さとしげ
髪を切った
向こう側
デジャブーを見た。それは、およそ10年前の小学生だ。まだ小さい私は隣にいる少女と一緒に歩いている。嗚呼、こうやって私はまた避けることなく現実を生きるのだな、と思った。少女と私はとても楽しそうに歩いている。何かキーホルダーのような物を交換しているのだろうか、真剣に選んでいるせいか、足元が不安定なのが分かる。おそらく、今学校で流行っている事なのだろう。少女は同じように同じ感情を持って、同じリターンをする。後ろに彼が居る。防止を目深にかぶって、必死に何かを見ているようだ。小さな花?彼はそれを手に持ち、きょろきょろしている。誰かに渡そうとしているのか、気に入ったから家に持って帰ろうとしているのか、急ぎ足で歩いている。明るい彼は私の存在を知ることもなく、幸せを掴んだり、私が知ることもなく傷つく。必要だと思ったところではっと気付くに違いない。少女は、大量の誘惑に自分を失いながら、優しさもどこかに置き忘れてしまう。大きくなったら何になりたい?と聞けば、ケーキ屋さん。と答える。季節は春である。生まれた頃からの宿命なのか、それとも自分が作り上げた自分になったのか・・・時が経ちすぎてプロセスの皺が増えすぎ、自分でも何が何だか分からなくなってしまう。 最終目標はいったい何なのか、最近になれば面白くも何ともない。真っ直ぐあった感情は分からなくなった自分を隠すためにデトックスする。周りの人間は時に関心を持たない、甘い誘惑に吸い寄せられる。しかし、その後に残る物はつまらない物なのだと、気付いたとき、またそれをデトックスする。何が何だか分からなくなってしまう。ここでリセットしても、“過去という時間”と“好奇心”は出会ってしまう。魅力は分かってしまうと薄れてしまう。ここで新たに新しい物を作る。すると更に過去が逃走してしまう。リセットは出来ない。コンピュータウイルス。修正も出来ない。ここから作り上げて行くしかない。 彼は前にも見た彼にも似ていた。またみるのだろうか。視界に入りながらも焦点の合わないこの“距離感”は、エクスタシーと共に消えていく。 また素晴らしく恐い日が始まる。好奇心は、別の所へと“逃避”する。彼女は言った「気にすることないよ。世の中にそんなに悪い人は居ないよ」私は言う「それでも恐いんだ、いつか始まるんじゃないかって」 相反する私はこう言う。「それよりも、もう少し繊細に生きたらどうだ?」しかし、全身太めの立ち居振る舞いは、直ぐには治らない。 ある日の午後、私は思った。重い物じゃなくて、軽い物にしようかなと。腰も痛くなるだろうし、目の中が黒くなるばかりだと。いや、黒くなるばかりではなく、見えなくなってしまうかもしれない。格好いい物も、素晴らしいはずの物も、ここで見つける“筈”の物も、足元から見失って溺れそうである。 昔の写真を見た。ただ普通に笑っていた。その顔は未来までも変えそうだ。デジャブーはイイ物でもある。今後起きないようにするために過去がある。もっと安らかに、優しい道がある。 ふと見た野原が美しくて、輝いていることもある。 しかし、ふと満員電車で石ころを見つけてしまったら・・・。 また立ちすくむのだろう。そんな風に生きているのである。夢を見た。針が沢山出てくる夢だ。そのトゲトゲに目をやられそうな私が居る。恐くてはっと起きた。まだ六時半だ。たいてい夢を見ると、六時半に目を覚ます。私はぼーっとしながらまた眠りにつく。風は、秋の肌寒さで震える。 また二度と同じ夢を見ないように、祈りながら眠る。 大抵、起きてからしばらくはテレビを見て過ごす。身体を覚ます.
冷蔵庫にあった“スグに食べられる物”を口に入れる。もぐもぐもぐ、夜と、朝は何故こんなに変わるんだろう。太陽が昇る朝は、行動が 分からなくなる。自分の中に虫がいるみたいだ。 歩いていても、街は光り続けている。夜景。夜景は、大人の物である。そしてどんな時も人は育ち続ける。その営みは、数え切れない位の早さで、進行する。お金は、余る程あっても、何も使えない。余る金、時間、年齢。年相応の歩き方は、何年後位に訪れるのだろうか。 親は、手に取るように老いていく。私はそれと同時に幼稚になる。いつも邪魔に感じる大きさになり、変えても直らない。終わらないものは終わろうとするし、始めようとすれば、中々始まらない。今ある当たり前の物は、数年後には忘れてしまうのだろうか。 そう、たった一つの“ある物”を探すために、何度も繰り返す毎日の中に違うモノを取り入れる。可笑しくなっている。急いでいるだけの何もない自分の足跡に気付く。女がいた。 優しい微笑みは引きつった目尻の皺になる。それはよく見れば、左半分だけの笑いだった。右の目は、何か、奥の物を見ている。 デジャブーを見た。20代の半ばくらいの男だ。煙草をくわえて、目が離れていた。沢山のビールを買い込んで、まるで、これから海でパーティでも始めるかのように颯爽と歩いて、大きな声を出した。声に魔力。テレビで見た名前も知られていないあの人によく似ていた。彼は一瞬のうちにどこかへ行ってしまった。これからも見かけることすら出来ないだろうと思った。出会いなんて、そんなものさ。前に見た同じ風景は、懐かしい香りと共にプレイバックする。昔の写真には、世間をこれほどまで知る自分は一人も写っていなかった。その時の思い出が暖かかった分だけ、その分だけ、今に存在する自分が重くのし掛かっている気がする。ある時は、小さな子どもを見た。小さい子どもは大抵似たような顔をしている。だから、一度会ったことや見たことがあっても、何処で会ったのかは覚えていないことが多い。子どもは可愛い。小さくて、愛らしく、何も知らない。アバウトチルドレン。世間が子どもをここまで大事にする理由はまだよく分からないが、その疑問が出てきた時点で自分自身が子どもではなく違う者に変わっていったからなのかもしれない。飴を持った男の子は、こっちを向いて手を振る。子どもは可愛い。少し恥ずかしそうに振り返りながら、世界を明るく照らす笑顔になる。ステキな毎日を送ってね。そう願いながら、私も手を振り返した。今持っている最高の笑顔を持ち合わせて。言葉を覚えていきながら、大きくなっていく。ある日の午後、久しぶりに集合写真を見た。中学生の頃だ。体育館のそこに居た。大きな荷物を背負った様な、とても難しい顔をしている。一息つく余裕のない顔。今見るととてもおかしな顔ばかりがそこにある。あのころは色々あったのだ。中学生として別に経験しなくてもいい経験が次々とやって来た。それによって顔は硬直するし、体全体に青白いオーラを持っていた。気持ちの悪い存在感。リンパ腺がいつも疲れていた。連れションが嫌い。いつも、誰かの後ろについて行って、もよおすタイミングがいつもずれていた。今までの素敵なお友達は、いつのまにか一線を引き、知り合いに変わり、目が合えばよそよそしくなり、時には彼女たち、彼らたちを恐れていった、事実を解くことのないまま積み重ねていく。分からない問題は、ひとつ出来ると積み重なる。数学。白黒・・・その頃はカーペンターズ。バスターチャップリン、ローレルandハーディー。これらの者は、私を安らかにさせる。静かなる者たちだ。どの人にも共感することだが、夜と朝は何故こうも違うのだろうか・・・。窓の向こう側を見る。周りの家ばかり見える。景色はあまり素敵だといえない。むしろがっかりするほど冴えない光景である。眠れない夜、朝を待つ間の時間の頭は、とても長く感じる。
