その日は雪が降り続いていた。そしてあまりにも寒い。暖冬だと言われて久しいが、どうやら外れかもしれない。
そんな中、原俊彦は夜の街を歩いていた。
今日は水沢競馬で馬券を当てたのだ。だから景気のいい顔をしていた。
「ひひひ、最終ムラムラ馬券で22倍か」
ムラムラ馬券とは村上忍と村松学のワン・ツーが決まったときの愛称だ。これで俊彦は300円買ったから、懐に6600円が転がり込んだのだ。
(そんなに喜んで、これからどうするんだ。念のため2000円は入れるか)
俊彦は一旦2000円を近くのコンビニにある銀行のATMに預け入れた。
そこを日高栞と高島理恵子に見られてしまった。
「ああ~っ!」
理恵子が俊彦を指差すと、俊彦もびっくり。
「日高!それに高島」
「俊彦さんどうしたのよ」
俊彦が説明する。
「あ、あの、君たちには関係のないことですから」
すると栞は競馬新聞を見て
「な、何よこれ」
と俊彦を問い詰める。
「…いいだろ?」
「あなたが競馬オタクだって、知らなかったわよ」
栞と理恵子は呆れた。
「でもその顔は、儲けたって顔だぞ」
と理恵子に言われたので、俊彦は素直に告白した。
「そうですよ、競馬で6600円儲けました」
すると理恵子は
「わぁ、すごい」
と感嘆の声を上げた。
外に出た3人は菜園の小料理屋で夕飯。
「こんな夜は鍋でもどうだ?」
俊彦の提案で2人前の鍋が出された。しかし理恵子は物足りない様子。
「何よ、あたしと栞でシェアしなさいってこと?」
「べ、別にそういうつもりじゃ」
理恵子は本当に食いしん坊だ。
さて、俊彦たちが鍋を囲んでいると、夏子がやってきた。
「クリスマス前で忙しいのよね」
「横田君、今日は鍋にしよう」
それを俊彦が見ていたから、思わず声をかけた。
「あ、夏子さん。ちょうどよかった」
「えっ?」
同席していた男は俊彦を見て驚いていた。
「誰だ」
俊彦は男に説明する。
「あ、僕?」
「そうだ」
「原俊彦、30歳。盛岡に根付くフリーライターです」
「そうなの。彼、あたしに優しくしてくれて」
すると男は夏子に質問をぶつけた。
「と言うことは、つまり…なのか?」
夏子は赤面した。俊彦は何も言えない夏子に代わり何か言おうとしたが、
「ちょっと、だめじゃないの。ハングタンのことを平気で教えちゃ」
「違うよ」
それより夏子と同席した人が気になった。それこそ夏子と親しくしてるじゃないか。
「あの人は誰ですか?」
「藤原さん。大通りの商店街の人」
それを聞いて俊彦はため息をついた。別におかしな関係ではなかったと知り、安堵の表情を浮かべる。
「商店街の人ですか。それはどうも」
「いや、原さんには初売りにでも取材来て欲しいですよ」
そんな会話をしている間に、栞と理恵子は鍋を平らげた。俊彦が戻ってみると、もう鍋は空だった。
「日高!高島!」
「すいません」
そして俊彦は理恵子を夏子と藤原のところへ案内する。
「鍋が待ってるよ」
「いただきます♪」
藤原が用意した鍋は「もりおか地鍋フェスティバル」に出展している鍋だった。
「これ、すごい」
鍋の中にはタラ菊(タラの白子)、牡蠣、鮭、イカ、その他野菜がたっぷり。
「ささ、食べてよ」
しかし理恵子はどうしても肉が食いたいらしい。
「ねぇ~、肉ぅ~」
(この声が鹿谷弥生で脳内再生できるんですね、僕ちゃん)
俊彦は仕方がないと肉料理を注文。
「いわて牛の筋煮込み、あとラム肉ちょうだい」
俊彦が肉を注文しまくるので、夏子と藤原はあきれた。
「まったく、甘いんだから」
夏子と藤原は海鮮地鍋を食べた。俊彦は理恵子とそのおこぼれにあずかりながら、肉料理を後で来た栞と3人で食べた。
「あははははは、うまい!」
藤原は海鮮地鍋を絶賛した。俊彦は藤原に話を聞き、それを記事にした。
先日、わたしは仙台の夜に伊達海賊鍋なるものを食べた。あれはうまいだろうと思っていたが、盛岡の地鍋も負けてはいない。
大通り商店街の人がこの鍋を食べたそうだ。タラ菊は真鱈を使い官能に訴える。鮭の親子はそれぞれの味を守りつつ、掛け算式に味を深くする。そして牡蠣も松島に負けない山田町産。これは伊達海賊鍋以上ではないか?
それを後日新聞で見た理恵子は何を思ったのだろうか?
番屋 ながさわ[三陸魚介の豪快炭火浜焼]
JR 盛岡駅 15分
〒020-0024 岩手県盛岡市菜園2-6-1
※2009年12月20日現在の情報です
番屋ながさわの寄せ鍋は3500~。ほかにも三陸直送の魚、菊の司プレミアムなどあります。
