大学生の香恵(沢尻エリカ)は、引越し先の部屋に
置き忘れられていた一冊のノートを見つける。
そこには、真野伊吹(竹内結子)という新任の小学校
教師が書いた学校での出来事、希望や悩み、が
綴られていた。
香恵は、教師志望ということもあり、伊吹先生が書いた
そのノートの内容に、つよく共感を憶えていき、次第に
ひかれてのめりこむようになる。伊吹先生の恋人への
思いに想像をふくらませてゆくうち、香恵はある一人の
画家(伊勢谷友介)に対する自身のの恋心を確信し、思い
を伝える決心をする。そして知ることとなる意外な真実…



物語は現実の世界とノートに書かれた世界という次元の
異なる空間が終始交錯して描かれる。誰にも好かれる
理想的な小学校教師、伊吹先生の人間味あふれる生き方が
軸となって書き綴られ、それを"読む"ということを通じ、
登場人物たちのドラマが生まれていく。


話す言葉では伝えきれない、書き言葉が伝える人の想い
の強さを、身にしみて感じられるストーリー。
終始、ノートに書かれた言葉で、心の内が語られる部分は
「いま、会いにゆきます」の日記を思い起こさせるし、
ラストで一番伝えたい想いが伝わり、それぞれがなにかを
のりこえて成長する部分は、「世界の中心で愛をさけぶ」
を彷彿とさせられた感がある。
映画の性格上だろうか、若干それぞれの人のつながりに
迫力がかけているような一面があるので、こみ上げるもの
が抑えきれないという感じはなかったが、書かれた言葉が
美しく重みがあって、心情がよく伝わってくるので、
その言葉にこめられた思いをくみ取ることができれば、
ぐっと来るものがある、と思う。


僕自身、はじめて見た結子さんの教師役
緊張感があったが、誰もがこんな先生に出会えてたら…
思わせるような出来栄えだった。
教室でみせるその笑顔は、児童全員に分け隔てなく与えら

れているにもかかわらず、一人ひとりの心に染み入って

いるように感じる。
伊吹先生のクラスみんなは家族と同じ、という思いいれが、
この笑顔に映し出されている。

いろんな個性の子供たちを、差別することなく、一人ひとりを

きちんとみつめようという純粋な気持ちで接しているからこそ

の笑顔だろう。
公立学校の教師として、理想的な教師像がそこにあった。


あらためて気づかされた魅力に、結子さんの声があった。
伊吹先生の声からは、ひたむきさ、前向きな気持ちが伝わってくる。
「サイドカーに犬」のヨーコさん役では、生きたいまま自分の
スタイルを貫く女性の、どこか力をぬいた、心を見透かされない
ようなぶっきらぼうさが言葉に表れていたが、伊吹先生では、
まったくそれと異なり、意志が伝わるのだ。これは、声色を
かえている…というものではない。
結子さん自身、初めての担任で自分の目指すクラス作りに
意欲を傾ける伊吹先生自身になりきって
、そこから湧き上がる
情熱をのせて発しているから、この熱心さが伝わってくる
のではないか。

役作りというよりも、伊吹先生として数十名の児童の前に

たった瞬間に、生じてきた感情そのものを表しているような

気がした。

結子さんの声質は、一本調子ではないのだ。

その役どころの、そのときそのときの心情に、自身を

シンクロさせることの上手さが、語る言葉に感情を
のせて届かせるのだ。


この演じる役どころの振れ幅の広さ・・・変えてはいけない

ものを意識しつつ、変わらないことに安堵するのでなく、

むしろその移ろいを楽しんで、新しい自分を発見していく

結子さん・・・

そこに常に第一人者でいられる極意があるように思う。

Heart Wave…
このストーリーでは、やはり伊吹先生の情熱や充実感から
生まれる、人としての輝きが重要だと思う。
この人が眩いばかりの存在でありながら、悩み、もがき、
時には迷い涙する、そんな等身大の普通の人間であるからこそ、
ノートを読む者が惹かれ、書かれた言葉に説得力が生じる。
結子さんの伊吹先生役は、この物語の展開を活き活きとさせ、
結末をより感動的にし、清々しい余韻を残すにふさわしい
素晴らしい出来栄えだったと思う。


挫折も味わいながら、教育への情熱と人への想い…短い
時間の中で、一人の女性の人間らしさは、演技と語りを通じて
その女性に自然体でなりきることで、きっちり伝わってきた。
演出はほとんど不要だったのでは、と思えるくらい、結子さん

らしさが醸し出されていて、そのならではの安定感、演技力に、

魅せられた作品だった。

一冊のノートを書いた女性が、登場する多くの人たちの心を
動かしていく・・・その"存在感"は、見終わった後、胸に刻ま

れた伊吹先生の面影の強さとなって表れていた。