反逆と・・・① | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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春・3月。とは言うものの、盛岡はまだまだ冬色が残っている。今年は殊に寒冷化したから、暖かくなるとすぐに雪崩が発生しやすい。
しかしその日は冬空に粉雪が舞い散っていた。

大通りの居酒屋「包丁屋」で原俊彦は一人の会社員と話をしていた。
「東京に帰りたいけど、息子のことがあるし」
そう独り言を言うのが大前睦。転勤で盛岡に来て2年になる。息子は盛岡学園の2年A組に通う大前良樹だったから、俊彦も知っていた。
「だよな、良樹君の初恋を阻害されたくないだろうし」
しかし大前は盛岡に転勤したことを後悔するようなそぶりを見せた。
「本音を言えば盛岡から早く東京に帰りたいよ」
大前はオンザロックの入ったグラスをカウンターに叩きつけた。
「これじゃ負け犬集団の左遷かって言うんだよ」
その言葉を聞いた俊彦は歯軋りをしながらこう言った。
「…岩手県をなめんじゃねぇ!
するとオーナーの木村隼太がやってきた。
「すみません、ちょっとお客さん」
俊彦は大前をなだめ、木村に説明をした。
「木村さん、ごめんなさい。ちょっと岩手の悪口を言う人がいて」
すると大前はうつむいてしまった。それを木村はほっとけなかったのか、大前の話を聞いて相談にのることにした。
「よかったら話してみよう、僕も同じ身の上だったから」
「本当ですか」
俊彦が補足する。
「木村さんは確か元経済省の…」
「そうですよ。だからみんなの話を聞きたいんです」
俊彦は拍手を送り、ついでにということで勘定を精算して店を出た。
「ご馳走様!」
ところが原俊彦だとわかると、数人の客が一緒に飲んでくれと誘った。こうなると馬鹿正直な俊彦はいやと言えないのだ。
そして結局大前とも付き合うことになった。大前は木村に本音をぶちまけた。
「わたしが男手ひとつで育てた息子が高校2年なんです。単身赴任が決まってから都立受験をあきらめて、盛岡学園に進学希望ということで」
「なるほどね」
俊彦は大前の話に納得していた。大前は一番大事な我が子にもしものことがあっては困るのだ。
「それが心配でした。盛岡の人はよそ者が実は大嫌いだとか書いてましたし…」
「なるほどね、これだから東北転勤は島流し同然だとか」
大前はすでに焼酎や日本酒原酒のオンザロックを5杯も飲んでいた。俊彦はチェーサー、つまり和らぎ水を飲めとか、氷はどうするとか言ってくるが、大前には聞こえなかった。

さて、その夜のことである。
盛岡バイパスの先に上堂という場所がある。ここは閑静な住宅地だが、以前このあたりは競馬新聞の印刷所があった。15年前まで北上川をはさんだ対岸に盛岡競馬場があり、その関係でここで新聞を刷っていたわけだ。
現在は移転したため閉鎖された印刷所の中で事件は始まろうとしていた。中では数人の男子が金属片を研ぎ、針を焼き、まるで鷲や鷹の棲む岩陰のようだった。
「今夜、やりますかね」
一人の若者が話を始めた。するとリーダーと思しき男が現れる。
「あ、リーダー。お帰りなさい」
チームリーダーである畠山信次がアジトに戻ってきた。そして信次は手下たちに今夜決行すると告げた。
「やるぞ」
「待ってました」
信次は手下たちに説明のための大通りのマップを見せた。
「アキラ、テツ」
信次が金属片を研いでいた柳原哲也に声をかけた。
「標的はこいつだ」
信次は哲也に写真を見せた。その男は大前睦だったのだ。
「とりあえず、大通りを徘徊してみます」
もう一人の山口明も大通り徘徊作戦には同意した。
「そして金をたかりましょう。あの会社は単年度赤字に下方修正した後で業績は昨年並みの黒字と言って、人をなめきってる」
すると哲也はいい話があると明に言った。それは大前良樹のことだ。
「なるほど」

大前良樹は帰りの遅い父親をほっとけず、ジャンクフードを食べていた。
「父さん遅いなぁ」
そこへ電話がかかってきた。
「はい、大前…え?」
哲也が電話で良樹に伝える。
「お父さんが大変です。大通りで」
「えっ」
良樹にとっては唯一の肉親である大前のことは気がかりだ。これを哲也は利用したのだ。よくある振り込め詐欺の手口はこういうもんだ。
電話を切った良樹は大急ぎで大通りへ向かった。しかしそれは信次たち不良グループの罠だったのだ。

大前は俊彦と一緒にとうとう看板まで「包丁屋」で飲み明かしてしまった。
「もう、お勘定…」
すると木村は
「飲み放題の分は原さんが払いましたが、何か?」
「えっ?」
そして伝票を見た大前は木村に2000円を払って店を出た。
それから大前は俊彦を追いかけるが、俊彦は別の客とはしごしているところだった。
「俊彦さん!」
と、ちょうどそのときだった。俊彦たちのはしご酒連中と信次たちがぶつかってしまった。
「どけぇ」
明が一人の男に目をつけた。そして哲也が研いだ金属片で男の腕を切った。その様子を俊彦と大前も見てしまった。
「な、何だ!」
ほかの客も信次たちのグループに絡まれた。すると俊彦が止めようと割って入る。だが止めに入った相手は何と大前良樹だった。
「…お、大前」
「原先生!」
そして大前は逃げ出してしまう。それを哲也が追いかけた。
「どこへ行くんだ」
良樹の姿をみた大前は狼狽した。
「良樹!」
そして大前は倒れてしまった。俊彦は救急車を呼び、気道を確保して救急車を待った。