ちょっと疲れたときに、あんまり深く考えたり、妙に落ち込んだりしないで済む小説と思って読んだら、まさにその通りでした。

エゴン・シーレのヒマワリの絵が2006年フランスの僻地で発見されたことから着想を得て、アドルフ・ヒトラーをからめながら、幼くして別れた父の死の真実を追究し、同じく分かれた姉のルカとの再会と別れまでを、絵画を狂言回しにして描いてあった。

特に料理の場面がとてもうまそうだったが、なんと作者は料理人もやっていたとか、これには「なーるほど!」と合点がいった。

残しておきたい文章は4つ

・武藤さんが言ったことば「たしかに死ぬより生きていたほうがずっと楽しいけど・・・なんて言えばいいのかな。生きることって寂しくない?

・本田さんのことば「一般論ですけどそこで露呈したのは国家という存在がいかに頼りないかという事実だった。その現実を経験した世代が国家的存在の復活と自分のこれからの存在をと自分のこれからの生存を重ねて考えるのはなんとなく理解できる。共感はできませんけど

・パウル・クレーがいったことば「芸術とは見えないものを見えるようにすることだ

正月の東京の街は自分のため息が聞こえるほど静かだった。

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僕は大学の講義中ノートにエンピツで絵を描いていたら、ちょっと変わった女の子の武藤さんにある絵の展覧会に誘われた。そこで、姉のルカと再会した。父はどうしているのか聞いたら、「いないわ。自殺したの」
それから「僕」はなんとなくルカのいるこの家に出入りするようになった。
ルカは絵のことなんて分からない、と言う。画廊は閉店している。なら、父が遺した画廊を早く処分すればいいのに。それが出来ないのは、多分父のにおいが残っているから捨てられないのだろう。そんな「僕」とルカの画廊には、行き場のない絵が不思議と集まってくる。書き下ろし長篇。

50代オヤジの独言-ヒマワリのキス