マッキー帰る・岩手帰行④ | ザ・ハングタン+

ザ・ハングタン+

「ザ・ハングタン」とは法で裁けぬ盛岡の鬼を退治する乙女たち。
この物語はそんな乙女たちの戦いのドラマである。
(現在「いわてマル秘指令ザ・新選組」アーカイブも公開中)

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一関市。現在は南の門のように宮城県に接しているが、以前は栗原地区としか接していなかった。
高野将太は一関市の萩荘に実家がある盛岡学園の2年生だ。
「おはよう」
将太が2階から降りてくる。母親のみどりは味噌汁をつくっていた。
「将太、ご飯炊けてるからね」
将太は茶碗に山盛りのご飯を盛る。そしてみどりが味噌汁椀と副菜の皿を並べた。
「できたよ」
将太はまず味噌汁椀に手をつける。土地柄だと思うが、椀は秀衡塗りだ。そして味噌は仙台味噌、豆腐はこの地方独特の凍み豆腐。いかにも一関の風土と言った味噌汁だ。
「母さん、うまいね」
父親の洋平が岩手南新聞を片手に台所にやってくる。
「お父さん」
「将太、今日から父さんは盛岡だ」
「そっか」
将太は下を向いてしまった。
高野洋平は山田の部下である。この夏から急に盛岡に配置換えとなったが、息子と一緒に居られるならと要求を承諾してしまった。
「将太、夏休みが終わったら一緒に住もうな」
「わかった」

午前9時30分、呼び鈴が鳴った。
「はい」
みどりが玄関に出ると、高橋が会釈した。
「あのぉ、ワイティワークスの山田社長直々のお迎えに参りました」
「どうぞ…」
みどりは洋平を呼んだ。
「あなた、山田社長のお使いですって」
「わかったよ」
将太は洋平にカバンを手渡す。
「父さん、盛岡で会おうね。約束だよ」
「わかってるさ」
そして洋平は山田の車に乗った。

山田は車の中で洋平にこんな話をした。
「さて、君には銀行などの渉外担当をやっていただきたい」
「とおっしゃいますと?」
「銀行などの金融機関との対話には、昔仙台で銀行マンだった君の力が必要なんだ」
高野洋平は5年前まで仙台で銀行の融資係長だった。
「わかりました」
山田の車は盛岡へ引き返した。

その頃盛岡市内ではとんでもない騒ぎが起きていた。
「鬼!悪魔!」
「金出せ!」
ワイティワークスの本社前で、社員たちが怒りを爆発させていた。その模様を見た子供は
「ママぁ、怖いよ」
そして子供は通りかかった俊彦と環に泣きついた。
「あ、僕、どうしたの?」
「…」
俊彦は社員たちのデモを見て納得した。
「蟹工船だよ」
「蟹…ああ、小林多喜二の小説ね」
「あいつらも低賃金で働かされて、まるで陸の船、都会の監獄さ」
環はとうとう怒りをあらわにしてしまう。
「バッキャロー!
社長は人間じゃねぇ!ケダモノ!」

俊彦は止めようとしたが、一度火のついた環はそう簡単に止められない。そうしてる間に子供は逃げ出した。
「怖いよ」
「ほら見ろ、子供も逃げ出すマッキーの劇場型演技」
「うるさい、うるさい、うるさい!」
そこへ警察がやってきた。デモに参加した若者たちは次々に逮捕される。それを見て俊彦はショックを受けた。

ワイティワークスは山田隆義が経営する派遣会社である。ワークシェアリング、すなわち仕事を分担制にすることでさまざまな労働課題を解決できるという考えで作られた会社であるが、先ほどのデモ騒ぎを見てもわかるように現実は山田たちが考えているほど甘くないのだ。
「最近は高校新卒者を大量募集したりしてる。しかし中には僻地へ飛ばされて貧乏くじを引かされる子もいたらしい」
俊彦が山田に関する資料を見せる。
「この不況下で多額の儲けを、しかも地方で得るには相当の努力が必要だ」
「確かにね」
「だけど、社長があぶく銭で投機行為をしたら?」
環は以前あった投機マネーをめぐる事件を思い出した。
「先物相場を利用して金を儲けようとしてる…」
「さすがだな、マッキー。農作物の先物取引を利用するなんて、時代劇の米相場悪用じゃないっちゅうの!」
「そうだそうだ」
「でも、そのリスクは誰が背負うの?」
「そこなんだ。それで調べたところ、インターホールディングスの高橋政信という男が浮上した。その他にもここの取引員を名乗る人間が暗躍してる可能性が高い、そうゴッドはにらんでるんだ」
環は早速インターホールディングスの内部調査を始めようと言う。
「何事もはじめが肝心よ」
「でも、インターホールディングスの実態は山田が金融職務経験者を引き抜きや釣りで集めたワイティ系列なんだよ」
「ええっ?」
「つまり堀割り調べても本丸を固められたら終わりってわけ」
「そうよね、相手に筒抜けってこともあるし」
ハングタンたちは山田の調査に乗り出すことにした。

一方の山田と高橋は、ワイティワークスの社長室で内緒話。
「うまくいきますかね」
「信じなさい。すべてはわが社のためですから」
しかし高橋は自信がなかった。
「でも金を溜め込んでることがばれたときは」
「そんな大げさに動く必要はない。今日連れてきたあいつを使えればいいんだが…」
山田は高野洋平のことが気に入ったようだ。
「では、わたしはこのへんで」
そう言って高橋は社長室を出た。