風邪のようなあいつ!⑪ | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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昼下がりの高松、基哉がタクシーで中谷家に到着した。それを夏子が見届ける。
「来たわね」
基哉は呼び鈴を押す。
「中谷さん、いませんか~」
しかし誰も出ない。慌てて基哉は何回も押すが、やはり誰も出ない。
「おかしいなぁ」
基哉は周辺を探すことにした。夏子も中谷家が不在なので心配になった。
(まさか)
夏子が中谷家に入ろうとする。しかしドアはロックされていた。そこへ吉村浩一が運転するツーリングワゴンが通りかかり、繁治が夏子に声をかけた。
「よ、ショパン。何か」
「中谷志保がピンチなの、探して!」
「了解」
ツーリングワゴンは箱清水から盛岡緑ヶ丘高校へ進んでいった。その途中、偶然基哉を発見した。
「あ、こいつは」
「小林基哉だ。車止めろ」
浩一はツーリングワゴンを止めた。そして繁治が基哉に声をかけた。
「あの、今からどちらへ」
基哉は内科廻りだとうそぶくが、繁治は真剣だった。
「中谷浩一さんの事件、あれでたらめですよ」
繁治がそう言うと基哉は逃げ出すが、繁治と浩一にはかなわなかった。最後は繁治に両腕を極められてしまった。プロレスのフルネルソンと言う型を想像していただきたいが、両腕が完全に背中に回り、交差するという技だ。これで投げるとタイガーマスクのタイガースープレックスだ。
「いてぇ、何をする」
「だったらおたくの会社に案内してください」
繁治は基哉にユーファーマの書類を要求した。
「そ、そんなことできるわけ」
繁治はさらに腕を背中へ回した。痛がる基哉もさすがに参った。
「わかりました」
「よし、それじゃ行くぞ」
基哉はツーリングワゴンに乗せられてユーファーマ東北支店へ連れられた。

夏子は北上川のほとりまで歩いた。すると中谷と志保の姿が見えた。
「ああっ」
中谷と志保は岸辺のほうにいた。
「志保」
中谷は志保につぶやいた。
「お父さん、悪いことしてた」
「…えっ?」
「お前のためだと思ったことがだ」
「ううん、いいのよ」
志保は明るい顔をしていた。しかしそれは作り笑いだった。明日また学校に行けば覚せい剤のことで言われる、最悪退学も考えられる。
「どうしよう」
中谷は空を見上げてこう言った。
「志保、お母さんに謝ろうか。悪いことをしたんだから」
そう言ってからすぐに中谷は冷たい北上川の水に足を突っ込んだ。その様子が夏子の目に入ったのだ。
「危ない」
中谷はひざ下まで川の水に浸かっていた。しかし志保は自重した。中谷は後ろを振り向き、志保を連れて入水しようとする。
「どうしたんだ?」
志保は怖かった。しかし本当は中谷を止めたかった。
「…怖いの」
すると夏子がやってきて、中谷父娘に入水自殺を思いとどまるように言った。
「やめなさい!二人じゃないの」
夏子は中谷を引きとめようと必死だった。それを見た志保も勇気を振り絞って父を川から引き上げた。
「パパ、パパ…そうよ、あたしとパパは二人なのよ。それに夏子さんも、さくらちゃんも…」
それを聞いた中谷は川の流れに逆らうようにして岸に上がった。目には涙をためていた。
「何をするの?あなたは無実の罪で死ぬところだったのよ」
夏子の話を聞いた中谷は驚いた。
「む、無実?」
志保は夏子に説明を求めた。
「どう言うことなんですか?先生」
「あなたは悪くないんです、そして悪いのは小林基哉さん」
小林基哉の名前を聞いて中谷は驚いた。まさか部下がそんなことをしていたとは。

その基哉を乗せたツーリングワゴンはユーファーマ東北支社の地下駐車場に到着した。繁治は基哉にリモコン爆弾入りベルトを装着させ、ミッションを実行させた。
「さて、小林君。君の使命は一連のデータを探すことにある」
「は、はい」
「場所はわかるか」
「…確か、経理の」
「じゃあ今すぐ、5分以内に帰還せよ。さもなくばベルトの爆弾が爆発する」
基哉はわけがわからずに出発した。そこで浩一が自動車電話から俊彦に連絡した。
「あ、スティング。車の中で基哉さんから聞いた話だけど…」

「あ、わかった。井上啓さんだね」
俊彦は浩一から井上啓のことを聞きだした。その後事件取材にかこつけてユーファーマ関係者に電話取材をしていた。
「え~、ユーファーマ本社人事部でしょうか」
俊彦が電話をかけた相手は東京本社人事部の坂口正樹だ。
「はい、人事部の坂口です」
「あの、恐れ入ります。わたくし岩手県でフリーライターしております原俊彦と申します」
「何の御用でしょうか」
「先日東北支店で不祥事があったとか…」
しかし坂口は何も答えなかった。
「おかしいですね、確かおたくの社員に井上啓さんっていますよね」
「え、うちの社員にそんな名前はありませんが」
坂口はあっさり井上啓の存在を否定した。
「そうですか、ありがとうございました」
これで井上啓は偽名、もしくは部外者ということになる。
(本社は無関係かよ!腹が立つな。あとは小林兄弟)

基哉は経理室から「パンデミック」と書かれた書類を持ち出した。
「これだ」
基哉が書類を見つけたことを知り、繁治は帰還を促す。
「行きはよいよい、帰りは怖い、だろ」
「はいっ」
基哉が大慌てで地下駐車場に戻るのを木下が見てしまった。
「こば…おいっ!」
木下は地下への階段を下り、地下駐車場へ向かっていた。しかし総務課長の松田健彦が声をかける。
「木下君、東京の井上君から電話だ」
「はい、わかりました」
木下は渋々持ち場へ戻った。その気配が基哉にもわかっていた。
「木下さん…」
木下は受付で電話に出た。
「はい、ユーファーマ東北支社」
「今、何かあったようですね」
「いいえ、別に。ところで何か?」
井上は盛岡駅に来ていた。2階の電話からかけていたのだ。
「実は100万円欲しいんだ。口止め料として」
木下は口止め料と聞いて驚いた。
「何ですって」
「あれは合法ドラッグです。それなのに何ですか、マスゴミは」
「それはわかっています。でも…」
「治験のカモはどうしたんですか」
井上が言った治験のカモ、これこそ中谷志保だったのだ。
「今小林に探らせているんですが」
「じゃあ今からそっちに向かいます、よろしく」
電話は切れた。これで木下と井上はつながった。

中谷父娘が家に戻ると、玄関先にさくらが立っていた。
「あ、さくらちゃん」
「志保!」
志保はさくらの胸で泣いた。
「よかった、これで明日からは無実の身よ」
「ありがとう」
中谷も夏子とさくらに礼を言った。