本読みを哀れむ歌 -5ページ目

ヘセド Chessed ―11 <37>

ヘセド Chessed ―11 <37>
 

32

 

P329

*ヴァレンティヌス派
ウァレンティノス派 Valentinianism
ウァレンティノス Valentinus 100? – 160 AD?
グノーシス主義の教父の一人。大ウァレンティノスともいわれ、西方グノーシスの代表的な理論家。高弟にプレーローマ、アイオーン説を唱えたプトレマイオスがいる。

 

*テルトゥリアヌス
クイントゥス・セプティミウス・フロレンス・テルトゥリアヌス Quintus Septimius Florens Tertullianus  160年? - 220年?は、2世紀のキリスト教神学者。ラテン語で著述を行ったいわゆるラテン教父の系統に属する最初の一人。テルトリアヌスとも。
「不条理なるが故に我信ず」
はテルトゥリアヌスの言葉とされるが、そのままの言葉として述べてはいない。

 

*パチーダ
ブラジルの蒸留酒カシャッサ Cachaça とフルーツジュースのカクテルのこと。

*カルメン・ミランダ Carmen Miranda 1909 - 1955
ポルトガル生まれのブラジル人。サンバ歌手、ダンサー、ブロードウェイ女優、映画スター。
ブラジルの爆弾娘bombshell brazilian と呼ばれた。

 

P330
*ウォルター・ローリー卿 Sir Walter Raleigh 1552または1554 - 1618
イングランドの廷臣、探検家、作家、詩人。イングランド女王エリザベス1世の寵臣。

 

*ピーコ・デッラ・ミランドラ
ジョヴァンニ・ピーコ・デッラ・ミランドラ Giovanni Pico della Mirandola 1463 - 1494
イタリア・ルネサンス期の哲学者。
著書「人間の尊厳について」

 

*フィチーノ
マルシリオ・フィチーノMarsilio Ficino 1433 - 1499
イタリア・ルネサンス期の人文主義者、哲学者、神学者。
ルネサンス・イタリアの代表的哲学者で,フィレンツェ・プラトン主義の中心人物。メディチ家の侍医であった父の勧めで,医学,哲学,ギリシア語を学び,コジモ・デ・メディチに才を認められて,その孫ロレンツォ・デ・メディチの家庭教師となるかたわら,ギリシア各地から買い集めた貴重な古典手稿類をカレッジの別邸とともに委託された。これはのちに〈アカデミア・プラトニカ(プラトン・アカデミー)〉と呼ばれる。ここでフィチーノは,古典手稿の研究翻訳に着手し,《オルフェウス頌歌》やプロクロス,ヘシオドスの神学的作品などを訳了した。

 

P331
*カサンドラ
カッサンドラー  Kassandrā, Cassandra
ギリシア神話に登場するイリオス(トロイア)の王女。アポロンの求愛を拒んだため、誰も彼女の予言を信じないようにされた。

 

*トロイ Troy
イリオス  Īlios
ギリシア神話に登場する都市。イリオン、トロイア、トロイエー、 トローイア、トロイ、トロヤ、 トロイヤなどとも呼ばれる。
現在のトルコ北西部、ダーダネルス海峡以南(同海峡の東側、アジア側、トルコ語ではトゥルヴァ)にあったとされる。
ホメロスの『イーリアス』をはじめとする叙事詩に登場し、「トロイの木馬」で知られる。

 

*パルメニデス Parmenidēs 紀元前500年か紀元前475年 - 没年不明
古代ギリシアの哲学者。南イタリアの都市エレア出身、エレア派の始祖。

 

 

皇帝のかぎ煙草入れ     ジョン・ディクスン・カー

皇帝のかぎ煙草入れ            ジョン・ディクスン・カー

 

 

 

離婚してまもなく、新たな出会いに恵まれて、純真な青年トビイ・ローズと婚約したイヴ・ニール。だが、幸せな日々は長くは続かず、彼女はこともあろうにトビイの父サー・モーリス殺害の容疑者にされてしまう。犯行時刻には、イヴはたしかにローズ家の向かいにある自宅の寝室にいた。だが、そこに前夫ネッドが忍びこんでいたため、身の潔白を示すことができないのだ。完璧にそろった状況証拠が、イヴを絶体絶命の窮地に陥れる。
―「このトリックには、さすがのわたしも脱帽する」と女王クリスティを驚嘆せしめたカー不朽の傑作長編。

 

 

イヴはすごい美人。本人は思慮深くしてるつもりだが、本当はかなり迂闊な女性。
男性から見ると、こういう女性はスキャンダルにまみれていても、ものにしたい感じなんだろうか。それとも、庇護欲をそそるんだろうか。
物語が始まってすぐ、イヴは「あなたほど暗示にかかりやすい人も珍しいですね」と言われた、と思い返している。
なぜか、すぐこれだな、とぴんときた。
暗示にかかりやすいということは、やってもいないのにやったとでも思い込むんだろうか……、と読んでいると、ネッドがイヴの寝室に入り込んできて、もめたあとに窓の外の実況中継が始まるのである。
この攻防戦もサスペンスフルだ。イブは早くネッドを追い出したい。ネッドはイヴとよりを戻したいのだから、騒ぎになってもいい。
むしろ、騒ぎ立てて、トビイとは破談にさせたいくらい。
だが、ネッドがサー・モーリスの遺体を発見するに至って、こちらは「あれ」と思う。
ついさっきまで、サー・モーリスは生きていた。だとすれば、殺したのはローズ家の誰か、ということになってしまう。
イヴの狼狽は、こちらの困惑である。
犯人は誰か?なぜ、かぎ煙草入れを粉々にしたのか?動機はなんなのか?
確かなことは、警察が証拠だと思っているものは、まるで証拠にはなりえない、ということだけだ。
イヴが何かの暗示をかけられた、ということは分かるのだが、話が進んでも、そのあたりがぼかされているので、今ひとつピンとこない。
最後の最後まで、じらされて、たどり着いた真相には、驚くというより、そっちかー、ってことはあれかー!と思ったのだった。

 

 

以下ネタバレ。
ワンアイディア、ワントリック、フェアかどうかはきわどいところ。

カーの仕掛けたトリックを見抜くポイントは、たった一つだ。
まず、殺人がいつ行われたのか?ということだが、ネッドがイヴの部屋にやってきた時間は1時15分前。トビイからの電話が1時。トビイが父親の部屋に忍び込み、ネッドに目撃されたのは1時15分。
このタイムテーブルだけでは、どの時間帯で犯行が行われたのか、はっきりしない。
次に、「皇帝のかぎ煙草入れ」
この煙草入れは懐中時計のような変わった形をしている。
イヴは「かぎ煙草入れ」を目撃したように思っていたが、キンロス博士の持っていたものを「懐中時計」としか認識できなかった。
つまり、イヴは「かぎ煙草入れ」を一度も見たことがないのだ。
とすると、なぜイヴは「かぎ煙草入れ」を見たような気がしていたのか。
それは、ネッドが窓からローズ家をのぞき、サー・モーリスが「かぎ煙草入れ」を調べている、と口にしたからである。
だが、見た目は懐中時計のそれを、なぜネッドが「かぎ煙草入れ」と知ることができたのか。
それは、便せんに書かれた「かぎ煙草入れ」という文字を、犯行のときにじかに目にしたからである。
とすると、ネッドがイヴの部屋に来る前に犯行は行われていたのであり、ネッドの人称で書かれた話には、「言い落とし」が多くある、ということに他ならない。これは本当に注意深く、読んでいかないと気付かない。
ただ、ネッドが意識不明になったりせず、すぐに再登場していれば、あっという間に化けの皮がはがれたような気もする。イヴとの話に齟齬が生じだろうから。
すると、イヴはトビイに騙されたまま結婚していたかもしれず、そういう意味では膿を出し切ってよかったのだろう。
イヴにとっては、災い転じて福となす、となったのかも。

 

ニコラス・ブレイクの「殺しにいたるメモ」で書いたクラフの詩の引用の部分は本当に最後のほうで、キンロス博士がネッドの死について、言及したところ。

 

Thou shalt not kill; but need'st not strive
 Officiously to keep alive:
「汝、殺すなかれ。されど、生かすべく努力する必要はなし」と訳されてるが、他の版はどうなんだろうか?

 

理由(わけ)あって冬に出る    似鳥鶏

理由(わけ)あって冬に出る 市立高校シリーズ        似鳥鶏

 

 

 

某市立高校の芸術棟にはフルートを吹く幽霊が出るらしい――。吹奏楽部は来る送別演奏会のための練習を行わなくてはならないのだが、幽霊の噂に怯えた部員が練習に来なくなってしまった。かくなる上は幽霊など出ないことを立証するため、部長は部員の秋野麻衣とともに夜の芸術棟を見張ることを決意。しかし自分たちだけでは信憑性に欠ける、正しいことを証明するには第三者の立ち合いが必要だ。……かくして第三者として白羽の矢を立てられた葉山君は夜の芸術棟へと足を運ぶが、予想に反して幽霊は本当に現れた! にわか高校生探偵団が解明した幽霊騒ぎの真相とは? 第16回鮎川哲也賞に佳作入選したコミカルなミステリ。

 

本格ミステリとラノベの間、ラノベ寄りって感じだろうか?普段、ラノベとか全く読まないのだが、ラノベっぽい、のかな?
日常系の謎。
ともかく、ほのぼのしてて、たまにはこういうのもアリでしょ、と思った。

 

 

「幽霊の正体見たり枯れ尾花」という通り、幽霊が出るんじゃないか、怖い怖いと思っているから、幽霊に見えるわけで。
自分のとこの家族は虫が嫌いなので、黒いごみが落ちていただけで、大騒ぎする。よく見れば、虫じゃないってわかる。それと同じ。
この、「よく見れば」というのがミソ。
ぼんやりとしか見せないとか、すぐ消してしまうことによって、想像力で補填させるのだ。
第一の「幽霊」も第二の「幽霊」もその脳内補填をうまく使っている。トリックは大体想像つくし、思った通りでもあった。
やはり、問題なのは、フーダニットとホワイダニット。
第一の幽霊のほうはなんとなく予想通りだった。第二の方は結構、予想外のところから飛んできた感じ。びっくりしたわけじゃないけど、唖然とはしたかな。プロローグの話がここへつながってたわけか。
それにしてもね、センセー、やるな。
いや確かに自分の高校時代にもいたよ、生徒と結婚したセンセ。JKの魅力か?そうなのか?
あと、「シランクス」の選曲がいいね。ちょっと不気味な感じで。
グリューネヴァルトとか、ハリー・ケラーのBlue Roomとか小ネタ満載で面白かった。
ストーリーと関係ないけれど、Blue Roomは幻想的で素晴らしいマジック。でも、いまどき舞台にかける人はいないんだろうな。


 

リモート・コントロール   ハリー・カーマイケル

リモート・コントロール       ハリー・カーマイケル

 

 

 

D・M・ディヴァインを凌駕する英国の本格派作家。新時代の巨匠ハリー・カーマイケル、満を持しての日本初紹介!男女関係という“千古不易の謎”にクイン&パイパーの名コンビが迫る。

 

「千古不易」
永遠、限りない、果てしないという意味。
男と女の永遠の謎って意味。コピー考えたの誰ですか?(笑)

 

新聞記者のクインは午後10時、バーで知り合いのヒュー・メルヴィルと会う。これから、車で妻を迎えにいくのだという。
赤い顔をしているメルヴィルに、クインが「アルコール探知機の心配はないのか」というと、メルヴィルはわらって「心配無用だよ」とこたえ、店を出て行った。
11時半過ぎ、メルヴィルは男をはね、死なせてしまう。
その後、彼は飲酒による危険運転致死罪に問われ、禁固18か月の刑を言い渡された。
それから、半年ほどたってから、クインはメルヴィルの妻、エレンを名乗る女性から電話を受ける。
それは、事故のとき、自分が車を運転していたという自分の罪を告白するものだったが、クインはメルヴィルの罪が確定している以上、どうもできない、と諭す。
だが、三回目に電話が欲しいと伝言があり、電話をすると、驚く事実を告げられる。エレン・メルヴィルは急死したというのだ。
エレンが住むフラットへ向かったクインだったが、そこにいた警察に容赦なく容疑者扱いされ、クインは憤る。
エレンは睡眠薬を飲み根ガス栓をひねった。おまけに夫が刑務所にいるというのに、妊娠3か月だったのだ。
身の証を立てるため、クインは友人パイパーの力を借り、事件の真相を追う。
エレンは睡眠薬を飲んでいたが、手つかずの睡眠薬も一箱あった。
どうして彼女は睡眠薬を飲まずに、ガス栓をひねるという自殺を選んだのか?
お腹の子の父親は誰なのか?

 

 

帯には「D・M・ディヴァインを凌駕する」というコピーがあったそうだが、彼とはまた違ったタイプの本格ミステリなのだ、と思う。
ディヴァインの作品ほどは追い詰められない、という印象。ディヴァインの場合、主人公はギリギリまで追い詰められ、後がない、逃げ場がないという立場にされて、読んでる方も身につまされるが、この作品の場合はそこまでではない。
クイン一人だと、警察を怒らせたりして、何をしてるんだか、という気持ちにさせられるが、パイパーが出てくると途端に安心感がわく。この作品ではキャラクターが確立しているらしいので、なおさらそう感じるのだろう。
シリーズものにつきものの安心感が、軽いミステリというイメージを醸し出しているが、それは少しもったいない。
大どんでん返しがある、とか、びっくりするトリックとかがあるわけではないが、解説した絵夢氏が書いていた通り、トリッキーなサプライズに、ちゃんとカタルシスのある終わり方は、型通りではあるが、ほっとする感じ。
もっと読みたいという気にさせられる。
ただ、仕掛けがすぐ分かってしまったので、ちょっとマイナス。もっとびっくりするような作品もあるらしいので、今度はそれをお願いしたい。

 

 

以下ネタバレ。
ハイパーとクインが調べると、エレンが経営していた薬局は、エレンのものでエレンが死んだあとは、夫のヒュー・メルヴィル所有が移るという。夫には大きな動機がある。だが、彼には刑務所にいるという間違いのないアリバイがある。
そして、エレンと付き合っていたという男がクインのもとに名乗り出てくる。彼はエレンが妊娠を喜んでいた、心配なのは夫が別れてくれるかどうかだ、と言っていたという。
パイパーはメルヴィルがひいた男の未亡人ジュディスに会いにゆく。
そこへクインから電話が入る。ジュディスが電話を取って、パイパーに代わった。
「電話に出たのは誰だったんだ?」クインが問う。「彼女の声は聞いたことがある……」
クインに電話をしていたのは、ジュディスだったのだ。
ヒュー・メルヴィルはジュディスと不倫していた。そして、二人ともお互いの配偶者が邪魔だった。
そこで、メルヴィルは事故に見せかけて、ジュディスの夫を殺し、ジュディスがエレンを自殺に見せかけて殺したのだった。

 

 

ちょっと松本清張の「一年半待て」ような話。
あと交換殺人で言えば、法月綸太郎の「リターン・ザ・ギフト」か?
事件が片付いたら、すべて処分して、事件が知られていないようなところへ引っ越すつもりだったんだろうか。

 

蜜柑花子の栄光    市川哲也

蜜柑花子の栄光        市川哲也

 

 

 

密室館の事件から一年。時間のある限りどんな依頼も引き受けるようになった蜜柑花子は、多忙を極めていた。そんな六月のある日、事務所を訪ねてきたのは、なんと密室館の事件に深く関わりのあった祇園寺恋だった。奇妙なグループに母親を人質に取られ、蜜柑が四つの未解決事件を解き明かせなければ人質の命はない、と脅迫を受けているという。大阪、熊本、埼玉、高知の順に、全国に遠く散らばった四つの難事件を解く時間は、たった六日間! しかも移動は車のみという悪条件まで加わり、疲労困憊する蜜柑。怒濤の推理行の果てに名探偵が導き出した答えとは? “名探偵の矜持" “名探偵の救済"をテーマに贈る〈名探偵の証明〉シリーズ完結編。

 

今一つだった。
と言うのは簡単なのだが。
二階から目薬というか、隔靴掻痒感が半端ない。
このかゆいところに手が届かない感じは、前作、前前作にもいえることなので、たぶん、作者の伝えたいことは半分もこちらに伝わっていないのだろう、と思う。
それは、作者にとっても読者にとっても不幸としか言いようがない。
なんとなく、伝えたいことも、探偵リーズ完結編ということで力が入っているのも分かるのだが、その力の入れどころを間違っているような気がしないでもない。
前作の「密室館殺人事件」のときにも書いたが、「名探偵の矜持・名探偵の救済」を前面に押し出すなら、トリックは陳腐なくらいがいいのではないか、と思う。
今作では、トリックの推理の方へストーリーが大幅にシフトしてしまって、テーマがぼやけてしまっている感がどうしても否めない。
作者の書きたいことと、読者の読みたいものに大きなズレがあることは確かだが、作者が無理をして読者側へ寄せてきたようにしか思えない。
それが成功しているならまだしも、どちらも中途半端になってしまっているのが、もどかしい。
読者が求める、驚くようなトリックやどんでん返しと、作者の書きたい「名探偵の救済」を両立させるのは、かなり難しい、というのは前作、前前作で分かっていたはずだ。
三たびそこに挑戦した意気込みは買うが、同じようなことを繰り返さなくてもよいものを、と残念に思う。
もうちょっとで、大化けしそうなのに。もう少し見守る気持ちで……。

 

 

多忙を極めている蜜柑花子の事務所に蜜柑、助手の日戸に因縁がある祇園寺恋が訪ねてくる。
恋のかかわった四つの事件を、蜜柑が六日間で解決しなければ人質にされた母親が殺されてしまう、と蜜柑に助けを求めに来たのだ。
犯人グループ、そして恋の意図が読めないまま、引き受けた蜜柑。
蜜柑、日戸、恋の三人は大阪を皮切りに、熊本、埼玉、高知へと推理の強行軍が始まる。
32時間で大阪の人体発火事件を解決した蜜柑たち一行は、次に熊本へと急ぐ。
熊本では、宗教団体の人体消失事件を解決。
埼玉の事件では蜜柑の同級生、警察官となった中葉悠介と再会する。
そして、最後の高知。残り38時間となったが、強行軍がたたって蜜柑は高熱を出す。
熱をおして、事件を解決した蜜柑と恋は、日戸を残し、どういうわけかアメリカへと旅立つ。
そして、明かされる真相。

 

以下はネタバレです。

 

大阪、人体発火事件。
死んだのは、内木由果。彼女は複数の目撃者の前で、突然燃え上がり、焼死したのだ。彼女は息子陸のパイロキネシス(火を発生できる能力)を信じており、その日、陸はそれを友達に見せるつもりだったのだ。
警察はそれを自殺と判断し、処理していた。
蜜柑は推理する。
由果のコートにはガソリンと発火装置が仕掛けられていた。それができるのは、夫の勉である。彼は妻を愛するがゆえに、息子に嫉妬し、息子を亡き者にするため、妻を殺害したのだった。
熊本、人体消失事件。
宗教団体、<浄化の世界>の悪事を暴こうと、潜入していた男が、教祖の祐泉の奇蹟と称するパフォーマンスの後、行方不明になる。同じく潜入していた、秘書の三堀もその後、行方不明となっている。
祐泉が行った信者消失のトリックとは?
パフォーマンスのとき、三堀が見ていた場所からは、田中が刺殺される場面がはっきり見えていた。死体であれば、あとは屋上から死体を下に落とすだけで済む。
それで、「祐泉は田中を消したのか」という問いに、三堀は「田中は消された」と答えたのだ。そのあと、施設を脱出しようとした三堀は捕まえられて、女神像に塗り込められてしまった。
埼玉、ダイイングメッセージの謎。
突き落とされたとみられる青年、都甲。彼は「いいづか」とダイイングメッセージを残していた。だが、どさくさでメッセージは消えてしまった。都甲の知り合いで「飯塚」と名がつくのは一人だけで、アリバイもある。
蜜柑は、一緒にいた塩野が変装して、都甲を突き落としただろう、と推理する。変装したせいで、都甲は塩野を飯塚と見間違えたのだろう、と。
最後は高知、アリバイ崩し。
高知で恋はある家に招き入れられ、小説のアイディアとして、完全犯罪のトリックを聞かされる。そして、それは実行されたのだ。
岡山で起きた事件の容疑者、嘉手納(かでな)愛衣を訪ねて行った三人は、トリックの発案者である愛衣の父親の死を知る。
だが、岡山の事件の際、父親にも愛衣にも複数の人物が証言する堅固なアリバイがあった。
岡山の事件の犯人は誰なのか?
恋の話に出てきた愛衣の双子の弟、未来。彼は戸籍もない、誰にも知られていない存在だった。
親子がアリバイを作っている間に、未来が岡山で殺人を実行したのだ。
四つの事件を蜜柑は解決したが、アメリカに連れてこられた蜜柑に恋が告げる。
埼玉の事件は、推理が間違っている。だから、人質は殺されてしまった。日本に帰っても蜜柑は非難されるだけだから、一緒にいよう、と。
そこへ、日戸から電話が入る。
蜜柑が去った後、再度事件を検証しなおして、埼玉の事件はただの転落事故だったと、明るみにした。
罪には問われないが、終わりにしよう。
蜜柑は恋のもとを去り、日本へと帰っていく。

 

 

トリック自体、はっとするものはない。
名探偵に解かせるほどのこともない。時間制限がきついというだけ。
恋と蜜柑。名探偵同士でなければ、分かり合えないのに、恋は名探偵として苦しむ蜜柑を否定する。
分かり合えるはずの人と、どこまで行っても平行線であることに、心を閉ざす蜜柑。
そして、最後のページ。
素で驚いた。
まさか、屋敷啓次郎生きてたなんて。死んだとはだれもいってなかったけどね。
これ、三冊費やした仕掛け?だとしたら、長すぎる……。