迷走救急車・さまよう灯!① | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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盛岡学園は盛岡市のみたけにある。もっぱら市内の生徒は自転車、バス利用だが、滝沢以北の生徒にはIGRいわて銀河鉄道利用者も多い。

ある夜、2年A組の西村久美は厨川駅を目指して歩いていた。そこへ一台の黒い暴走車が突っ込んでくる。
「もう信号だよ」
「いいんだ、踏み切りも突っ切ってしまえ」
運転していた伊藤勲は酩酊状態で運転していた。そして西村久美に気づくことなく踏み切りも信号も突っ切ろうとした。
踏み切りを出てすぐのことだった。伊藤の運転する車が久美にぶつかった。故意の傷害事件になる。しかし一度は助手席の阿部裕子が伊藤にこう言った。
「ねぇ、救急車呼んで。お願い」
だが伊藤は拒否した。今救急車を呼ぶと飲酒運転もばれるからだ。もう保身のためだけに車を走らせるしかなかった。

久美は4号線近くまで這って進んだ。それを北村美智子が発見したのは事故から30分経ったときだ。
「あっ!盛岡学園の生徒ね」
「うん」
そして美智子は携帯電話で救急車を呼んだ。幸い厨川の分庁署が近かったため到着までは5分とかからなかった。

さて、伊藤は4号線を北上していた。巣子から滝沢インターチェンジ、そして産業文化センターのほうへ進んだ。
「よし、このあたりで」
伊藤は産業文化センターの出入り口で一旦停車した。そして血を吐いたふりをしていた。
「ぐ…うぐ、ぐへっ」
何と気味の悪い音だろう。それを聞いた裕子が救急車を呼び出した。その後で伊藤は不敵な笑みを浮かべていた。

その頃、八幡平市では68歳の老人が発作を起こして倒れていた。老人の孫は何と盛岡学園3年B組の小川拓也だった。
「おじいちゃん!」
拓也は必死に人工呼吸などを施すが、救急車はいつまでたっても来ない。それもそのはず、何と救急車は伊藤の仮病に付き合わされたのだ。
救急車が到着したとき、すでに拓也の祖父に意識はなかった。拓也は泣いた。
「…じいちゃん、どうしたんだよ」
こうして拓也の祖父は帰らぬ人となってしまった。

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翌朝、3年B組の教室は静かだった。
「ねぇ、みうが特進学業コースに行くんだって」
「そうなの?」
高島理恵子はなぜか憂鬱だった。増田みうが特進学業コースに行くためみんなと離れることになったのだ。
「…あ~あ、ハングタンもまたお休みですか」
そこへ原俊彦がやってくる。
「みんなに大事なお話があります」
「えっ?」
俊彦は横田夏子と日高栞を紹介することになったのだ。
「4月から半年間ヨーロッパに渡っていた横田夏子さんです」
俊彦の紹介を受け、夏子はすました顔で会釈する。
「みんな久しぶり。これからこのクラスを受け持ちますので、どうぞよろしく」
「それと、転入生が入ります。半年のお付き合いですが、かわいい子なのでひとつみんなで…」
それを聞いた男子生徒はにやにや。その中で松本真央(まさなか)は沈んでいた。
「おい、マサ。どうしたんだ」
「拓也がいないけど」
真央が力なく言う。
「拓也のおじいちゃんが死んだのさ」
「は~、そりゃ気の毒だね」
「昨日来るはずの救急車が来なかったとか」
「そんなことがあったのか」
「俺は知ってるんだ」
この中で真央に同調したのは理恵子と田中雄太だけだった。
「みんな人事だと思ってるんだから」
さて、俊彦が栞を紹介した。
「日高栞、半年間日本の高等学校の教育を受けたいがために帰国しました」
「栞です!」
栞は元気な子だ。理恵子は栞を見て驚く。
「まるで北乃きいそっくり!」
(ま、まんま?)
「そうだな、増田が抜けたんでそこに座っていただきましょう」
「はい」

そして3人は理事長の大谷正治に挨拶。
「横田夏子、無事帰国いたしました」
「ご苦労」
ここで大谷は昨日の事件資料を夏子と栞に見せる。
「ところで帰国後すぐにすまないが」
「はい」
「実は昨日、2Bの西村が車にはねられた。幸い軽傷で済んだが、そのときちょうど救急車がみんな出払う事態が発生した」
俊彦が小川のことで補足する。
「昨日、八幡平市平館の小川卓三さんが亡くなった。救急車を懸命に待ったが来なかったらしい」
「ちょっと待って。西根の小川、ってうちのクラスの…」
「そうだ、小川拓也の祖父が死んだ。必死に救急車が来ると信じた拓也の気持ちは通じなかったのさ」
これで小川拓也の欠席理由はわかった。そして西村久美の事故も絡んでいるとなると、複雑である。
「昨今救急車を悪用する不届き者がいる」
「はい、わかります。役場でポスター見ましたから」
「もしかしたらそう言うことを平気でやっているとしたら許せない。まして生徒が絡んでいたら大問題だ」
「わかりました、お引き受けしましょう」
こうしてハングタンたちは出動した。