俊彦とハングタンたちはテニスに興じる。
「そーれっ」
さくらがサーブを上げる。俊彦は返そうとするが、息を切らして倒れてしまう。
「ハァハァ、弱ったなぁ」
すぐにさりと凛が俊彦に駆け寄る。
「先生!」
「大丈夫ですか」
俊彦は言い訳をする。
「僕はソフトテニスならできるけど…」
みうは俊彦の頭をラケットで叩いた。
「先生、だらしないですよ」
ほかのメンバーもラケットやボールで俊彦を襲う。
「やめてくれぇ」
その頃井上は県民の森の近くに隠れていた。
「あの子達の前に…一人やるか」
そう言って筒を用意した。これはマスケット、つまり火縄銃だ。
「よぉし」
井上は一人の女子大生に的を絞った。
平林枝里、20歳。やはり東京から夏休みでここに来ている。連れ合いの木村あずさの実家が八幡平市の西根にあるので、ここに立ち寄ったというわけだ。
「ねぇ、今日は暑いわね」
「昨日はかなり寒かったのにね。おかげであずさの家にすっかりお世話になっちゃって」
「そんなぁ。ママも喜んでたわよ」
枝里とあずさは話しながら森を散策していた。そこに井上の凶弾が向けられようとしていた。
プータロにも井上の銃の音が鳴り響いた。しかし俊彦は気づかなかった。
「何かしら、狩りにしては…ねぇ」
みうがこう言ったところで初めて俊彦は気がついた。
「鈍いのねぇ」
「…違うよ、こんな山ん中じゃジビエ狩りあるだろ」
ジビエとはフランスにおける野獣肉のこと。日本では一般的ではないが、フランスでは鹿や猪などを秋から冬にかけて狩猟、その肉を食す。
「栄光の12日というのがある。8月12日にイングランドで鳥類の狩猟が解禁されるんだ」
「へぇ」
俊彦の説明にハングタンたちはうなづくばかりだった。
「でもいくらなんでもおかしすぎないか?」
「何が?」
「キジを撃つためにはそれなりの銃、そして免許が要る」
「そうよね」
「それがキジじゃなかったらどうするのよ」
「そこだ」
俊彦は先ほどの事件との関連を予感した。
30分ほどしてパトカーが八幡平ロイヤルホテルに到着した。そして藤原は
「どこですか」
枝里が森の中で撃たれたのは昼下がりのことだった。
「…痛い、痛い」
「枝里!大丈夫?どうしたの」
枝里は左肩を撃たれた。すでに井上の姿はない。
その様子を俊彦が見ていた。救急車が枝里を運んだのを見届けたところで、理恵子とみうが救急車を追いかけた。
「頼むぞ」
それから俊彦は盛岡学園理事長の大谷正治に電話した。
「実は今、八幡平なんですが」
「何か事件か」
「そうなんです、ゴッド」
「で、何が知りたいんだ」
俊彦は大谷に何も言えなかった。無理もない。
「…」
俊彦が電話を切ろうとすると、さくらとさりが受話器を奪った。
「ちょっと待て」
「おい、お前たち」
大谷の声に驚いたさくらが電話口に出た。
「大変です」
「だから何があったんだ」
「八幡平で猟銃を使って女子大生を撃つ事件があったんです」
「何っ?猟銃か…」
さくらに先を越された俊彦はあわてた。
「待てよ」
「何よ」
「それ言おうとしてたんだよ」
「あ、そう」
さくらは俊彦に受話器を渡す。
「猟銃で撃たれたのは女性です。その少し前にも女子大生が襲われる事件に遭遇しまして…」
「そうか。お前たちも気をつけるように」
「わかりました」
俊彦はここで大谷に何事か頼む。
「猟銃のルート、あるいは岩手猟友会関係を」
「わかった。スティング、チェリーたちを守るんだぞ」
「ゴッド」
それを電話の近くで聞いたさりはさくらを問い詰めた。
「菊池先輩、どうしたんですか」
「さくら、ちょっと」
さりはさくらの頭に人差し指を突きつけた。
「…さくらって、ハングタンでしょ?」
「えっ」
さりにハングタンのことを知られてしまった。さくらはそう思い込んだようだ。
「どうしたの?」
さりはさくらの先ほどの会話が怪しいとにらんだのだ。
「さくら、さっきゴッドとか言ってたよね」
「それがどうしたのよ」
「ハングタンって、ゴッドという神に仕える天使だって」
「…」
さくらは反論できなかった。
理恵子とみうは救急車を追いかけ、東八幡平病院へ。
「ここね。さっそくと」
みうは俊彦に携帯で連絡した。
「あ、みうちゃん?わかったか」
「東八幡平病院に止まりました」
「そうか。やっぱりここしかないか」
俊彦はタクシーで東八幡平病院へ向かう。そこにさくらとさりがやってきた。
「先生、一緒に行こっ」
「おい、やめてくれよ」
「みう先輩が一緒ならいいじゃん」
そこまで言われると俊彦も断れない。
「わかりました、先生が責任とりますよ」
こうしてさくら、さりを乗せてタクシーは東八幡平病院へ向かった。