エスカルゴ兄弟   津原 泰水 | 本読みを哀れむ歌

エスカルゴ兄弟   津原 泰水

エスカルゴ兄弟           津原 泰水

 

エスカルゴ兄弟エスカルゴ兄弟
1,782円
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出版社勤務の柳楽尚登(27)は、社命で足を運んだ吉祥寺の家族経営の立ち飲み屋が、自分の新しい職場だと知り愕然とする。しかも長男で“ぐるぐる”モチーフを偏愛する写真家・雨野秋彦(28)は、店の無謀なリニューアルを推し進めていた。彼の妹・梓の「上手く行くわけないじゃん」という嘲笑、看板娘・剛さんの「来ないで」という請願、そして三重の養殖場で味わう“本物のエスカルゴ”に、青年の律儀な思考は螺旋形を描く。心の支えは伊勢で出逢ったうどん屋の娘・桜だが、尚登の実家は宿敵、讃岐のうどん屋で―。

 

 

津原泰水というと、少女小説出身ということもあり、どこか、耽美小説家(ちょっと違うか)もとい幻想小説家というイメージだった。
無論、ミステリ、SF、幻想小説等々、多分野で活躍する方なので、この作品においてもそういう感じなのか、と思っていたのだが。
すごく、いい意味で裏切られた。
ともかくも、ぐるぐる愛に満ちている。
このぐるぐるを愛しているのが、作中の人物なのか、それとも筆者なのか、区別がつかなくなるくらい、エスカルゴことぐるぐるへの愛に満ち満ちているのだ。
実家が讃岐うどん屋の尚登は子供のころ、漠然と料理人になろうと思っていたのに、なぜか今は編集の仕事などをしている。
それが何の因果が、エスカルゴ専門店のシェフになれ、という社長命令。このあたりから、尚登もひたすら、ぐるぐるし始める。とはいっても、仕事をしなければ生きていけない。ぐるぐるしながらも、エスカルゴの養殖場に行って、エスカルゴを食べて開眼してしまう……、のではなく、伊勢うどんに転んでしまうのだ。正しく言えば、伊勢うどん屋の看板娘に。
グルメと、恋と。
これが、面白くないわけがない。
エスカルゴ専門店「スパイラル」は黒字になれるのか、とか。尚登の恋はどうなるのか、とか、先が気になって気になって仕方がない。この疑似家族の話をずっと読み続けていたくなる。

 

作中の食べ物はどれも格段においしそう。
私自身は、うどんも貝(エスカルゴ)も、特別大好物というわけでもない。糖質オフの生活をしているので、三年ほどうどんなど口にしたこともなく、貝も食べれなくても禁断症状が出たりはしないので、読んでいてもだえるほど食べたいってはならなかったけれど、それでも口元がにやけるくらいには、おいしそうだった。ブルギニョンソースとか、モツ煮とか、エゾ鹿のジャーキーも。
実はこの中で一番、おいしそうで、自分でも絶対作って食べたい、と思ったのはチーズキツネ!
これは、絶対おいしいでしょ――「スパイラル」式じゃなくて、「磊磊」式のほうね、おろし生姜の方がおいしそう。大人も子供も大好きだよね、こういうの。簡単だし。
と、とかく、いろいろとしゃべりたくなる話なのだ。
まだ、読んでいない方は、ぜひ。今年一番のオススメ。

 

 

サイトで松苗あけみ氏がイメージイラストを描いてて、女子はかわいかったから、異論はない。けれど、男性陣は少しかっこよすぎ、だと思う。私の主観的なイメージで言えば、尚登のイメージはもっとひょろい感じだし、秋彦はもう少しむさくるしい。