奇跡への挑戦再び。日本中を熱狂させた小惑星探査機「はやぶさ」の奇跡。その成功を支えたのは、世界で最も遠くまで行けるエンジン。作り上げた1人の男の存在だ。國中均(ひとし)53歳。NASAが“100%不可能”と言い切ったマイクロ波型イオンエンジンを執念で作り上げた宇宙工学者だ。

“はやぶさ”の後継機、“はやぶさ2”の総責任者である、プロジェクトマネージャーに就任した國中。いよいよその打ち上げが来冬に迫る中、國中はあえて若手エンジニアたちを抜擢し、困難なミッションに挑もうとしている。
前回よりもさらに遠い小惑星から、生命の起源の謎を解くカギになると目される有機物を持ち帰る、人類史上初めての挑戦だ。
かつては“研究所の穀つぶし”と陰口をたたかれた國中たちの研究。満足な予算も得られない中、「10%でも成功する可能性があるならばやろう」との信念を胸に、執念で試作を続けてきた。
これまで密着取材が一切許されなかった超機密の開発現場に潜入、困難な目標に果敢に挑み続ける國中の仕事に迫る。

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この冬、ピンチを迎えた開発。ゆっくりでも止まらなければ結構進む。

長期取材が許可されたジャクサ。NASAから共同開発依頼が来る。多忙を極めているが部屋には遊び心が溢れている。

マイクロ波型イオンエンジンを開発中。地上では1円玉を動かすほどだが、重力の無い宇宙では加速する。

独創的な開発を次次と行なう國中「火星に住むことにちょっとでも近づけたらいいな。」

総勢600人のメンバーが20のプロジェクトに同時進行であたっている。

今回は弾丸を撃ち込み、強制的にクレーターを造り、物質を持ち帰るのがミッション。簡単なものなどひとつも無い。

この日はカメラの問題点を検討。プロジェクトリーダーは解決の方針を出さないといけない。ハッキリ策が見えていなくても最先端の技術は失敗を恐れていてはいけないという信念で、示唆を与える。この日も帰宅は深夜12時を回っていた。

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好きな言葉は「こんなこともあろうかと」、これは前回のはやぶさでまさに使われた。國中がしかけておいた装置がエンジンが4つ全てダメになることを救ったのだ。

夏にはドバイ航空宇宙局にいた國中。人工衛星ドバイサットに中和器を提供する契約。その見返りに宇宙空間でのテストが出来る。

新型中和器は良い動きを見せたが、プラスイオン中和がうまくいかない。この部分は韓国チームのもの。國中はデータも不明な中、ソリューションの解を見つけだそうとする。

出力間隔を短くすることを提案し、実行に移す。するとエンジンが見事に稼動し始めた。

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仕事の支えになっているものは?・・・縮小コピーで持っている「一緒にはできない」という文書。

自宅には空を飛ぶ飛行機の模型などがたくさん。初回はやぶさの時にはため息ばっかりだったと妻の和美さん。

國中さんは幼稚園のときから空を飛ぶことに憧れて、エンジニアを目指した。

東京大学で栗木教授のイオンエンジンの取り組みに共感。

予算が無い中、秋葉原で安く部品を手配。電子レンジを分解し、どうにかイオンエンジンを製造した。

発表してもヤジが飛び、エレベーター内で「ごくつぶしだよね」とも言われた。

そんなときに巡ってきたはやぶさ計画。「やってみせます」と見得を切った。

最大の難関は中和器の耐久性。材料の組み合わせを考えては実験を繰り返した。しかし2年たっても解決策は見つからなかった。

焦りと不安でたまらなかったという。そんな日に栗木のもとに「開発を止めたい」と申し出たが、栗木は「歩くのはかまわないが止まってはいけない。」と諭した。

未知の分野に挑むものの心得を胸に刻んだ。

さらに1年半後「これが最後」と思った時に耐久性のあるものが出来上がった。

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去年12月、はやぶさ2の開発は佳境を迎えていた。

あらゆる事態を予想した実験が行なわれている。2月には本番で使うエンジンの組み立てが始まる。

だが1月22日、厳しい報告が上がってきた。メーカーの部品が遅れているという。國中はイオンエンジンチームを緊急招集し「まじめにやる気、作る気があるか」と問い詰める。3月20日の打ち上げにはもはや余裕が無かった。國中は状況を知りすぎるほど知っているが、あえて厳しく若手に注文を付けた。

「バトンを引き継ぎことが僕が今やらなきゃならない仕事」と國中。

細田がその若手リーダー。ほとんど家庭を顧みる状況にはない。

3日後にメーカーから部品が到着する日程が決まり、そこまでに確認することをとにかく考えられるだけのことをしていく。

問われるのは結果のみ。もちろんその責任はプロジェクトリーダーだ。

國中「みんな怖い。」しかし怖くても、若手に任せると決めていた。

いよいよ部品が届き、600のパーツが組み立てられていく。

どれも替えの利かない一点ものだ。ネジの締め具合もひとつひとつ確認し、ようやくプラズマ点火して噴射のテストが可能になった。

イオンを噴射しエンジンを加速させる。しかし加速が不安定。自分達で解決していかなければならない。

細田は、残留ガスの影響なのでこのままいけると読んだ、5分後、安定した加速が得られた。

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3月4日、國中は報告を受ける。顔が少しだけほころんだ。

プロフェッショナルとは・・・生き馬の目を抜くなかでしたたかに疾走する。

國中均