風邪のようなあいつ!⑨ | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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その日、ユーファーマ東北支店は慌しい空気だった。もちろん新型インフルエンザのワクチンの件もある。しかし問題はそれだけではなかったのだ。
「支店長」
木下が支店長の吉田を呼び止めた。
「何だ、木下君」
「じ、実は」
木下は吉田に耳打ちした。内容は中谷浩一がワクチンの注文代金を横領しているということだった。
「ワクチンの利権ってやつですか、そのためにあいつは横領を」
「そうか、だから空注文が」
木下は吉田の顔を見て疑わなかった。
「大至急全社員を集めてくれ」
そして全社員を集めて臨時集会を開いた。吉田が訓示のあとでこの集会の趣旨を説明した。
「諸君を集めたのはほかでもない。実は先日購入していたインフルエンザワクチンのケース数と、注文したワクチンの数が合わないのだ」
それを聞いた社員たちは動揺した。そこで木下が説明する。
「お静かに、経理の木下です」
中谷浩一は木下に抗議する。
「どういうことだ、それは…」
しかし木下は説明を始める。
「この社員の中に、新型インフルエンザワクチンを空注文した人がいます」
それを聞いた中谷は顔が青くなった。
「ええっ」
「そんな」
木下は再び場内を鎮めた。そして吉田が再度話をする。
「インフルエンザワクチンの不正だが、おそらくそれをしているのは…」
木下が中谷を指差した。
「中谷!」
「な、何を」
「インフルエンザワクチンの特別チームを担当しているのは…中谷、君だな」
中谷は驚いた。さらに木下はとんでもないことを言う。
「君が盛岡学園に届けたあのワクチン、どうなってるんだ」
「と言いますと?」
吉田は鬼の形相で中谷に言う。
「そう、君がワクチンの代金を横領したということだ。詳しいことがわかるまで、自宅謹慎を命ず」
中谷には信じられなかった。しかし事実関係がはっきりするまでは自宅にいることになった。

それを志保が知ったのは昼休みのことだった。
「でね、今日の英語は直子先生よね」
「直子先生って先生より声優が似合ってるじゃない」
「やだぁ」
志保は父親が大変だと言うときなのにのんきだ。さくらたちと立ち話をしている。
「午後はさくらと同じクラスね。じゃ」
そこへ繁治が通りかかった。それに気付いてか、さくらは繁治の後ろに立った。
「中谷志保さん、ですね」
「はい」
志保は用務員の繁治が何を伝えるために来たのかわからなかった。
「どうしたんですか?」
ここでさくらは制服のリボンに飾りをつけた。
「はい、どうかな」
「…ちょっと気付かないんじゃないかな」
志保は控えめだった。実はこれ、さくらが志保に発信機を取り付けるための行動だったのだ。この発信機から送られる情報は、夏子のピアスや栞のPDAなどに届く。
ここで繁治が説明する。
「志保ちゃん、また狙われるかもしれないぞ」
「どうしてそれを」
「この前の話をさくらちゃんから聞いたんだよ」
志保はこれで繁治を信用した。しかし繁治が次に言ったことは衝撃的だった。
「あと、お父さんが…」
志保は繁治が辛い顔で説明するのを黙って見ていられなかった。
「お父さんが、どうしたの?」
「うん、君のお父さんがどうやらあのワクチンの代金を横領していたらしいんだ」
それを聞いた志保はムンクの叫びのような断末魔を上げた。
「そ、そんな」
志保が泣き出した。さくらは志保をなだめようと必死だった。
「パパがそんなことするなんて、知らなかったわよ!」
「志保…」
「うわぁぁぁぁぁ」
「志保ちゃん、もう高校生でしょ!だったら泣かないの」
志保は泣くのをやめた。
「う、うん」
しかしすぐに志保は繁治の胸で泣いた。
「…落ち着いて、ね」
さくらはあきれて教室へ歩いていった。

放課後、途方にくれる志保に昌哉が声をかけた。
「よ、元気がないな」
昌哉は景気のいい顔だ。しかし志保は何も言わなかった。
「大変だったな。兄貴から聞いたよ」
「そう」
玄関を出た志保は昌哉を避けようとした。しかし昌哉に見つかった。
「志保ちゃん!」
志保はいやいや言ったものの、聖貴に絡まれたので観念するほかなかった。
「どうしてよ」
昌哉は基哉からもらった例の薬を志保に手渡した。
「えっ?」
「上司が横領したって聞くと、本当に動揺してしまう。これは動揺を鎮める薬さ」
昌哉の説明を志保は信じていなかった。
「どうしたの?」
「昨日兄貴からいろいろ話を聞いたんだ。そこで本社の井上さんって人からワクチンを渡してくれたってわけ」
「そうなのね」
その話をハングタンたちも聞いていた。

夜、志保は家でその薬を飲んだ。そこへ中谷が現れた。
「志保、帰ってきてたのか。ちゃんとうがいしたか?」
志保はうがいをしたからと中谷に言い、そのまま部屋へ戻った。
「志保、ちょっと待て」
中谷は志保の部屋のドアをノックするが、志保は黙ったままだ。
「志保、志保ぉ」
そこへ電話がかかってきた。
「誰だ、こんなときに」
中谷が電話に出る。
「はい、中谷です。ああ、支店長」
電話の相手は吉田だった。
「中谷君、実はあれから社内調査の結果わかったんだが」
「な、何ですか」
「君がワクチンほしさに覚せい剤に手を出していたとは」
吉田は中谷に解雇の通達を出した。しかし中谷に覚せい剤など覚えがないことだ。
「しかし…」
「君の事はもう知らん」
吉田は一方的に電話を切った。
「」