クリスマスイヴ前日の夕方に彼はため息をつきながら私に言った。
「父ちゃんが、明日のクリスマスイヴにパーティーするからって・・・。」
ん?私も誘われているのか・・・?
しかし、彼は続けて
「姉ちゃんたちも家族で呼ばれてるから俺にも来いって。言われてるんだけど」
彼より3歳年上のお姉さんは結婚していてお母さんの家の近くに
住んでいた。
子供も二人いたのでおじいちゃん(父親)のところにもよく行っていた様だ。
「私も行かなきゃいけないの?」
と彼に尋ねると首を横に振って
「いや、まだいいよ。俺だけで行くから」
あのぅ・・・では私は?クリスマスイヴに一人でしょうか・・・。
そう思いながらもぐっとこらえて
「いいよ。行っておいでよ。クリスマスに一緒に過ごそう」
私は快く彼を送り出すことにした。
ここで駄々をこねて「クリスマスなのにぃ・・・」
なんて言って彼を困らせたくなかったし嫌われたくもなかったから。
クリスマスイヴ当日。
仕事を終えて帰ってきた彼は父親の家に向かう準備をしていた。
「ごめんね。早く帰るから。」
ひとり家に残る私を玄関先で申し訳なさそうに見つめて
彼は出て行った。
「たまにはひとりもいいもんさ。」
そう思いながらクリスマスの特番を見ながらコンビニ弁当を食べた。
「早く帰るって言ってたから」
数日前に彼が内緒で買ってきたクリスマスツリーを
眺めていた。
ふと時計を見るともう夜10時を回っていた。
「遅いな・・・。」
そう思いながらも彼の携帯に電話を掛ける事はしなかった。
自分の携帯をじっと眺めていたり
お風呂に入るときも音が聞こえるようにすぐ近くに置いたり
トイレに入っても携帯を持ち歩いた。
しかし、一向に電話はかかってこない。
帰ってくる気配もない。
11時・・・12時・・・。
とうとう1時になった。
「泊まって来るのかな?」
そう思い始めた頃に携帯が鳴った。
「ごめん、遅くなった。今から帰るから待ってて。」
「・・・うん・・・。」
10分ぐらい過ぎた頃に彼が帰ってきた。
手には大きなお寿司のお皿を持って。
「これ、父ちゃんが持って帰れって。食べる?」
そう言って差し出した皿を覗くと・・・。
いかにも食べ残し。
綺麗に並んだお寿司・・・ではなく卵や、アナゴ、かっぱ巻きに
太巻き。などの贅沢品とは言えない寿司ネタがコロコロと転がっていた。
そしてその皿の中にチキンやらポテトやらハンバーグなどの
惣菜類がごったに混じっていた。
私は彼の顔を見上げたが彼はいたって普通だった。
そして遅くなった理由を話し始めた。
「飯食ってさぁ、その後カラオケに行こうかって言い出して
んで、俺はカラオケの後帰ろうとしたらボウリングに行こうって。
俺、帰るって言ったんだけどね。姉ちゃん家族も行くからお前も来い!
付き合いが悪いって言われて。帰れなくなって・・・。」
私は寿司の大皿をテーブルに運びながら
(こんなの・・・食えねーよ)
と心の中で毒づいた。
「ごめんな、怒ってる?」
そういう彼に私はニッコリとはしないものの
「・・・ううん、いいよ。」
とだけ答え持って帰ってきたお土産には
一切手をつけなかった。
なんで、こんなもの持って帰ってくるんだ?
私が大喜びで食べると思ったのか?
誰が手をつけたかわからないようなものなのに。
彼は全く気にしていないようで寿司をいくつかつまんで
チキンを頬張って食べた。
彼の横で私は心の中で叫んでいた。
行っておいでと快く送り出したのは私だけど、
父親なんだし帰るって強く言えばもっと早く帰ってこれたじゃん。
それにこのお土産はないんじゃない?
お菓子とかの方がまだましだよ!
彼女をなんだと思ってんの!!!
しかし、彼が悪くない事を知るのは
結婚した後だったりして。
この頃はまだ父親への不信感は微塵もなかった・・・。