「仙台三越前で光のページェント募金活動をする」
と娘が言うので、娘に内緒で募金活動の姿をひと目見ようと夫くんにお願いして連れて行ってもらった。
2週間前に自身最高値の39.9℃の高熱を出し、その後咳が酷すぎて通院したところマイコプラズマだった事が判明。
最初は余裕と思っていたのに、日を追うごとに体力が奪われていく。
ちょうどボランティア活動がスタートする時間ピッタリに三越向かい側のパーキングへ車を駐車。
普段なら何てことない定禅寺通りの交差点がやけに長い。
たまらず夫くんに肩にかけていたバックを渡す。
身軽になったはずなのに速度は全く上がらない。
なんとか向かい側に渡切り、三越前で募金活動をしている人がいないか様子を見る。
遠くからも「募金をお願いします」の大きな声が聞こえる。
気持ちが高ぶる。
視界に揃いの青のジャンパーを着た4人の人の姿が目に入る。
。。。いない。。。
4人中、2人は社会人らしき女性、2人は娘とは違う高校の制服に身を包んだ女子高生。
時間を確認してみる。
娘がボランティアをすると言っていた時間は10分も過ぎている。
交代していないはずはない。
場所が変更になったのだろうか?
仙台の街中で募金活動をする場所はだいたい決まっている。
夫くんにお願いして、フォーラス前まで行ってみる事にする。
ディズニーストアの前の交差点で信号待ち。
募金を呼びかける声は聞こえない。
夫くんに帰ろうと言われても、ここまで来たからには娘の姿がひと目見たい。
「お願い、藤崎まで」
そう告げて交差点を渡る。
フォーラス前では募金活動はしていなかった。
経験上、ここにいなかったら次は藤崎だ。
呼吸がしずらい。
身体が鉛のように重たい。
夫くんに悟られないように歩く。
神様、お願いです。藤崎前に娘がいますように。
ただ私は娘の頑張ってる姿を見て募金箱に募金したいんです。
娘の喜ぶ顔が見たいんです。お願いします。
お茶の井ヶ田の前をそんな事を思いながら通り過ぎる。
藤崎の角に来た。
声が聞こえる!
揃いの青のジャンパーが見える!
けれど、私の目には男の人が2人と男子高校生らしい2人の男の子しか映らない。
もしかしたら、あの人達の奥に影になって娘は隠れてはしないか?
有り得ないけれど、もしかしたらという可能性を口にしてみる。
夫くんに「身体が辛そうだよ。顔も辛そうだ。もう帰ろう」と促されて来た道を戻った。
帰り道は行きよりも歩みが遅い。
どんどん周りの人に追い越されていく。
休みたい。
カフェに入ってひと息ついたら、もっとその先のアーケード入口や仙台駅前まで行けたかも?
悔しさが込み上げる。
なんとか三越前まで来た。
やっぱり娘とは違うさっき見た高校の女子高生が募金活動をしている。
「よろしくお願いしま~す」と高い声で募金を呼びかけている。
せっかくここまで来たのだからと、財布から小銭を取り出し夫くんに募金するよう託した。
私はその間ベンチに腰掛ける。
「ありがとうございます」
揃った声のお礼が座っている私にも届く。
夫くんが戻ってきて、手を貸してもらい、よっこいしょと立ち上がる。
普段なら何ともないこれだけの距離がこんなに遠いなんて。
体力がガックリと無くなっている事に驚きを隠せない。
夫くんはもっと心配していて「病院を変えてみたら?」「違う病気かもしれないから健康診断を受けてみたら?」「仕事はもう行くことない」と立て続けに話しかけてくる。
駐車場にたどり着き、車に乗り込む。
少し車を走らせると電力ビル近くのアーケード入口に青のジャンパーの集団が見えた。
ハッキリと確認できなかったが娘だと思いたかった。
車内で涙が込み上げる。
気づくと私は声を上げて泣いていた。
泣き始めると咳も出る。
鼻は鼻水で詰まっているし、咳き込んでいるから呼吸が苦しい。
夫くんに「また機会があるさ、それまでに身体を治そう。まずは里枝ちゃんの身体だよ。悔しいならまずは元気にならなくちゃ」と言われ、また涙が溢れる。
「募金活動中はスマホ使えないみたい」
そう言っていた娘から「電力ビル近くで募金活動やってるよ」とLINEが届いた。
あぁ、やっぱりあの青のジャンパーの集団は
娘だったのか!
LINEを読んでまた泣いた。
娘の頑張ってる姿を応援できないなんて、なんて悔しいんだろう。
高校を卒業したら就職すると言っている娘。
これまで学校生活で頑張っているものがなかったけれど、生徒会役員を引き受けてから娘の態度が変わった。
楽しいって言っている姿を見守りたい。
泣き疲れて甘い物が欲しいって言ったら買ってくれたタピオカミルクティー。
ミルクティーばっかり吸い込んでタピオカが底に残ってしまうのはどうにかならないんだろうか?