弊社主催の経済セミナー・嶌峰会がさる2月25日に大手町で開催されました。トランプ関税は憲法違反判決を受けて迷走しています。ウクライナ戦争は4年が過ぎました。

 どちらも未だ先が見えない状況が続いています。第一生命経済研究所 シニア・フェロー嶌峰義清先生の分析、見通しをお聴きしました。その概要です。

 

 

 

 

世界経済の現状と主要地域の動向

1.  世界経済の全体像と在庫循環
世界経済は、日米が牽引する形で製造業に持ち直しの動きが見られます。在庫循環の観点では、日米ともに在庫調整はほぼ完了していますが、生産が本格的に加速するまでには至っていない状況です。循環的見地からは持ち直し局面にあると言えますが、中国経済の低迷が目立つなど地域ごとの格差が鮮明になっています。

 

2. 米国:堅調な消費と利下げの局面
米国経済は、雇用に停滞が見られるものの、株高による資産効果が消費を支え、堅調さを維持しています。
• 物価と金利: 関税引き上げによる物価再加速が懸念されましたが、インフレ懸念は後退したことでFRB(米連邦準備制度理事会)による利下げは進み、今後政策金利が3.25~3.50%に達すれば「完全中立ゾーン」に入ると見られ、利下げ局面は最終段階に近づいています。
• 生産活動: ISM製造業景況指数や新規受注の見通しからは、生産活動を取り巻く環境の好転が示唆されています。
 

3. 欧州:緩慢な回復
欧州(ユーロ圏)は、消費の勢いが一服していますが、停滞していたドイツの鉱工業生産や受注に光明が見え始めています。ECB(欧州中央銀行)の政策金利は中立水準にあり、今後の経済状況に応じて柔軟に対応できる状態です。
 

4. 中国:構造的な低迷とデフレリスク
主要国の中で中国の低迷が目立っています。
• 足かせ要因: 若年層の失業率高止まりと不動産不況が深刻な重石となっています。
• 物価と消費: 景気対策の効果が薄れ、消費は失速気味です。需給ギャップの拡大により、生産者物価・消費者物価ともに低迷しており、デフレリスクが意識される局面です。

日本経済の現状と成長への課題
1. 日本の景況感と消費構造の変化
日本経済は、企業景況感が高水準を維持しており、米国の関税政策が確定したことで対米輸出も若干の持ち直しを見せています。
• 賃金と物価: 春闘での高い賃上げ率は続いていますが、物価高の影響で実質賃金は依然として低迷しています。
• 資産効果の寄与: 実質賃金が伸び悩む中で消費が底堅い背景には、金利上昇による受取利息の増加や、株高による配当等家計の財産所得の急増といった資産効果があります。なお、政治問題化している食料品価格上昇抑制には円安に歯止めをかける必要があります。


2. 金融政策と財政の持続性
• 日銀の動向: 日本銀行は利上げを進めており、無担保コール翌日物金利は最低でも中立ゾーンの下限である1.0%程度まで引き上げられることが予想されます。
• 財政リスク: 高市政権による積極財政(補正予算18.3兆円など)は日本の財政悪化懸念を招いています。ただし、「名目GDP成長率 > 長期金利」というドーマー条件を満たし続ければ、財政の持続性は保たれるとの見方もあります。
 

3. 潜在成長率と戦略的分野
日本の名目成長率は+4.5%と高いものの物価上昇率で嵩上げされているのが実態。実力(潜在成長率)は現在0.5%程度と低く、これを超えた成長は物価上昇圧力となります。
• 成長への処方箋: 潜在成長率を引き上げるには、労働時間の確保や就業者数の維持に加え、全要素生産性(TFP)の向上が不可欠です。
• 戦略分野: 日本政府は、AI・半導体、核融合、防災、防衛、創薬など17項目の戦略分野を掲げ、投資と成長を目指しています。

 

 

市場見通しと重大なリスク要因
1. 2026年の市場予測
• 株式市場: 総選挙での与党圧勝が株高に拍車をかけました。日経平均株価は、AI需要による半導体サイクルのピーク(2026年)や、日本株の予想PERが従来の15倍から米国レベルの20倍へシフトする可能性を背景に、楽観シナリオでは62,500円、悲観シナリオでも45,000円〜59,000円のレンジが予想されています。
• 為替・金利: 日米金利差は縮小傾向にありますが、円安トレンドが完全に反転するには「円離れ」の落ち着きが必要です。ドル/円相場は130円〜170円と非常に広いレンジが想定されます。
 

2. 米国の政治情勢と通商リスク
• トランプ政権の焦り: 一期目の中間選挙で惨敗した経験から、トランプ政権は11月の中間選挙を控え、支持率獲得のために関税政策などを強める可能性があります。
• 関税の不透明感: 米国での関税に関する違憲判決を受け、今後は通商法301条(不公正貿易への報復)などへの移行による、より個別の制限措置が懸念されます。
 

3. 地政学リスクと世界分断の加速
現在、国家間の緊張の高まりが最大のリスク要因となっています。
• 日中関係: 高市首相の発言を機に、中国は日本への渡航自粛や海産物の輸入停止などの経済制裁を強化しており、インバウンド消費(名目GDPの0.4%相当)への打撃が懸念されます。
• 資源安全保障: 中国によるレアアースなどの軍民両用品の輸出停止は、日本の基幹産業に大きなリスクをもたらします。米国は中南米やグリーンランドからの重要鉱物確保を急いでいますが、重希土類などの完全な代替は困難な情勢です。
• グローバルな分断: 米国の軍事行動やロシア・中国の動向をきっかけに、日米欧の民主主義国家と中ロ等の権威主義国家の分断・対立が加速し、貿易量の減少やインフレ加速を招く恐れがあります。

【要約】2026年の経済は、日本では株価の歴史的高値圏への突入や製造業の持ち直しという明るい兆しがある一方で、グローバル的観点からは地政学的な対立の激化と供給網の分断という深刻なリスクを抱えた状況にあります。

 

【各国経済成長率見通し】  <出所(株)第一生命経済研究所 2月作成 単位;%、>

 

           2025      2026       2027

米国       +2.2                   +2.4            +2.0

ユーロ圏     +1.5         +1.4            +1.6

日本(年度)   +0.7         +0.9            +1.0

インド(年度)  +7.3      +6.7          +6.7

中国       +5.0             +4.4            +4.0                                                                   

                        以上