東京大田区、野村幾代さん70歳。ベテラン主婦だが、ほとんど「ダイシン」で購入する。冷蔵庫も電球も、野菜も日用品も。「ダイシン」とはどんな店なのか?

昭和レトロ商品満載。お年寄りが押し寄せる知られざる百貨店。

500m圏内100%顧客を目指す。無料宅配から出前弁当までこなす。

’超地域密着で生き残る’がテーマ

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ハエ取りのねばねばした紙のヤツを小池が伸ばしてみる。

大田区大森の商店街、閉鎖した店が多い寂れた通りにあるのが「ダイシン百貨店」、お世辞にもきれいとはいえない外観だが、一歩店内に入ると、大勢の客がいる。

「ダイシン」はスーパーではなく「百貨店」、1階は食料品、2階は衣料品、3階は家電、4階が日用品。そして最上階はもちろん食堂。高齢者を魅了する。

近くのライバル店と比べても激安というわけではない。では何故お年寄りが集まるか。

それは品揃え、歯ブラシは300種類もある。豚毛のものもある。

そしてスモカ歯磨き粉など、昔懐かしい商品がバリバリの現役で売られている。大正時代から売られている整髪料もある。アイテム数は18万点を誇る。

食料品は小さく小分け「お年寄りが食べられる量」、一人の分の量で売られている。

福間弘子さん86歳は常連客。真っ先に向うのがめがね売り場。ここで洗浄してもらうのが日課。そして店員と一緒に撮った写真を配る。「他には行かない。」

年商77億円。顧客を放さない。

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龍さん「人間って新しい人と友達になるのも大事」

スタジオに商品の一部が並ぶ。整髪料のバイタリス、金網のネズミ捕り、ホワイトクレンザーなどなど懐かしの商品が並ぶ。

社長「今は商品の回転が早いので、お年よりは逆に昔から使っているものを使う傾向にあり安心するようだ。」

社長「年よりは浮気しない。」

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朝9時半、西山社長出社。まずやることは全てのフロアに顔を出して従業員の顔を見て回る。

今は順調なダイシンだが、数年前は倒産の危機にあった。

安売りの店として名をはせて、店舗を7つに増やした。1995年から西山は店舗設計を担当していた。

しかし2005年社長が死去し、借金が100億円あることが判明。店舗は6つ廃止し、残ったのは本店だけだった。このときに西山が社長に就任した。そのとき客が「この店がみんな大好きなのよ。何故つぶすの?」と言われて気がついた。「地域密着型」でやろう!

西山は安売競争をやめて、半径500m圏内のシェアを100%にする囲い込み作戦を展開し、地元の百貨店を目指した。

化粧品販売者は仕入れも担当する。「うぐいすの粉」という商品は年間4つ売れる。必ず客の顔が見えるものは仕入れる!というのがダイシン流だ。
ダイシンの中で女心をわしづかみにして「巣鴨を越えた」といわれるのが衣料品売り場。

「上から下までダイシンで揃える」という顧客が多い。その秘密は1種類の服は1点しか置かない。同じ服を着ているのを嫌がるかなという配慮だ。

取引問屋は50社にものぼる。’どれを買っても一点もの’これが女性客を虜にする。

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また品出しを営業時間中にするのもダイシン流。目的は客が店員と話しやすい雰囲気をつくること。目指すのは商店街のような対面販売なのだ。

西山就任後6年連続黒字を達成している。新館の地鎮祭では地域の住民を呼んで、餅つきをした。

西山「商いは、ごひいきにしていただくしかない。原点は’話してなんぼ’’知っていてなんぼ’だと思う。」

龍さん「人工的に地域活性化はできるのでは?」

西山「できるかもしれませんね。」

龍さん「半径500m・・・はどうやって決めたんですか?」

西山「何か足りないときに買いに行ける距離」

龍さん「勝算はあったんですか?」

西山「特に無かった。祭りなどで地域密着を図っていった。パジャマのまま着てくれる店にしたかった。電気・水道・ガス・ダイシンといわれるようなインフラでありたい。」

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塩沢紀行さんはダイシンでコンシェルジェという肩書きを持つ店員だ。通常はサービスカウンターで贈答品の包装などを行っているが、混雑時にはレジを打つし、商品の説明もする。

「しあわせ配達便」は塩沢さんが考えたサービス。70歳以上の高齢者や妊婦などは無料で自宅に届けてくれる。「助かるわ。」と利用者。

1個や2個だと申し訳ないとまとめ買いするひともいる。

さらに日替わりの出前弁当。500円で1個からでも配達する。

龍さん「こういうサービスは血縁に替わるもので、自治体がやるようなサービスだね。」

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社長室をのぞくと西山が設計図に向き合っていた。新店舗の設計図だ。

「魚を焼くところが見えるようにしたい。」

5階建ての新店舗が1012年春完成予定。パーティができる空間や、水と緑の空間にしたいという。

西山「超ミニの東京ミッドタウンで、馬を走らせたい。ホースセラピーを見て、慈善事業としてではなくやってみたい。川の流れるようなところで結婚式もできるようにしたい。幸か不幸か会社を動かすことが出来るので、やってみたい。」

商店街を歩く西山が、商店街の会長に声をかけた。地元の商店街とタッグを組んで共通商品券を作ろうというもの。大森は立地的に横浜や品川、渋谷に近く、商店街はジリ貧だ。そこで町全体を活性化させようという試みを始める。カードのポイントが楽しみになっている客もいる。

龍さん「商店街との競合にはならないのか?」

西山「大森という地域の力を高めることになる。」

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編集後記・・・メディアは無縁社会の恐怖をあおるけど、自立と自由を求める人が増えるのは自然で悪いことではない。人々の幸福のために何かをなしえる人は結果的に幸せになれる。’家族から地域社会へ’