35歳、独身、無職、彼氏なし。
私がリクルートを退職し、
コーチとして独立する以前の状態はまさに崖っぷちでした。

「このままじゃ、私、どうなっちゃうんだろう。」

 こんな言葉が悶々と頭の中で繰り返される日々。
貯金は減っていく一方、しかし、先は見えず。
考えすぎると悪いことばかり思いついてしまう。
もともと楽観主義的に生きてきた私は、
「こういうときは、とにかく寝るしかない!」と考え、寝てばかりいました。
1日で20時間くらい寝た日もあるほど、怠惰な生活をしていたのです。

登録していた数社の人材紹介会社からは、
いくつかの企業の人事・教育部門で紹介がありました。
これまでの私は、面談さえいけば採用される自信があったのです。
自称面談キラーというやつです。
しかし、どこも履歴書の段階で、面談までいかず。
何が悪いのかも分からないまま、時間だけがすぎていく。

そんなある日、ある人材紹介会社から思いもよらない
提案があったのです。
「実は、正直に言うと、閏間さんに企業を紹介する
イメージが沸かないんですよね。会わせたい人がいるので、
会ってみませんか?」
紹介されたのは、経営者専業のプロコーチでした。
人材紹介会社ですから、当然、企業と個人を
マッチングしてマージンが発生します。
個人で独立している人を紹介したところで、
この方にはなんのメリットもないはず。
それでも「会わせたい!」という気持ちが
嬉しくて、すぐに会うことにしました。

その男性は経営者だけをコーチング
しているというだけあって、とにかく目力が強く、
迫力満点の存在感でした。小一時間ほど話した最後に、
「あなたはコーチとして独立した方がいい!!」と
パワフルな一言。
ギラギラとした熱い眼差しで圧倒的な迫力だったので、
思わず、私もその気になっていました。

コーチとして独立することを決めたはいいけど、
何から始めて良いのやら…。

その当時、コーチングを学び始めてから
6年ほど経っていたのですが、
資格は持っていませんでした。
この6年間、資格はなくても、
何故かクライアントが「0」になるという
ことはなく、ただ、楽しくてしょうがないからコーチング
を続けているという感覚だったのです。
コーチングとはそんな距離感でしたから、
まさか、仕事にするなんて夢にも思っていませんでした。

貯金を食い潰している生活の中で、
資格取得のためにお金を使う勇気もなく。
またもや悶々とした壁にぶち当たります。

いきなりプロコーチといっても資格がなかったら
誰にも相手にされないことくらいは想像できました。
「リクルート在籍中に資格とっておけば良かった」
と後悔しても後の祭りです。

そんな悶々とした日々がまだまだ続く中、
「こんなときは、コーチをつけるしかない!」と、
貯金を切り崩して生活しているにも関わらず、
コーチングをともに学んだ仲間と契約をしました。

こんな崖っぷちの状態でしたが、
コーチングの時間が終わると、いつも決まって
「何があっても、私は大丈夫!」という気持ちになれたものでした。

「これまでも色々な大変な思いや苦しい局面があったけど、
どういうわけか、助けてくれる人たちが現れて、
なんとか生きてきている。だから、今回もきっと大丈夫!」
そんな風に考えるようになりました。

そんなある日、
「うるる(私のニックネーム)、会社辞めたなら、
ある人が始めようとしているイベントを手伝わない?」
と突然のお誘いがありました。
少しでもお金になるなら、
バイト気分でやってもいいかな~、と思い、
その方に会うことに。
すると、その活動は、なんとボランティア!!
お金には全くならなかったのです。

「なんだよ~。」
とがっくりしていたものの、その方(実行委員長)が
やろうとしているイベントはとっても面白く夢のある話でした。
コーチングフェスタという日本で最大規模の
イベントを立ち上げようとしていたのです。
参加者は目標500名。
大学のキャンパスを丸一日借り切って、
コーチング業界の大御所と呼ばれる方達をゲストに招いて、
いくつものコーチングセミナーを同時に開催する
という話はワクワクするものでした。
しかも最初の1回目ということで、
「無からつくりあげること」が大好きな私は思わずウズウズして
「やります!」と、その場で承諾していました。

「35歳、独身、無職、彼氏なし、
仕事はボランティア。って、どうなのよう~。」

と思いつつ、
その期間はコーチングフェスタの準備と運営にのめりこみました。
私がコアスタッフとして参加したのがイベント当日の2か月前。
にもかかわらず、何も決まっていない、という状況。
「大丈夫かよ~。」と不安な気持ちもありました。

でも、どうしたことか、
「このイベントは絶対に成功させなきゃならない!」という
強い思いが芽生えてきたのです。
大嫌いな事務作業を夜中の2時3時までかけて行う日が何日もありました。
「お金になるか、ならないか」なんてどうでもいい感覚でした。

「日本で初めての大きなコーチングのイベント」
に関われること、その立ち上げメンバーであること、
そのこと自体が喜びだったのです。
今思えば、大義だけで動いていたのだと思います。
結果的には、このコーチングフェスタが実は、
人生を変える大きな転機になったのです。
このイベントの発起人であり、実行委員長が
現在の夫なわけですから。
夫とはコーチングフェスタがきっかけで出会って
3か月で付き合うことになり、
付き合って1か月でプロポーズされました。

出会って1年も経たないうちに入籍・結婚。
その間にコーチングの資格コースにも進むことになりました。
結婚と同時にコーチングを仕事にしていく道が開かれたのです。

そして、これまた結婚したらすぐに妊娠して長男を出産。
「35歳、独身、無職、彼氏なし」の状態からの
大きな大きな変容を遂げた感じです。

その変容の瞬間、
交際を申し込まれたとき、不思議な感覚がありました。

「うるる、僕と付き合ってみない?」とかなんとか、
そんなセリフだったと思います。

そのときに何故か、訳も分からず涙があふれてきました。
まるで雷に打たれたような強烈なひらめきのような、
直感のようなものがあったのです。

「あっ。もう私、闘わなくてもいいんだ。」

と。涙があとからあとから溢れて、止めることができませんでした。

この瞬間以前、私は「見えない何か」と
闘っている感覚がずっとあったのです。
それは、営業数字を追う戦いかもしれません。
男性社会に対する戦いかもしれません。
なにかははっきりと分からないのですが、
「見えない敵」と闘いながら生きていたのでした。

そして、彼から交際を申し込まれた瞬間に、
その「闘い」は終わったのです。

この一連の「崖っぷち」体験は
「闘い」を終わらせるためのアラームだったのかもしれません。
会社を辞めて、何も武器(リクルートという会社、肩書)を持たなくなった私は、
「闘い」を終わらせる、ある意味、「大きな開き直り」の境地にたったのかと。
「なにも失うものはない!どうにでもなれ!」という感覚でしょうか。
開き直ったら、天に身を任せる、委ねる以外の選択肢がありませんでした。
崖っぷちの底をついたら、あとは昇るしかありません。
その昇っていく過程は、まるでいくつものドアが私の目の前で、
次から次へと自動で開いていくような、そんな経験になりました。
「崖っぷち」は、人生の大きな転機のサインかもしれませんね。