翌朝、俊彦は盛岡駅で勲を待っていた。
「朝一番と言ったのに、遅いなぁ」
そこに勲からの電話が。
「はい、原ですが…社長!」
「おはよ」
「社長、どうしたんです」
勲は庄司がジャンボ鉄瓶を盗む計画について俊彦に説明した。
「決行時間は午後3時だ。時間はある」
俊彦はそう聞いて安心した。
「そうか。でも僕は鈴木の姉さんと待ち合わせ」
「わかった」
程なく鈴木淳子がやってくる。
「おめでとう」
「何が?」
「看護師合格」
淳子は俊彦の一言に照れてしまった。しかし淳子は
「やだぁ、もう10年前のことよ」
と言われたら今度は俊彦が唖然としてしまった。
「ところで社長、大丈夫かな」
「何が?」
「昨日バーで酔っちゃったから」
「・・・そうだろうと思って」
淳子はすでに次の新幹線の指定席を取っていたのだ。
「さすが」
そして勲が到着、3人で水沢江刺へ向かった。
「ジャンボ鉄瓶は渡さないぞ」
水沢江刺駅に先乗りしていた吉則は、ジャンボ鉄瓶をじっと見つめていた。
「この鉄瓶を盗んでどうするつもりだ、あいつらは」
そこに俊彦たちが来た。
「小磯君、お待たせ」
しかし夏子がいないのに気づいた吉則は早速淳子に
「ちょっと、先生はどうしたんですか」
と問いかけてみる。すると
「先生は授業があるから午後からだって」
吉則はちょっとがっかりした。しかし俊彦は事情を説明して何とか吉則を慰めた。
勲が吉則に命令を出す。
「それより、決行は午後3時。それまでじっくり待機せよ」
「了解」
吉則は鉄瓶の裏で待機した。
盛岡学園高校の校門ではシーウェイブ急便のトラックが夏子の下校を待っていた。運転していたのは米内学である。
午前11時、夏子は校門を出た。
「来たっ」
「あら、どうしてこんなところに」
学が車を降りて説明する。
「先生、すぐに水沢江刺駅へ」
「えっ?」
学は助手席に夏子を乗せる。
「いいから」
夏子を乗せたトラックも水沢江刺駅に向かった。
水沢江刺駅はもう2時半を回っていた。
「よぉし、着いた。僕は今日は出迎え担当ですから」
夏子はトラックを降り、待機していた吉則のもとへ。
「小磯君」
「ショパン、遅かったじゃないか」
「ということは、いよいよ作戦決行ね」
吉則は学が用意した機材を一緒に設営した。
「あとは相手の出方を伺うのみさ」
その頃俊彦は、駅のホームから早坂組の幹部が降りたのを確認した。
「もしもし、早坂組の客人で、元関西高宮一家の堀川透です。今そっち向かっています」
これを勲が受信。学と志賀に堀川のマークを頼む。
淳子はレポーターの格好をしていた。ジャンボ鉄瓶の付け替え作業の生中継と称してのハンギングのリハーサルだ。
坂本の運転するトラックはアジトから水沢江刺駅へ向かっていた。
「あのジャンボ鉄瓶をいただいて、このメッキの鉄瓶とすりかえれば・・・」
それはあのジャンボ鉄瓶の形をしている真っ赤な偽物、メッキを黒く塗ったやかんである。
「来た、あの鉄瓶は」
吉則が偽鉄瓶を目撃した。
「すりかえ用の偽鉄瓶だ」
庄司たちの作った合金製の偽鉄瓶、それは普通の鉄瓶よりも軽いが頑丈だった。
「よし、リハーサルすっぞ」
勲ディレクターの指揮でドッキリ計画がスタートした。まず、淳子が鉄瓶が到着したことを知らせる。
「ただいまから、水沢江刺駅の日本一の南部鉄瓶の付け替え作業の模様をお伝えします」
これを見て吉則は惚れ惚れした。
「いいなぁ、淳子姉さん」
そこに庄司カンパニーのトラックが。
「あっ、ただいまトラックが到着しました。あれが新しいジャンボ鉄瓶です」
しかし俊彦が突然姿を消す。何のつもりだろうか。
「スティング、スティング!」
勲は周囲を見回したが、俊彦はいない。
「あれ、おかしいぞ」
実は俊彦は駅構内に隠れていた。そしてテレビモニターを確認していた。
「おい」
俊彦は映像に違和感を覚えた。この場所にいるべき庄司がいないのだ。
「庄司はどうした。鉄瓶をすりかえる現場にいないと言うことは」
そして俊彦は着替えをした。
そうこうしているうちにいよいよ3時となった。
「こんにちは、水沢江刺駅前です」
淳子の第一声で番組がスタート。岡崎もその画面を眺めていた。そして鉄瓶の付け替えと言うところで、俊彦が黒いスーツを着て現れた。
「ちょっと待ってください。ひとつ確認したいことがあるのですが」
それを見た藤田は仰天した。
「喪黒福造?」
俊彦は漫画のキャラクターに変身していた。その手には謎の水が。
「今からわたしがこの水を鉄瓶の中に入れます。本物の鉄なら反応を起こすはずです」
そう言って俊彦は偽鉄瓶の中に謎の水を入れた。当然藤田たちは反対した。
「ちょっと、営業妨害はやめてください」
北野が俊彦に絡んだ。
「鉄瓶に傷をつけるつもりか」
「問答無用、近づくとこの水をかけますよ」
俊彦はボトル一杯の水を偽鉄瓶に注いで、鉄瓶が偽者だと皆にアピールしてみせた。
「これは超合金でできた真っ赤な偽者です。現にわたしが用意した水に反応しませんでした」
それを聞いた北野と藤原は鉄瓶の中へ入ろうとした。
「ホーッホッホッホッホッホ、中に入ったりしてはいけませんよ」
「うるさい!たかが水で」
「それはどうですかね」
そして俊彦はカイロの砂鉄を水に投げ入れた。すると砂鉄は反応した。
「ほら、これは酸化に強い金属だから、この程度の塩酸では溶けないんですよ」
塩酸と聞いておびえる北野と藤原。それを見て他のメンバーも震えが止まらなくなってきた。
「ええと、さきほどの黒いスーツの男は鉄瓶の上で関係者と言い争っているようですね」
淳子を先頭に新選組メンバーが偽鉄瓶の前に集まった。
「よくも偽鉄瓶を飾ってくれましたね」
勲は藤田、続いて坂本にタックルを浴びせる。相手が元自衛官だけに相当苦戦したが、勲は横からの激しいタックルでまとめてノックアウト。
「スティング、トレイン、例のヤツ」
「了解」
俊彦は坂本と藤田を指差した。
「というわけで、落ちてもらいますよ。ドーン!」
さらに俊彦は北野と藤原を鉄瓶の口のところに追い詰めて、ロープで縛り上げた。
「準備完了、あとはクレーンだ」
そしてクレーン車の運転手に勲が何やら話をする。
「これからテレビ中継の大仕掛けだ」
「わかりました」
「お願いします」
ついに南部鉄器窃盗団が塩酸入り偽鉄瓶の上で宙吊りになった。新選組メンバーは庄司カンパニーのトラックに乗っていた。
「どうしてこんなところにいるのだ」
びっくりした藤田。そして藤原が洗いざらいしゃべってしまう。
「助けてぇ、悪いのは金沢の兄貴とそこにいる藤田なんだよ」
「何を言うのか。わたしはただ金沢さんの命令で」
「だからみんな庄司さんと兄貴に操られていたんだよ」
勲はクレーンを下げるよう運転手に指示。
「おや、クレーンが下がっていきます。そして釣り下がった皆さんは中へ中へと入ってしまいました」
それを見た鉄器工場の人たちは
「ざまぁみろ」
「こいつら、鉄瓶盗んで何するつもりだったべ」
と喜び半分、怒り半分だった。
さて、窃盗団がついに塩酸の入った偽鉄瓶の中へ入った。
「ここで命乞いしたいのなら、我々の質問に答えよ」
まずは俊彦の出題。
「何のための鉄器泥棒ですか、藤田さん」
しかし藤田は白を切った。
「藤田さん、答えないと塩酸の雨です」
藤田は塩酸と聞いて顔が青くなった。
「わかった、わかった。ある男の依頼で武器を作って欲しいと言われたんだ」
「男と言うのは庄司か」
「そうだ、庄司次郎だ」
「それが鉄瓶泥棒と何の関係があるんですか」
「鉄瓶の鉄が戦闘用兵器に向いているとあの男が言っていた。だからわたしは協力したんだ」
俊彦はむっとした表情で藤田の自白を聞いていた。
続いて吉則。
「では、その庄司次郎は今どこにいる」
「庄司さんは、赤金のアジトだ」
「本当にそこですね」
「ああ」
話が終わったところで番組を終了し、今度は赤金鉱山跡へ向かった。
「しまった、あいつらめ」
金沢は藤原と北野がしくじったのを見て、急いで堀川と共に仙台へと引き返した。
「待て!」
志賀が二人を追いかけたが、二人は改札に入られてしまった。
庄司は赤金鉱山跡のアジトで同志の帰りを待っていた。
「あの巨大な鉄瓶が手に入れば、ざっと鉄砲の2つや3つ作れる」
窓の外を眺めると、鉄瓶を乗せたトラックの姿があった。
「やったか」
その頃、トラックの中では吉則がある提案をしていた。
「北野もショベルカー動かせるんですよ。相手を油断させる手段として・・・」
吉則はどうやら北野にクレーンを運転させたいようだ。
アジトに到着した新選組はまず北野を解き放ち、クレーンを運転するよう指示する。
「クレーンで鉄瓶を庄司のアジトの中まで持っていく。わかったね」
「はい」
北野はクレーンに乗り、鉄瓶を庄司のアジトの近くまで持っていった。
「やった」
「あとは仕上げに中の塩酸をアジトにぶっかければ」
勲と俊彦は策を練っていた。
「よぉし、乗り込むぞ」
何も知らない庄司は、北野のクレーンに近づいていた。
「よしよし、これで鉄砲どころか戦略兵器も製造可能だ。わたしの開発した耐久性超合金に組み込めば、最高の銃が作れる」
そこに新選組のトラックがやってくる。
「それはどうかな」
「なにっ」
「あなたの計画はすべて藤田と坂本がしゃべりましたよ」
俊彦と吉則は荷台から窃盗団の一味を連れてきた。
「藤原は暴力団早坂組の構成員です」
「そんな人と一緒になって、何考えてたのかしら」
「せっかくこの街の人たちが汗水たらして作ったものを、こんな風にするなんて・・・あなたたちは人類の敵です」
「そうだ、せっかく作った超合金を戦争などに使ったりするなんて」
新選組メンバーが庄司にいろいろと言うが、庄司は聞く耳を持たなかった。
「黙れ。今この国は怠惰と内憂外患にあえいでいる。その現状を打破するためには革命を起こすしかないのだ」
そう言って庄司は自分の主張を長々と語っていたが、その間に新選組メンバーは窃盗団を置いて消えてしまった。
「世界には五万と強大な兵器がある。日本でもそういったものを作らなければならない。だからこそわたしは世界に誇れる超合金を開発し・・・」
庄司が我に帰ったときには、すでにパトカーがアジトの近くまで来ていた。
「ウワァ、わたしの負けだぁ」
その様子を俊彦が見届けた。
数日後、俊彦は盛岡ジャーナル社で南部鉄器組合の人と話をしていた。
「原さんは、南部鉄器を使ってみたことあります?」
俊彦はあれやこれや考えながら言った。
「はい。栓抜きと文鎮、あとは・・・」
俊彦はいろいろありすぎて考えるのに苦労していたようだ。
「ありがとうございます。こうやって使ってもらえることが何よりの喜びですから」
「こちらこそ」
そして田口編集長からプレゼント。
「これはこの前の清水さんから」
「はい、確かに」
大きなプレゼントだったが、これが先日の鉄瓶盗難事件解決の礼金代わりと考える俊彦だった。
そしてカルチョで皆にプレゼントを見せることにした。
「はい、これです」
それは砂鉄でできた鉄鍋と鉄瓶だった。
「すごいわね」
砂鉄で出来たものは南部鉄器でも高価な代物だ。
「これでうちも鍋料理できるぞ」
後藤は張り切った。俊彦ははっと鍋でも牛しゃぶすきでもいいと言う。
そしてバーテンの高橋清春が何か作ったようだ。
「今日もカクテルを一杯、こういうのだけど」
清春が作ったカクテルはラスティ・ネイル。錆びた釘の意味である。
「錆びた釘・・・ねぇ。でも南部鉄器は錆に強いですから」
俊彦は皮肉そうに言った。
「とりあえず、淳子ちゃんの看護師就職と、カルチョの新メニュー誕生を祝して、乾杯!」
後藤の乾杯の音頭で、皆この夜は大騒ぎだったとか。