正しい知識をもって早い時期から準備することが大切です。
そのためにも慢性腎臓病における自分の重症度、すなわち今どのくらい腎臓が悪いのかを常に把握していなければなりません。そして、3つの治療法に精通した相談できる医師を持つことも重要です
以上で今回の私の話は終了です。
至らない部分が多々あって恐縮ですが、少しでもイメージが湧いていただけたら嬉しいし、CKDの早期発見から腎不全になるかたが少しでも減少することを望みます。
そして、不幸にも腎代替療法に至ったとしても、より素敵な生活を送っていただけることを切に望んでいますし、何かのお役に立てたら嬉しいです。