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道化と縦縞服

春になると必ずと言ってよいほどどこかでマリン系のファッションアイテムが出る。
シンプルなものは寿命が長い。
ただ、今年は通常のマリンスタイルにはない色を取り入れたボーダーが出始めている。
もはや海に映える色合いではなく、形が一人歩きしている。ただの縞模様ではないかはてなマーク

横縞のもたらす安定感は、何より重力によるものだろう。
カイヨワは鏡像の対称を重力の結果生じたものとし、魚・鳥にとっても人間にとっても、そして人間の暮らす家や人間を運ぶ乗り物についても、鏡像の対象が平衡の条件になっていると述べる。

横向きのシマシマは、たんなる連続ではなく、暗黙のうちに想定された対称軸に基づく対称を意識させる。この対称軸は着ている人体の対称軸と合致するため、見る者に平衡が刷り込まれるわけである。したがって、太さは均一でなくてもいっこうに構わない。

道化の格好の典型「まだら模様」。イングランドで14-17世紀に織られた、さまざまな色が入り交じっている毛織物のことらしい。道化の写真を見ると主に縦向きの縞模様のようだ。シェイクスピアの戯曲において、とにかくまだら模様は fool の定義であるばかりか、ときに皮肉も込めて言及される。とにかくまだら模様と言えば道化を指すような、ある種のメトニミーである。

『ハムレット』3幕4場
A king of shreds and patches (だんだら染めの道化の衣裳を着こんだ王様)

『お気に召すまま』2幕7場
A fool, a fool ! I met a fool i' th' forest, / A motley fool
(阿呆が、阿呆が! 森に阿呆がいたのです。まだら服を着た阿呆が。) 
A worthy fool ! Motley's the only wear
(立派な阿呆だ! まだら服こそ最高の衣裳だ)

太さや色がヴィヴィッドならば、水平に比べて垂直方向の縞模様はいっそう目立つし滑稽である。
横縞が垂直の対称軸を思わせるならば、縦縞は水平の対称軸を喚ぶものか?
しかし人間は縦に対象なのだから、それを筒切りにするような水平の対称軸は、なかなか不安を掻き立てるものだ。

だが、ここまで書いて来て思ったが、縦横よりも「まだらである」ということだけがポイントなのかも知れない。よく分からない。

『お気に召すまま』5幕4場
This is the motley-minded gentleman that I have so often met in the forest.
森でしょっちゅうお目にかかった、心もまだら服のお方です。

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なぜまだら模様が道化のシンボルとなったのかは分からないが、日本の唐草模様の風呂敷を連想する。
唐草模様というと、マンガに出てくる不心得者がもつ風呂敷の模様に結びついてしまう…
いったいどんな経緯であのシルクロード伝来の人類普遍の(?)唐草模様が、獅子舞や盗人のおきまりの小道具にされてしまったのか、気になるが分からない。