落合博満から学ぶ『プロフェッショナルとは何か』 | ITベンチャーで働く社員から、就職活動に勤しむ学生へ

落合博満から学ぶ『プロフェッショナルとは何か』

 落合博満と聞いて「オレ流」「我が侭」という言葉が思い浮かぶかもしれませんが、選手として監督として素晴らしい成績を納めており、野球人として素晴らしい人物であるという点については、あまり異論は無いかと思います。

 今回はプロ野球選手・落合ではなくプロ野球監督・落合に焦点を充ててプロフェッショナルとは何か、についてお話をしたいと思います。

 さて、イチローに焦点を充てた時に『プロフェッショナルになるのは簡単だが、プロフェッショナルでい続けることは難しい』と言いました。このプロフェッショナルという部分を、いろんな地位、役職に変えれば違った意味が出てくると思います。プロ野球選手、リーダー、代表取締役社長、母親……あらゆる立ち位置が、この言葉の奥深さを証明しているような気がします。では、落合監督に焦点を充てる時に参考になる言葉とは何でしょうか。私は就任1年目に言った公約に、全てが集約されていると思います。

「この1年は補強を凍結し、個々の選手の能力を10%底上げして日本一をとる」

 この言葉こそ、落合監督の考える「プロフェッショナル」の真骨頂であり、リーダーの言葉として痺れるものがあると思います。

 例えば、あなたが中日ドラゴンズの選手だったとして下さい。新しく赴任してきた監督が就任早々「今の戦力では優勝は出来ない」と言ったとしたら、あなたは何と思いますか。自分自身の力量不足を嘆くでしょうか? それよりも、自分の能力を否定されたような気がして、腐るか阿呆らしくなるか馬鹿馬鹿しくなるか、どれかではないでしょうか。

 もっと解り易い例で言いましょう。皆さんが例えばサラリーマンだったとして、とある部署に所属していたとします。その部署に新しく部長が就任されたとして、開口一番「この部署は売上が悪い。そのために、外部から人を雇った」と言われて、果たしてモチベーションが上がると言えるでしょうか。決して上がりません。しかし、それが今までの野球の「常識」でした。落合監督は、まずこの「常識」を打ち崩したのです。

「この部署は売上が悪い。しかし、外部から助っ人を頼むようなことをしない。皆の持っている力を10%増やせば、自然と売上は伸びる」

どうでしょうか? こう言われると、頑張ろうと思いませんか。

この例として、根底に流れるものが一緒なのは02年度に阪神タイガースに就任した星野仙一と言えるでしょう。徹底して外部の血を輸血し続け、星野氏が就任した時と辞任した時ではたった2年間しか就任していないのにも関わらず3分の1の30人以上が入れ替わりました。これを先ほどの例で言えば「この部署は売上が悪い。出来の悪い奴は徹底してクビにしていく」と宣言し、それを実行していくようなものでしょう。

落合監督にしろ、星野監督にしろ、両方とも「チームを強くする」ことを念頭に、チーム作りしています。そして両者とも「プロフェッショナルなんだから」という点でも共通していると言えるのではないでしょうか。星野監督の場合は「プロフェッショナルなんだから、優勝しなければいけない。優勝を夢だとか、出来ないと思っている奴はいらない」ということでしょうし、落合監督の場合は「プロフェッショナルなんだから、優勝するために君達の能力をもっと活用しないといけない。だからあえて補強は止めて、みんなの力がもっと伸びるような練習をしよう」ということでしょう。つまり落合監督が言いたいのは「プロフェッショナルは、上を目指さなければいけない」ということではないでしょうか。上を目指すために何をすれば良いかと考えた時に、あの発言が出たのだと思います。

実際、彼はプロ野球選手として上を目指すために、その生涯を捧げたと言っても過言ではありません。大好物だった刺身は、お腹を下すといけないからという理由でプロ入り後は一切食べなくなりました。また彼は自分のフォームが悪いと気付くと先輩後輩関係無く修正を続け、それは巨人から日本ハムに移籍した晩年でも変わらなかったと言われています。また落合監督の息子が、夜中にバットスィングの音で目が覚めて窓から庭を覗いて見るとスィングしている落合監督だったなど、逸話は多数存在しています。

では、なぜプロフェッショナルは上を目指さなければいけないのでしょう。答えは簡単で、プロフェッショナルでい続けることが難しいからです。プロ野球の場合、毎年定期的にチーム内にプロフェッショナルが7~8人入団してきます。助っ人外人も入団するでしょうし、FAでも入団してくるでしょう。それらに打ち克ち、今いるポジションを維持するためには自然と上を目指さざるを得なくなるのです。

良い例として、01年に入団した阪神の赤星選手の例が挙げられます。02年オフに広島から金本選手が入団し、星野監督は何度も「外野は金本、桧山、濱中。赤星は4番手」とマスコミを通じて公言していました。実際、赤星は走れても打てる選手というイメージは薄く、優勝を狙うためには已む無しと見られていましたが、蓋を開けて見れば03年度は打率3割を超え、盗塁も61盗塁を記録し、4番手どころか不動のセンターとして定着しました。外野は「金本・赤星」が定着したのです。07年現在、阪神在籍選手史上最も早いか3番目に早いかで1000本安打を達成しました。平成の福本豊と呼ばれる日も近いのではないでしょうか。

どれほど凄い選手と言え、いつまでもポジションが安泰では無いというのは海を渡ったプロ野球選手―伊良部、井川、松井稼頭央、新庄らが証明しているではないでしょうか。また同時に、郷に入れば郷に従えと言わんばかりに、どれほど凄い選手でも1から名声を勝ち取らなければいけないというのも証明しているでしょう。

ダイエー再建を期待された林会長ですら失格の烙印を押されて、現在では取締役副会長に降格しています。BMWの初代女性社長を務めた人間ですら、畑違いお門違いと罵倒されるのです。それほど成功し続けること、成果を収め続けることは難しいのです。

落合監督の言葉は、だからこそ教えてくれるのです。プロ野球選手で、プロ球団に所属している以上は優勝することは当然。優勝するために戦力を補強するのは簡単。しかし、それでいいのか? と。どの球団も凌ぎを削って優勝を狙ってくる。それを迎え撃つために、補強だけで十分か? と。決してそうではなく、上を目指すためには自分自身がもっともっと上のレベルに行かなければいけない訳です。組織のレベルが上に行くためには、その組織に所属している人間が上を目指さないといけない。それはつまり、プロフェッショナルでい続けるための「難しさ」の証明でもあるわけです。

皆さん自身、ここまで自分自身を追い込んだことはありますか? もっと言ってしまえば、皆さん自身の力は今現在どれくらいあって、それを10%伸ばすことは可能ですか。可能ならば、なぜ普段から伸ばそうとしないのか。不可能なら、その原因は何か。それを考えてこそ、壁は越えられ、プロフェッショナルでい続けることが出来るのだと私は思います。