ここ最近再びクローズアップされている産業の空洞化ですが、空になりつつあるのは
産業という大きなレベルの話だけではありません。実際に目に付く「空洞化」として、
オフィスビルにテナントが入らないor入っても賃料が安いという現象がまさに
進行中です。以下のデータをご覧下さい:
http://www.websanko.com/officeinfo/officemarket/pdf/1003/market_data.pdf
まず目に付くのは、画面左側で<右肩上がり>になっているグラフです。この時代に
なんと景気の良いデータ・・・かと思いきや、オフィスビルの空室率なのです。
2005年1月、竹中経済財政相(当時)は「もはやバブル後ではない」と宣言、その後
景気の回復に伴い企業のオフィスビルの需要も回復していきました。その少し前に
2003年問題とささやかれていたオフィスビルの過剰供給の懸念も、この頃は空室率の
下落とともに事実上立ち消えています。そして邦銀や海外の投資家などがこぞって
不動産融資・投資に走った結果発生した<ミニバブル>は、2007年にピークを
迎えました。この頃私の周囲でも、オフィスのオーナーから賃料の引き上げを
通告されたという話はよく耳にした記憶があります。
しかし2007年に顕在化した米国のサブプライムローン問題、そして翌2008年の
リーマンショックを経て、市況のトレンドは完全に逆転しました。前回の空室率
上昇期(2001-2004年)と比べても、上昇程度に差があるのは一目瞭然です。
最近一部に持ち直しの気配が出てきたものの、都心部などに限られる上に、
従来の水準に戻るにはかなりの時間を要するものと思われます。
次に賃料については、全体としては横ばいで、そんなに下がっていないように
見えます。これはまずビルオーナーが当初の収益計画に基づく賃料を容易には
下げたがらない点が挙げられます。頭では<空気>が入居していても収益に
貢献しないことがわかっていても、希望的観測から賃料を下げる決断がなかなか
できない・・・ということは、人間の心理としてやむを得ないかもしれません。
また、このデータが<募集表示賃料>に基づくものであることも背景として推測
することができます。既存のテナントが移転をほのめかした場合、オーナー側は
引き止める為に割安な賃料での継続を提案せざるをえません。そうして継続契約に
なった場合空室にはなりませんから、下がった賃料はこのデータには反映されない
というわけです。あと直接の賃料交渉においては表示賃料よりもかなり割引きが
適用される点、フリーレント(賃料無料)期間が数ヶ月あるという点も、現実に
起こっている話です。
これらの状況は、単に不動産不況というだけではありません。雇用面では、この
2-3年で多くの建築・不動産会社が倒産に追い込まれたのは記憶に新しいところ
ですが、2005年に568万人だった建設業就業者数は、今年7月時点で503万人と、
1割以上減少しています(出展:総務省統計局労働力調査、2005年の人数は同年
年間平均値)。全産業の就業者数が6356万人から6271万人(出展:同上)と2%
程度しか減っていないのと比較すると、やはりその数は突出していると言えます。
かつ周辺の産業としてビル管理業、飲食業、建築素材メーカー、あるいは10年の
歳月を経てようやく不良債権問題を克服した銀行など、産業の空洞化と同様に
広範囲の分野に悪影響を及ぼします。実際にコスト削減を目的とした事務所移転や
縮小も相次いでいますが、各企業とも生き残る為とはいえ、この経済活動の拡大に
つながらない<空洞化>は、巡り巡って我々全体に跳ね返ってくるのかもしれません。
(北条)