491.2 胸中の青春小説☆絶唱by吉岡道夫☆
検索してくるのかまだ探してくださる方がいるようです。一部欠損していますが昔切り取ったページも50年を経てぼろぼろになってしまいました。
埋火を掘り起こして続きを書いてみましょうか
思春期の頃の小さなラブストーリーでもあり、山岳小説でもあります。思い出すと胸がうずきます。
遠い遠い昔、週刊少年誌が少年マガジンと少年サンデーの二誌しかなかった頃、雑誌の中にも小説が掲載されていてそこにも依光隆さんの挿絵がありました。
絵のタッチをみて懐かしむ方も多いかと思います。
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「要するにいいとこのお嬢様なんだ」
志郎はそう自分に言い聞かせた。
こうして、学校の行き帰りはいやおうなしに眉子といっしょということになってしまった。
全く頭にくるぜあいつは・・・
蓮見眉子が転向してきてまだ10日もたたないうちに生方志郎はすっかり音をあげてしまった。
喧嘩をしたわけではない。眉子が気に入らぬわけでもむろんない。
ないどころか大いに気に入っっている。
・・・・・・が、男は元来照れ屋である、にやけた顔などできるはずもない。
ないから眉子のような美少女が志郎にべったりと寄り添われるとどうしてよいかわからない。
級友からはっきり羨望と嫉妬の目でみられていることは半分照れくさく半分わずらわしい。
「お前あんなはくいメッチェンにバンをどこでつけたんだ」
「きさま、見かけによらないナンパ師だな」
やっかみのことばをなげかけられる。
「じょうだんじゃないぜ、だれがあんな大根足・・・・・」
とはいうものの内心では悪い気持ちはしない。
「へっ!じょうだんじゃない、銭湯でバンダイ越しにふりちんみられた仲だなんていえるかって」
一方の眉子は、女子からからかわれているとわかっていてもうれしそうな顔をするものだから小坂直美たちのやっかみはますますエスカレートする。
今から思えばあれがまずかった・・・・
志郎は眉子が転向してきた最初の日、「ね、おトイレはどこ?」
これがケチのつきはじめだった。教室から離れていて口で説明しただけではわかりにくいだろうといつになく騎士道精神を発揮した志郎は眉子をわざわざ手洗いの入り口まで案内してやったのである。
今でも志郎はその時、手洗いの入り口で嬉しそうに振り返った眉子の言葉を思い出す。
「ありがとう、ぶっきらぼうだけど本当はやさしい人なのね、生方さんて」
苦笑するだけだった。(なにいってやがる、ぶっきらぼうだけよけいだよ!)
しばらくたって、出てきた眉子が、立っている志郎の顔を見たときの表情は今でも忘れられない。
つぶらなひとみが、一瞬まじまじと志郎を見つめ、それが本当に輝いて、笑顔に崩れたのだ。
「わたしを、待っててくれたの?」
どういう設計のミスか志郎たちの校舎は妙に入り組んでいてまるで迷路みたいな錯覚を起こさせることがある。
おそらく転向したばかりで何かにつけて心細かった眉子にとって、志郎のちょっとした思いやりが強く心の中にのこったのかもしれない。
何しろ例の★フリチン★の一件もある
誰にも内緒のくすぐったい共通の”ひ・め・ご・と”を持つということは、それだけでも二つの青春を急速に近づける。
眉子が何事につけ志郎を頼りにするのはきわめてしぜんな成り行きでもあった。
<<略>>
要するに、甘えん坊なんだ
そういう結論に達したのは眉子に悩まされ始めてから1週間めのこと
どうやら人の悪意を、やっかみをしらない少女なんだと、志郎にもようやく眉子の性格がのみこめてきた。
直美たちがどんなに毒気のある悪がらみをしても眉子にはその悪意がわからないようだ
よほど育ちがいいんだな
そうわかってみると、志郎はなんだか眉子がいじらしくなってくるのだった。
世の中にはこういう女の子もいるんだなあ・・・・・と
その新鮮な感動が志郎を揺さぶった。
<<続く>>