最近、テレビのコメンテーターなどでも見かける精神科医の春日先生。エッセイなのか、小説なのか、精神分析論なのか判然としないが興味深く読める。「連れ合い」が29歳というのはリアルなことなのかどうかがやたら気になってしまった。★★★☆☆
50代オヤジの独言-僕たちは池を食べた

以下は香川リカさんの書評

「小説の精神科医」といえば、今は誰もが奥田英朗の小説に登場する精神科医・伊良部一郎を思い浮かべるだろう。だが残念ながら、実際にはあれほど破天荒な精神科医はいないし、治療だっていつも劇的とは限らないのだ。

それに比べれば、この作品集の主人公・カスガ先生はかなりリアル。それもそのはず、著者は現役の精神科医だからだ。看護師の妻とともに幸福な日常生活を営むカスガ先生だが、病院に行けばいろいろな患者がやって来る。うつ病に強迫神経症、失声症などという珍しいケースもある。丁寧に話を聞きながらゆっくり彼らの心のうちを探り、治療の方針を決めていく先生。精神科の診療はどう行われるのかと興味を抱いて本書を読む人は、「こんなに淡々と進むものなのか」と驚くかもしれないが、現場はこうだ。

誠実かつ常識的なカスガ先生には、精神科医には「患者の命とは直接かかわらない呑気(のんき)な連中」が多い、と言うなどなかなかシニカルな一面もある。この「自分の仕事をちょっと冷めた目で見ている」というところも、実に精神科医らしい。等身大の精神科医や精神医療の実像に感心するか失望するかは、読む人次第ということだろう。