(連載間隔が途中から開いてしまったため、古い情報や現在と違う表記がでてきたらご容赦ください)

前回その3:左腕修復の裏

 

 お正月。昨今では携帯だのパソコンだのでeメールが流行り、年賀状が減っている現象もあるようだが、くさっても元プロ野球選手と現役漫画家のひょうまたちの自宅マンションにはダンボールに入りきれないほどの年賀葉書がどっさり届く。
 先日郵便局長がじきじきにマンションにやってきて牧、ひょうま、半、鼻形、三門を前に頭を下げた。
「本来なら元旦にきちんと配達するのが当然でしょうが、お一人あたり平均数百通の年賀葉書を一度にお届けすることは難しいんです。もしよろしければあらかじめわかってる分でも先にお届けしてもよろしいでしょうか?」
 頼み込まれ、地域に根ざした野球を目指すオーナー牧は
「年賀状の意味ねえだろうが」
 ともいえず、承諾。
 というわけで、5人には差出人がリアルに出すごとに年内から届くように。それでも元旦には5人まとめるとダンボール1個では足りないくらい。
 
 ファンからの年賀状や超義理の年賀状が大半を占めるので、ひょうまもさっさと読み進めていく。
「あ!」
 元妻、けーこからだ。
 離婚してからもけーこからは律儀に年賀状は届いていた。まあ、事務所が自動的に送っているらしいけど。それにそれこそ義理だろうが牧、鼻形、三門にも届いているらしいし、一応現夫である半にも・・・。
 おまけにオール印刷だし、味も素っ気もない。
 にもかかわらず、ひょうまはけーこからの年賀状にはいつもどきどきしてしまう。
(大体、嫌いで別れたんじゃないんだからな)
 そう。単に己のまぬけな失踪が原因で半に奪われたのが真実。
(本当はまた一緒に暮らして・・・一緒に暮らして・・・)
 肉体は正直者で、すでに反応を起こしているが・・・(爆)
 更に、ひょうまはけーこの肉筆を何年かぶりで見ることになる。
「二人だけでお話ししたいです」
 けーこの肉筆だ、間違いない。筆跡鑑定不用。これをお宝鑑定団にでももっていけばマニアには相応の金額で売れるのだろうか。
(もう少しうまい字をかけばもっとファン増えるかもな)
 少し前に城戸医師の達筆な文字を見た後なので余計感じる。NペンのM子ちゃんでも紹介してやるか。
(いやいやいや!そんなことはどうでもいい!)
 ひょうまの心臓はばくばくしている、"息子"も大成長。♪もうどうにもとまらない♪とばかりに、ひょうまは普段はめったにかけない鍵をかけると、己の興奮を解消するのであった。(笑)
 
 やっと落ち着き、ひょうまはコタツがあるリビングに行く。
 そうだった。鍵なんかかける必要はなかったのだ。今は皆ここにはいないのだった。
 正月を利用して漫画家兼チームオーナーである牧は"現在の"彼女とハワイに旅行中。正月の芸能人御用達の地。別荘もあるからそこでよろしくやるんだろう。出発日には成田で早速マスコミにつかまっていたっけ。それも牧の計算。牧は身につけるもののどこかに必ず「マッキーS湖ナチュラルズ」マークをつけている。マークで野球の宣伝し、口では本職のマンガの宣伝をするという無駄のなさ!   
 監督鼻形は、ひょうまの姉であり、妻であるあきこと過ごすため東京へ。打撃コーチ三門も日本各地を飛び回る元女番長の妻、おきゅうさんと、おきゅうさん現在の講演地である九州で落ち合うんだと。
 そして半は・・・。
「なぜ俺はここにいにゃあならんのだ!?」
 そうだった。半も残っていたのだ。一応けーこという妻がいるのに。
「聞いてくれ、星。けーこは正月も撮影で忙しいっていうんだ。あれだけ大女優なら休みの融通くらいきくだろうが」
 けーこという名前でも心臓がキュンとしてしまうとは言えないひょうま。
 何回か無意味な咳払いをすると、ひょうまは普通をよそおいながら問う。
「ところで、相変わらず年賀状来るのか?夫婦なのに」
「夫婦なのにってのは余計だろうが!親しき仲にも礼儀ありといってくれよ。けーこも元夫のお前にまで礼をつくすなんて暇があるならもっと俺に・・・」
「な、なんか書いてないのか?ラブレターとかさ」
 大昔、大リーガーのコズマから"野球人形"よばわりされた頃から比べるとかなーり世間ずれし、先日は鼻形と城戸医師のおかげで左腕治して現役復帰なぞという見果てぬ夢から覚め、精神的にはごく普通の50代前半に近いとこまできている。
 ところが、けーこのことだけは、離婚して(ひょうまの中ではさせられて)(笑)からもどうにも収まらない。
 昨シーズンの優勝祝賀会でけーこに再会し、そして今日の年賀状のコメントでひょうまの脳には常にけーこがちらついている。
 野球をしてた若いころでさえ起こらなかった朝だち現象も連日続いている有様。
「ラブレター?ふん、俺はけーこの肉筆なんか忘れちまったさ。婚姻届で見て以来かな」
 それもひどい。(笑)
 ひょうまはどきどきして肩で息をし始める。
「おい、星、どうした?ほてりか?もしかして更年期障害か?男性でもあるっていうからな」
「い、いや、それはない」
 断言するとひょうまは半といるのがたまらなくなり、
「俺、ちょっとS湖でも散歩してくる」
 マンションをでた。
 ズボンのポケットに隠し持っていたけーこからの年賀状を取り出してみる。
(二人きりで話したいって、どうやって時間をつくるのだ?)
 携帯を持ってないひょうま。パソコンはデータを見たりするため操作をやっとぼちぼち覚え始めているところ。個人では所持していない。
(ああ!どうすれば!)
 ひょうまはS湖の向こうにある山に落ち行く夕日を見ながら深いため息をついた。
 
 そんなひょうまを偶然見かけた男がいる、またしてもマッキーS湖ナチュラルズ常勤医師である城戸であった。
 つづく。