このお話は、巨○の星の続編を想定して書いたものです。
不定期の連載ですが続けていきますのでよろしくお願いします。
不快な表情を消したといっても、楽しい気分になったわけでは、勿論ない。
城戸は、ある意味、このタイミングでのあきことの対面はチャンスと思ったのだ。
鼻形、三門と飲み明かしたあと、城戸は、ある仮説をたてては消していた。その仮説とは・・・。
「あきこが城戸の母親ではないか」
突拍子もない仮設ともいえるのだが、故・いっかつも、あきこも、城戸の胸元にあるハート型のあざに同じような驚愕とも言えるリアクションを示した、あきこだけならともかく、何事にも動じなさそうな、厳しいいっかつも・・・。
その、あきこのリアクションを鼻形は変に勘違いしてくれたおかげで、城戸は正月からキャンプにかけて、変にからまれ、挙句、その飲み会では「あきこは処女かどうか?」などというとんでもない質問までされている。
(そんなの、いくら医者だからってわかりっこないじゃないか)
だが、同時に、鼻形は、城戸に情報を与えてくれた。
「あきこにはあざがあって、ひょうまと一緒にやけどして皮膚移植をした・・・」
そう、この情報をきっかけに、いっかつ、あきこのリアクションを思い出し、城戸は上記の仮説を抱いてしまったのだ。
いつかあきこに聴いてみたかった。
(飛んで火にいる夏の虫?)
「あきこさんは、僕の生い立ちに関心あるんですか?」
「え・・・ああ・そうですね・・そう・・・不躾な質問と聞こえたらごめんなさい、謝りますわ・・・」
「いえ、いいんです、別に勿体つけるほどのものでもなし、いくらでもお話ししますよ」
あきこの視線は城戸の胸元にいっている。
(やはりあざのことなんだ・・・何なんだ?)
あきこが母親という仮説を一時は立ててしまった城戸だが、どうしても、あきこが捨て子をするとは思えない、あのいっかつの娘が、無責任なマネをするとはとても思えないのだ。
いっかつを思い出した城戸の視線は美波に。
主役美波は当然のように、輪の中心で、酒を注がれて上機嫌。大きな笑い声も立てている。
養子問題で、美波と城戸どちらを取るか、両てんびんにかけていた美波社長。しかも、城戸を養子にという気持ちに傾きつつあったのに、最終的に美波を推薦したのは、いっかつだったらしい。
(当時はなんて不公平だと思ったものだが、医者になってからは、逆に養子になったら本当にやりたい道には進めなかっただろうと、これでよかったのかもしれないと思ったものだ)
ところが、今は、ちょっと気持ちが違う。
(もし、美波と立場が逆転してたら、僕は、今頃、咲と・・・?)
なぜ美波ならよかったのか?同じ施設育ちなのに?
あきこ沈黙の間に、城戸の中で、生い立ちが一気に重くのしかかってきて、あきこと対するのが億劫になってきた。
都合よく、サイエンスマガジンの取材時刻も迫ってきて、城戸は時計を見るとあきこに言う。
「申し訳ありませんが、これから取材があるんで・・・」
「そうですか。ごめんなさい、ひとつだけ。ご両親はどうなっていらっしゃるか、ご存知ですか?」
「なぜ、そんなことを聞くんです?」
城戸があきこに対して突拍子もない仮説を立てたように、あきこも、なにやら仮説を立てているのだろうか?
あきこは、かぶりを振ると、小さく、ありえない・・・とつぶやいた。
つぶやきを聞き逃さなかった城戸は、思い切って尋ねてみる。
「両親は、生きてるか死んでるかわかりません。それ以上の情報は僕にはない。ただ、このあざは珍しいから、同じあざを持っている人間がいたら、僕の両親かもしれないと、昔施設の先生から言われたことはあります。鼻形さんをダシにして僕に話しかけてきたのは、僕のあざに興味をお持ちなんですよね?」
「・・・ええ・・・でも・・・」
ため息をついて、あきこは小首を傾げる。
あきこも、城戸同様、自身がたてたらしき仮説にピンとこないのかもしれない。
「・・・そうね、人間も似たものがこの世に3人いるというし、あざだって・・・。私も、同じようなあざがあったので、先生のあざを見て驚いてしまったけど・・・」
はっと息を飲む城戸涼介。 つづく