カバーCDを作るべく、自分たちでアレンジ、レコーディングをしたが、まったく納得できないものが出来上がったとき、Dr.HB氏をプロデューサーに迎えることを考えました。

Dr.HB氏に自分たちでレコーディングした音源を聞いていただくと、「これは売り物にならない」とはっきり、おっしゃられました。

「これを出したら演奏や歌が下手だと思われてしまうよ。」
かつて、ライブでご一緒した際に、僕たちの演奏を聞いていただいたことがあったので、それとの比較でおっしゃってくれたのが分かり、へこみながらも、演奏力に自信を持てたお言葉でした。

そこで思い切ってプロデュースの依頼をしてみました。すると、Dr.HB氏は快く受けて下さいました。

早速、収録曲をどうするかという話に。

カバー曲の役目について、私は2つのあり方があると考えます。ひとつは有名曲をアレンジや歌の個性でまったく別物にして、その新鮮さを楽しむこと。ふたつ目はアルバム曲や過去の曲など、一部の方が知っている曲を、聞いたことがない方へ提示をするということ。

今回のCDコンセプトは後者寄りにしようということになりました。

そこで私が敬愛するスピッツの曲はどうしてもやりたかったので、今まで僕の知っている限り、誰もカバーしていない曲を選びました。

私が選んだのは1995年発売のアルバム「ハチミツ」に収録のナンバー「愛のことば」です。
「愛のことば」はプロモーションビデオが作られているくらいなので、アルバムの中では核となる曲でした。
このアルバムを持っている方にとっては印象に強い曲なのではないでしょうか。

ドラマチックな歌詞と、切ないメロディーで小説でも読み終わったかのような壮大さを感じられるミディアムバラードです。

「くだらない話で安らげる僕らはその愚かさこそが何よりも宝物」

難解な詞の中でこのフレーズだけが分かりやすく、突然に胸に飛び込んできます。

属するコミュニティーの中から抜け駆けをした2人は「愛のことば」を「探しつづけ」ている。
そこに「愛のことば」を投じることは、その関係性を何か違うものに変えてしまう。その怖さと希望の狭間で揺れ動く、恋のはじまりの歌。

この曲が出来上がったとき、Dr.HB氏は「この曲はどうアレンジしてもいい曲にしかならないね」とおっしゃっていたほどの名曲です。

この曲の収録が決まり、次の収録曲を決めるときに、Dr.HB氏から「カノープスにぴったりの曲がある」と紹介していただいたのが石嶺聡子さんの「マフユノハナビ」。

つづく
「CHE.R.RY」「バスルームで髪を切る100の方法」「楓」「透明人間」のレコーディングでカバー曲をレコーディングする難しさを味わい、次のレコーディングの予定も前に進めることができなくなりました。

実は、当初は8曲入りのアルバムになる予定でした。
上記の4曲に加え、DREAMS COME TRUEの「愛してる愛してた」、ユニコーンの「雪が降る町」、小田和正の「ラブストーリーは突然に」、美空ひばりの「お祭りマンボ」のアレンジを進めていたのです。

僕たちの課題はアレンジ力、レコーディング技術にあると感じていました。
それについては、一朝一夕に身につくものでもありません。しかし、発売はなるべく早めなければならない。
どうするか、考えていたときに、プロデューサーを迎えることを思いついたのです。

ミスチルに小林武史、スピッツに笹路正徳、JUDY AND MARYに佐久間正英、椎名林檎に亀田誠治というような名プロデューサーがいます。僕たちにも、外から客観的にアドバイスをくれるプロデューサーという存在が必要なのではないかと思い始めたのです。

そこで、今回迎えたのが、Dr.HB氏。様々なインディーズアーティストをメジャーに送り込んだ、名プロデューサーです。以前、Dr.HB氏が僕たちのライブのPAを勤めてくださったことがあり、そのご縁を頼りにお願いしようと思ったのです。

まず、ご連絡させていただき、レコーディングした4曲を聞いていただきました。
そこで、いただいたお言葉は「これは売り物にならないね」。

つづく
「CHE.R.RY」「バスルームで髪を切る100の方法」のアレンジに続いて、東京事変の「透明人間」、スピッツの「楓」とアレンジが次々に決まりました。

そして、昨年の8月、レコーディングを敢行したのです。

レコーディングしたのは上記に列挙した4曲。

「レインボウメーカー」に収録してある「星のスピード」や「月に逢いたい」をレコーディングした場所で、同じやり方でレコーディングしました。

ところが、レコーディングした作品の出来上がりを聞くと、まるで納得行くような出来ではありませんでした。

同じやり方でレコーディングしても、オリジナルとカバーではこんなにも違うのかと愕然としたのです。

予定では昨年秋に開催した「2√s」でCDを発売する予定でした。
しかし、このクォリティーではどうしても発売することは許せなかったのです。

そのことをレコード会社社長に電話で伝えると電話の声から眉毛がハの字になっているのが分かりました。

やはりカバーは自分の作った曲ではないけど、自分を映す鏡です。自分の言葉やメロディーで伝えられない深層心理の、形にならないものを表現したものだと思います。
そういう意味では、こんなアレンジで薄っぺらい自分を出すのは耐え難かったし、何よりもリスペクトしているアーティストに失礼です。

ここはきちんとカバーというものと向き合うことでバンドに足りないものと向き合おうということになったのです。

この時点で、CD発売まであと10ヶ月。
一度アレンジの挫折を味わって、次にアレンジ始めたのがYUIちゃんの「CHE.R.RY」。

僕がライブでアコギをかき鳴らす姿がYUIちゃんを彷彿とさせると、友人に言われたことがありましたし、
「こーいーしちゃったんだっ」ってフレーズはまさに恋の予感を感じたときに脳内リピートする曲。
「聞けば恋が叶うバンド」には相応しい選曲だと思えました(笑)

早速ギターをかき鳴らす前奏を作って、アレンジし始めると「366日」に比べて、すんなり、ノりよく作業は進みました。

これはイケる。
なんとか、光を見いだして、次のアレンジにとりかかったのがTHE FLIPPER'S GUITARの「バスルームで髪を切る100の方法」。

今回のカバーアルバムのコンセプトの1つにあるのが「音楽のルーツ」。まさにTHE FLIPPER'S GUITARは僕が中学生の頃に電流が走った音楽の一つなのです。

僕の作る曲のカラッとしたミディアムアップテンポ感はまさに、彼らの音楽を根元としているでしょう。

この2曲に関しては昨年の4~5月のライブでも披露させていただきました。

徐々にカバーCDの片鱗が見えてきた頃でもあるのです。
このあと大きな試練が待っていることも知らずに…。

つづく
構想1年半、やっとカバーCDの発売に漕ぎ着けました!

遡ること1年半前、レコード会社の社長に「カバーのCDを出してみない?」と言われたのが発端。

妄想ではよく、カバーCDを出すなら何を入れるかなんて考えていたもので、願ったり叶ったりの申し出でした。

しかし、いざ制作にとりかかってみるとこんなに時間がかかるとは…。

まずは、選曲にとりかかりました。
サンボマスターの「ラブソング」なんて案も出たりして、最初にアレンジし始めたのはHYの「366日」。恋人への未練を歌った壮大なバラードです。失恋のバラードを歌わせたらなかなかの私ですから(笑)。

スタジオでアレンジを進めてみると…おや、なんかしっくりこない。
オリジナルならしっくりくる程の時間をかけても、なかなかまとまらないのです。

この曲は合わないんだな、なんて結論づけて、次の曲のアレンジに進んだのです。

つづく