そして萩原と大橋は小屋に閉じ込められた。
目を覚ました大橋の頭上に針のように先の尖った杵があった。それを見た大橋はおののく。
「何だ、この杵のようなものは」
そこへさくらと春香がやってきてこういった。
「これは水の力で動くつるはしです」
春香が小屋について説明した。
「お二人さんにはここで実験台になっていただきますよ」
すると外にいたさり、エリカ、いずみはバケツリレーで水汲みをはじめる。そしてあっという間にばったりの水は満タンになり、杵が持ち上げられる。
ここでさくらの説明。
「ばったりの水が限界に達すると…はい」
ばったりに貯められた水が限界に達したとき、杵の軸が振り下ろされた。
「こうなります。気をつけてください」
そして萩原と大橋を残してさくらと春香は表に出た。
いよいよハンギング開始。全員でバッタリの水を汲み、それを循環させる。こうすれば水理学理論で循環可能な水力装置は完成する。
「さくら、ポンプ用意」
夏子がさくらに水汲みを命じる。さくらは文句ひとついうことなく、せっせと水を汲んだ。
一方、小屋の中ではゴトゴトとバッタリの音がする。そして先ほどの杵が振り下ろされるシーンを見ている萩原と大橋は恐ろしくなった。
「おい、ここから出してくれよ!」
萩原が壁をたたくが、誰も助けに来ない。そればかりか
「泣いても叫んでも誰も助けに来ないわよ」
夏子がそういった。
「もしここから出たいのなら、全部白状しなさい。そうしたら水は止めてあげる」
大橋はそれを聞いて何か言いたくなるが、萩原はこれをただのこけおどしだといい、大橋に何も言わないよう釘を刺しておいた。
「こんな脅しには屈しないぞ」
「は、はいっ」
しかし夏子にとってはうらみのある大橋だ。こんなところで引き下がれない。
「水力増強」
夏子は全員に北上川と中津川の水を汲むように命じた。
「ばったりの受け皿を大きくして、水がすっぽり入るように」
「はい」
すると川の音と共に杵つきの音がうるさくなっていく。大橋はたまらなくなった。
「うるさい、止めてくれぇ」
それを聞いた夏子は、「麦つき節」を歌ってみる。麦つき節とは奥州市に伝わる民謡だ。
音痴の夏子が歌うのだから、さしもの萩原も耳をふさいだ。
「うるさい!止めろ」
大橋はついに自白した。
「俺たちは、萩原さんに頼まれて全国の高等学校のバッジをコレクションしてたんだ」
浮き足立った萩原と、自白する大橋の姿は、マジックミラー越しに野次馬たちに丸見えだった。その野次馬の中には早苗、さゆりの姿もあった。
「学校のバッジを得るためには手段は選ばなかったんだ。とくに盛岡学園は世界標準とかいってるからマニアの中でも欲しがるのがいて…」
萩原は泣いてわびた。
「ごめんなさい」
大橋もうなだれてしまった。
「盛岡学園の正門前で五十嵐を殺したのは私です。でもそれも萩原さんに口封じの命令を受けて…」
「そうだよ、わたしたちは制服と校章バッジを独り占めしようとふざけてたんだよ」
野次馬たちは萩原と大橋に罵声を浴びせた。
「冗談じゃないわ」
「そんなことでネットオークションを悪用するな!」
そんな罵倒の嵐の中、パトカーが萩原と大橋を逮捕した。夏子は感慨深そうにその様子を見ていた。
数日後、石井さゆりが元気に退院した。さゆりはさくらに礼をいった。
「さくらさんですね。ありがとうございました」
さくらは照れながら
「いやぁ、それほどでも」
と返した。そこに俊彦と椎名が現れ、全員でさゆりを見送った。
「さゆりちゃん、今度青山駅のホームで会おう」
「じゃあね」
その頃夏子は北山の願教寺にいた。ここは盛岡が生んだ仏教界の先覚者、島地黙雷とその後継者大等により明治より盛岡の仏教徒の修養の寺とされている。
「…大橋一郎は、もう悪さをしないと思うわ」
夏子は心でつぶやいた。亡き友の墓前に手を合わせながら。そしてこの盛岡の地で自己の道を拓く決意を胸に秘めていた。
(fin)