『リーダーが優秀なら、組織も悪くない』 | ITベンチャーで働く社員から、就職活動に勤しむ学生へ

『リーダーが優秀なら、組織も悪くない』

さて、いよいよ最後のセリフです。今までは主に組織論を展開してきましたが、今度は「なぜ、働くのか?」なども織り交ぜながら、お話したいと思います。

このセリフは映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』のクライマックスで青島刑事が犯人に浴びせる有名なセリフですが、まずこのセリフが生まれる背景を説明したいと思います。

沖田管理官が更迭され、その後釜に就任した室井管理官は現場の捜査員に語りかけます。

「犯人はこの辺の地理に詳しい。地図に載っていない場所に隠れているはずだ。地図に無い場所を教えてくれ。マンション、空き家、どこでも良い……捜査員に関わらず!」

 この言葉に現場の人間は一念発起し、犯人が隠れていそうな場所を次々に室井管理官に報告します。そして、その場所へと全捜査員が急行するのです。青島もまた、犯人が隠れていそうな場所へ向かい、見事犯人がいた痕跡のある部屋を発見します。

「レインボーブリッジに急行します!」と叫ぶ青島。

 レインボーブリッジは再三の警察からの要請にも関わらず、封鎖されていません。そこへ犯人らしき人物が載ったトラックが1台通過します。青島はそれを追いかけます。暫くトラックが走るとやがて止まり、そこから3人組の男たちが降ります。

「お前達の組織には、リーダーがいるんだってなぁ!」

「あぁ……リーダーが優秀なら、組織も悪くない」

 青島は、そう自信満々に答えますが、3人組の男たちは薄ら笑いました。

「リーダーなんかいると、俺たちの個性が奪われちまうんだぁ!」

「俺たちの組織にはリーダーがいない! 最強の組織だぁ!」

 そう叫ぶと男たちは車に乗り、走り去っていきました。それを見つめる青島。すると突然、閃光弾が爆発してあっという間に男たちは確保されてしまいました。

「俺たちも、自分の判断で来た」

 そう答えるのは、SATの隊長です。

 一方、捜査本部では犯人逮捕の知らせを聞き入れ、全員が狂喜乱舞します。しかし浮かない顔をしているのは警視庁―会議室の人間です。

「これからが大変だな。勝手に橋を封鎖して―」

「責任を取る。それが私の仕事だ」

 そう断言する室井管理官。そして渋い顔で、彼を見つめる会議室のメンバ。

 どうでしょうか? この『リーダーが優秀なら、組織も悪くない』というセリフに込められた背景には、室井管理官の「捜査は現場の人間に任せる」という強いリーダーシップに支えられた現場の人間からの、強烈なまでの「室井支持」を訴える熱いメッセージです。

 皆さんはよく、だらけたサークルの会議で「もっとリーダーシップ出せば良いのに」とか、上の人間にオベンチャラばかり言うチェーン店の店長に「リーダーシップは無いのか」と影で悪口を言ったり、或いは安倍首相に「所詮、坊ちゃんにリーダーシップなんて無理だ」と思ったり、そんな経験はありませんか?

 まず言っておかなければいけないのは、リーダーシップに明確な定義などありません。組織論として、リーダーシップに関する定義は今を持ってなおされていないのです。それはつまり様々な形でのリーダーシップが存在し、一概に言えないことを意味しています。皆さんが思い浮かべるリーダーシップのある人間とは、どんな人でしょうか? 自分をグイグイと引っ張ってくれる人、働く易い環境を提供してくれる人、この人について行けば間違いないと思わせてくれる人―ほら、ここにいる人だけでもバラバラでしょう。

 皆さんは、この組織学を勉強するまで「組織というのは悪いものだ」「組織は人を歯車にさせてしまうものだ」と思い込んでいたと思います。しかし、リーダーさえ違えば組織は歯車から人が働く最適な環境へと様変わりすると思いませんか。全ては上に立つ人間、人間学で言うところの「器」次第だとも言えます。最も、リーダーが優れていなくても組織で働く中間層が頑張っている例なんかもありますけどね。

 そこで、皆さんにお聞きしたいことがあります。就職活動中の方が沢山おられると思うのですが、皆さんが会社を選ぶ基準って何ですか? やりたい仕事が出来る、自分を成長させることが出来る、色々ありますね。では、反論します。やりたい仕事が出来る部署に就けなかったら? 成長出来なかったら? 今まで、一度でも考えたことはありますか。

 就職活動をした人達は、あたかも偉い人達で凄い人達のように皆さんは捉えてがちですが、どうしてそんな凄い人達は会社を直ぐ辞めてしまうのでしょう。第2新卒なんて言葉が持て囃され、未だに金融・証券・旅行業界の離職率は驚くほど高いです。

 答えは簡単ですね。会社=組織をブランド名で決めているからじゃないですか。社名出してみましょうか。株式会社ドリコムという、京都発で今は東京にオフィスを構えるベンチャー企業があります。上場当時は、株価は600万円ぐらいでしたが、今では20万円を推移しています。単純に言ってしまえば、この中に経済学の人がいるから後で確認して欲しいのですが、第3者割当増資や株式分割などをしていなければ会社としての価値は30分の1になっているんです。30分の1ですよ。皆さんが今まで歩んできた20年間の人生を株式会社だったとして、その価値を株に換算した時に、このドリコムという会社はたった数年で「30分の1の価値しかない」と断言されたんです。僕なら自殺していますね、倒産です。しかし、この会社はベンチャーを志向する学生に人気があります。なぜかと言えば、ドリコムビジネスプランコンテストという独立を志望する学生に向けた大会を催していて、もっと言えば2006年に竹中平蔵総務大臣から総務大臣賞を戴いているからです。しかし、もう今までの講義で解ったかと思いますが会社=組織にとって大切なことは何でしょうか。外面? 箔? 株価? 社名? 違いますよね。その組織で働く人間がどういう人間で、何を思って(=目の標)働いているか、ではないでしょうか。だから株式会社ドリコムという組織に、どういった人間が働いているか知らないので何とも言えません。株価が下落しているから危ない、というのは経営学的に危ないのであって、組織学の観点からすれば危ないかどうかの判断は付けようがありません。ということは、どういう人物が何を思って働いているか解らないわけで、そういう組織に就職するということは大変なリスクであるということを、この際は知って貰えたらな、と思います。

 もう1つ、具体的な例を挙げましょう。私の友人で、ベンチャー志向の高い人間がインテリジェンスという会社の内定を貰いました。そこで自分を高めて、いずれは独立したいと考えていたようです。そこで私は聞きました。今のインテリジェンスの社長は誰でしょうか? と。彼は一瞬詰まって、解りませんと答えました。可笑しな話です。インテリジェンスという巨大組織の長です。彼を組織のリーダーとして、それに付随して取締役、専務、常務などの巨大会議室の人間がいて、インテリジェンスという組織が成り立っているのですから。さらに私は聞きました。その組織に所属することで、あなたは自分の何をどんな風に成長したいと思い、またインテリジェンスという組織であればどんな部分を成長させることが可能なのか。これも答えられません。本当に可笑しな話です。新卒採用とはプロ野球で言ってしまえばドラフト会議のようなもので、彼の取っている行動とは、ドラフト目玉候補の中田翔君が「自分を成長させたい!」と言って、巨人に行くようなものです。誰からもツッコミが行くでしょう。巨人にはサードに小笠原、ファーストに李がいて2~3年は絶対に出番が無い。だからオリックスに行け、と。巨人に行くより比べ物にならないくらい試合に出られるぞ、と。でも、彼はインテリジェンスに内定を貰ったまま、今を過ごしています。なぜか? プロ野球のように情報が公表されていないからですよね。この組織にはこういう人がいて、こういう特徴があって、こんな風に自分を成長させてくれる。この組織にはこういう人がて、こういう特徴があって、絶対にこの人の下では仕事が出来ない。そういう見方が出来ないのです。だから苦労する。就職活動に苦労するのではなくて、入社してから苦労するのです。

 組織に所属するとは、そういうことだと思います。自分の能力を伸ばしてくれる人なら歯車でも良いかと思ってしまうでしょうし、自分の能力を押し殺してしまう人なら自由闊達な風土でも最悪に思えてしまう。映画『踊る大捜査線 THE MOVIE 2 レインボーブリッジを封鎖せよ!』の中で、沖田管理官が青島に「組織に感情は必要無いの」と断言しましたが、この「リーダーが優秀なら、組織も悪くない」というセリフには室井管理官に対する絶大な信頼が込められています。まさに「組織には感情が必要」なのです。