CN総合コンサルティング主催の特別講演会が4月16日大手町で開催されました。
海洋国家の日本、海の恩恵を身近に感じている方も多いかと思いますが、その海の安全はどのように守られているのかは普段あまり見聞きすることは少ないと思います。今回は
元海上保安庁長官 岩並秀一さんを講師にお招きして「海上保安の現状」
をテーマにお話ししていただきました。
岩並秀一さんは1958年生まれ、東京都のご出身です。
海上保安大学校を卒業、海上保安官としてのキャリアを積まれ、2018年から2020年、第45代海上保安庁長官を務められました。
文字通り一貫して日本の海を守る業務に従事されてきました。
以下、講演の概要です。
<日本の海上保安の現状>
海上保安官の仕事は警察と消防をあわせたもの。国内法と国際法の知識が必要である。
現職中に経験された主な事案(国際法が関係する)
*1990年8月 ソ連サハリンの火傷の少年「コンスタンチン君」救出⇒ソ連領域内での救助活動である
*1995年9月 台湾漁船による石廊崎沖中国人集団密航事件⇒国際捜査となる
*2009年2月 室戸岬沖覚せい剤大量密輸事件⇒領海外母船搭載の小舟による密輸。EEZ内での資源管轄による逮捕。
*2019年10月 日本海での水産庁取締船・北朝鮮漁船接触事件⇒公海上での日本船と外国船接触事故
【海上保安庁の主な業務】
☆領海警備、治安の確保、海難救助、海上防災、海洋調査、海上交通の安全、海洋環境の保全、国際連携協力
【海上保安庁の勢力、予算、定員】
☆船艇・・・472隻
☆航空機・・・98機
☆航路標識・・・5,125基
☆予算・・・2,791億円(参考:2024年度防衛関係予算7.7兆円)
☆定員・・・14,889人
【コーストガード(海上保安機関)としての特徴】
☆他の実働組織(警察、自衛隊など)に従属しない独立の実働組織
☆非軍事組織:法律により軍事機能は持たない(米国、中国は軍事機能を持つ)
☆海上の安全・治安確保に係る総合的な任務・権限・能力
救難、航行安全、犯罪捜査、環境防災、水路測量など世界有数の能力保有
☆領域保全業務が重要任務の一つ・・・尖閣、竹島、北方四島の領海警備。境界未確定海域の監視。海洋調査。
【尖閣諸島周辺海域の状況】
☆2016年9月以降、中国海警局に所属する船舶など4隻による領海侵入増加
☆近年、中国警海局船舶による日本漁船接近事案が多発
【海上保安庁と自衛隊の連携体制の進展】
☆1999年~不審船共同対処マニュアルによる連携・・・能登半島沖不審船事件受けて
☆2009年~ソマリア・アデン湾における海賊対処活動・・・護衛艦に8名の海上保安官乗船
☆2023年~統制要領による連携・・・防衛出動令下時、海保が防衛大臣の統制下に入った際の統制要領を策定
防衛省・自衛隊は作戦正面に集中、海保は国民保護措置や海上での人命保護にあたる
<世界の海上保安の現状>
☆海上保安機関・海上保安機能拡大の背景には
*直接的要因⇒海域の拡大:①国連海洋法条約による沿岸国の管轄権海域が拡大
量の拡大:①海上の領域・権益をめぐる国家間紛争や対立が多発
②経済活動の拡大、グローバル化に伴う海上活動の活発化
③海上テロ、海賊、大規模事故など課題が拡大
<海上保安分野における日本の主導>
☆海上保安庁による各国海上保安能力向上支援
*1960年代のマレーシア、シンガポール海峡の水路業務、航路標識業務に関する専門家派遣開始からスタート
*2000年 「アジア海賊対策チャレンジ2000」に基づく能力向上支援を開始
*2000年代 海上保安機関設立、人材育成支援開始
*2010年代 海上保安能力向上支援をアフリカ・太平洋地域に拡大
*2015年 世界初の海上保安分野の修士課程「海上保安政策プログラム」を開始、留学生を受け入れる
*2017年 「海上保安庁モバイルコーポレーションチーム(MCT)」を発足、現在18名体制で運用、各国に派遣実施
☆世界海上保安機関長官級会合(CGGS)を平成27年日本の呼びかけで開始
世界の海上保安機関が地域の枠組みを超えて法の支配に基づく海洋秩序の維持など
基本的な価値観を共有し、力を結集、取り組むことを目指す。
最後に岩並さんは大学時代の恩師の言葉を紹介
「コーストガード(海上保安機関)は国境や領海がらみの紛争を本格的な戦争にエスカレートさせないための安全装置であり、人類が考え出した知恵ともいえる存在」
(廣瀬肇海上保安大学校教授の講演録より)
そして「コーストガードは海上における法の支配の体現者」であることを強調されました。
以上