金曜日の業務も終わり、ぺぎーは早々に先日合コンのあった和食の店の前で、茶夢を待った。約束の30分前だった。
ぺぎーの手には、近所の花屋で仕入れた赤いバラが一本握られていた。買うまでは、我ながらグッドなアイデアであると自画自賛していたが、結構人通りの多いこの場所で人生で初めてバラを持って一人で立っていることは、意外に恥ずかしかった。
通り過ぎる人の中に、何人かに一人ぐらいの割合で、ぺぎーの後ろ手に持ったバラを見る女性の視線を感じていた。中には、それを見て「クスっ」っと笑みを浮かべる人も居た。
ぺぎーは頭の中で、どうせだったら花束にした方が良かった?ちょっと、セコイかな?とまあ、取りとめもないことで悩んでいると目の前に茶夢の姿があった。
「ぺぎーさん。ずいぶん早かったんですね。まだ、15分前ですよ。」 そう言って笑っていた。
「いや~、先日はあまり話も出来なくて。まず、食事どうします?」 ぺぎーは少し早口になったが、2日前からイメージしていた通りのセリフで答えた。
「うん、おなかは空いていないな。この間のカラオケ行きましょう。そこで、簡単な物でいいわ。あ、ぺぎーさんおなか空いてますよね。大丈夫ですか?」
「いや、僕もカラオケ屋さんでピザか何かがいいな。あ、そうだ。ハイ、これ。」 そう言ってぺぎーは一輪のバラを茶夢に差し出した。
「え、これを私のために。私、こういうの初めて。ドラマみたいね。ありがとう。じゃあ、さっそく行きましょう。」
二人は比較的狭いカラオケボックスに通されると、茶夢がドリンクを頼む際に、水を一杯頼んだ。運ばれた水のグラスにバラを立てて、再びぺぎーに「ありがとう。」と言った。
「ぺぎーさん、優しいんですね。ところで、今日本当に大丈夫でした?彼女とかいるんですよね・・・。」
「い、いや、彼女はいません。」
「え、そうなんですか。実は今日は相談したいことがあって・・・。あの、先日のコンパに来ていたFOXさん。彼女とかいるんですか?」
「FOX先輩ですか?あ、先輩は・・・。」
「先輩は・・・まさか結婚しているとか?ですか。」
「い、いや。そうではなくて、いや、ちょっとプライベートの事は良く知らなくて。」
「そうですか、仕方ないですね。・・・そうですよね、私と一緒にいたもう一人のモデルの麗奈も、あまり知らない人だったし。」
「茶夢さん、気になるんだったら直接電話とかメールしたらいいんじゃないですか?」
「ぺぎーさん、怒った?そうですよね。私、非常識ですよね。でも、なんとなくぺぎーさんなら教えてくれるかと思って・・・。」
「いや、別に怒ってなんか・・・。僕もなんとなく茶夢さんの気持ち分りますよ。なかなか、本人を目の前にすると舞い上がって、何も聞けなくなっちゃう。そんな、気持ちでしょ?」
「そうなんです。ぺぎーさん、やっぱり解ってくれた。結構、惚れっぽいんです。やっぱりメールしちゃおうかな。」
「それは・・止めておいた方が・・・。」
「どうして?さっきは自分でって・・・。やっぱり、知ってるのね、ぺぎーさん。」
「それじゃ本当のこと言います。FOX先輩なら、結婚しています。」
「やっぱりね。」
「やっぱりって、茶夢さん・・・。」
「大抵、私が一目惚れする相手って彼女や奥さんがいるの。で、結構騙されちゃう事もあるんだ。」
「・・騙されるって・・そんな。もっと、自分を大事にした方がいいですよ。茶夢さん綺麗だし、好きになってくれる男性なんか山ほどいますよ。」
「そうかもしれないけど、私、自分から好きにならないとダメなんだ。でも、どうしてぺぎーさん、さっき嘘ついたの?FOXさんのこと知らないって・・・。」
「そ、それは自分でも良く分らないです。なんとなく・・・。でも、茶夢さんがこれ以上先輩にハマって哀しむ姿を想像したら・・・。」
「ぺぎーさん、私の事どう思っているんですか?」
「どうって・・・好きです。」
「嘘つき。だって、もし本当に私の事好きだったら、どうして最初にFOXさんは結婚しているって言わないの。変じゃない。」
「だからそれは・・・。それは、うまく言えないけど君の事を好きな自分が、君の好きな人の事を悪く言うようで、なんとなくフェアーな感じがしなくって・・・。」
「良く分らない。本当に恋したら他人に構ってなんかいられないんじゃ?」
「それは、茶夢さんの愛し方です。僕には無理です。茶夢さんは、相手の奥さんや彼女を押し退けてもですか?」
「時には・・・。」
「あまり無理しないで下さい。今日はどうもありがとうございました。僕はこれで失礼します。」
「ねえ、ちょっと待って。あなた私としたい?」
「なにを言うんですか。そりゃあなたとしたくない男性を探す方が難しいですよ。でも、今の僕には出来ません。別の男性を目の前で好きだと言われた僕の気持ちも少しは考えてください。多分、今あなたを否定した事もこれからの人生でずっと後悔して、あなたの今の言葉を思い出すたびに、その先を想像とかしてオナニーでもしてますよ。そもそも、そんなつもりなんてないんでしょ。さよなら。」
「ちょっと、私を一人にしないで。私だって・・・。」
「そんな大胆なことが言えるのも、僕がまったくの論外でどうなってもいい存在だからでしょ。僕だってプライドがあります。それじゃ。」
そう言い残して、ぺぎーはカラオケボックスを後にした。