その少女は施設に暮らしている。丸一日正座させられたり、包丁で刺されたりの虐待を受けてきた。その深い心の傷を癒し、再生することができりのか500日を見つめた。

街を見下ろし小高い丘の上の「大村椿の森学園」

コウイチ君中3は親族に引き取られたところで虐待を受けた。「寝るのが怖かった。刺し殺されるかも知れないと思った。」

子供たちは施設内で教育を受けるが、座っているのも難しい。

いつものように教室を抜け出したハヤト君小6、「うるさいけん、どうせわからんけん。」とエスケープ。

消灯後に暴れ始めたハヤト君。昼間の人懐っこい笑顔は無い。

ハヤト君は母親から育児放棄されて、寂しさから街を徘徊するようになり、保護された。ハヤト君は今も夜が怖い。

情緒障害児を治療する施設だ。副施設庁の中島さん「彼らは戦場に生きてきたのと同じ。」

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絵本を読み聞かせするアオイさん18歳。彼女もまた虐待を受けた過去を背負っている。実の父と義理の母から激しい暴力を受けた。「裸にされて外に出された、結局は施設に入れられた。」

5年前施設に来たときは誰にも反応を示さなかった。「愛着」が結べなかったため、他人とどう接していいかわからないので、問題行動を起こしてしまう。

2009年取材開始時アオイさんは高校生活を送っていた。

鳥羽瀬康子さんは、アオイさんのお姉さん的存在だ。

この日アオイさんの部屋で騒ぎが起きていた。きっかけは食堂で鳥羽瀬さんが他の子と楽しそうにしていたというもの。愛着障害特有の強い孤独感が暴力となって現れたのだ。絶望に襲われたアオイさんを鳥羽瀬さんは語りかけることを諦めずに機会あるごとに話しかけた。

高校3年に進級してから問題行動が激しくなった。精神科医の宮田雄吾さんは問診する。

児童福祉法の規定で18歳までしか施設にいられない。

愛着障害を克服するには親に代わる誰かが愛着を示さなければならない。鳥羽瀬さんはアオイさんの心の闇と付き合う。

アオイさんの夢は保育士になること。その夢を叶えるために高校に通っている。

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そのアオイさんに事件が起きた。友人関係に耐えられなくなったときに、学校の備品を持ち帰って20日間の謹慎処分を受けた。アオイさんは学校を辞めたいと言って来た。

鳥羽瀬さんは、セラピストの野田俊哉さんとともにアオイさんの心の軌跡を訊ねる。アオイさんは怒って席を立ってしまった。アオイさんもここで投げ出せば元の木阿弥になることはわかっている。施設にいられるのはあと半年なのだから。

2週間後、行き詰った状況を変えようとアオイさん自身が動いた。教室に入るのが怖いという状況を伝え、保健室への登校を願い出た。そして素直に謝った。

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夏休みになり、ひとりの少女が施設を出た。みんなから笑顔で送り出してもらう。アオイさんにもそんな日がくるのだろうか。

高校からの回答は保健室への登校は受け入れられないとのこと。アオイさんと鳥羽瀬さんは、今後どうするかで議論。アオイさんは「行けん!」と言い張る。

9月1日、2学期の初日。「学校へ行こう」と誘う鳥羽瀬さんだが、アオイさんは部屋に引きこもってしまった。食事の時間も出てこない。

3日目の午後に鳥羽瀬さんの誘いで、ようやく散歩に出る。

あえて学校の話を避けて公園や街を歩く。そして中島副園長と一緒に再び高校に依頼に行く。1時間を越す話し合いの末、学校側も了承。アオイさんも学校へ行く決意を固めた。アオイさんは鳥羽瀬さんに手紙を書き感謝を示した。「愛着」が少しずつ結ばれていく。

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翌日自転車で登校するアオイさん。見送る鳥羽瀬さん。

アオイさん「応援している人もおるけん、頑張ろうと思う。」

年の瀬を迎えた。大晦日はみんなで鍋を囲んだ。新しい歳を鳥羽瀬さんはアオイさんと迎えた。カウントダウンをした。しかし大きな悩みがあった。高校卒業が厳しいのである。

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正月休みに施設を訪問したキョウコさん23歳は、結婚して子供ができていた。施設の先輩でアオイさんも覚えている。可愛い子供を前に、アオイさんも抱っこ。「なれるかどうかわからないけど、私もなりたい。」とアオイさん。

3学期直前、登校可能かどうかの診察が行われた。宮田雄吾先生は「さあ、どうする?」と投げかける。アオイさんは「行く。ここで頑張らないと卒業できないから。」と意思表示。

1月8日、登校。この日から教室への登校になる。アオイさん「きついことがあっても鳥羽瀬さんとかの顔を思い出すと頑張れる。」社会に踏み出す準備を確実に進めていた。

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でもまだ大きな問題が残っていた。虐待した両親との問題だ。良い思い出だけは残っている。「会いたくないってことはあるけど、顔を見たくないというほどではない。」家族との関係修復を抱えながら生きていかねばならない。

卒業式のシーズンがきた。アオイさんは単位不足で補修を受けていた。

それでもくじけなかった。同級生から遅れること3週間。卒業の時を迎えた。「卒業証書」を手にすることができた。

短大への入学も決まった。「保育士」への夢も少しずつ現実味を帯びてきた。

施設で過ごす最後の夜。アオイさんはひとりひとりに声をかけた。

突然涙が溢れた。6年間、傷を負ったもの同士で過ごした思い出が蘇った。

一番の思い出は?と聞かれて、「ここに来た事かな。全部に感謝している。みんなにも」

4月4日、アオイさんが退所する日。職員や子供たちに見送られて巣立った。

新しい住まいは6畳一間のアパート。新しい暮らしが始まる。

鳥羽瀬さんははなむけに茶碗をプレゼント。そして「応援帳」を置いていった。一人暮らしのための虎の巻である。手作りで施設の職員みんながアイディアを出してくれた。

ノートの最後には鳥羽瀬さんからのメッセージ。「人生は楽しいことばかりじゃないけど、苦しいことばかりでもない。・・・あなたの幸せを心から祈っています。」

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それから4ヶ月、新しい友達もできて、アルバイトも始めた。大学は休んでいない、夢をかなえるため。