台湾南部、小林村。170軒ほどの民家が並ぶのどかな村。この村が丸ごと土砂で埋め尽くされて消失した。土砂は村を壊滅させ、村人の命を奪った。

原因は大雨、3日間で2千ミリにも達する大雨だった。翌朝、山が全てえぐれるように崩れていった。この大規模な土砂災害の原因追求に日本からも専門家が訪問した。その専門家も「驚くべきこと」と語る。

今まで安全だと見られていた山が崩壊する「深層崩壊」は新たなテーマになっている。

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山崎登解説委員が「表層崩壊」と「深層崩壊」の違いを説明。深層崩壊は比較的なだらかな山がビル20階もの規模で崩壊する。

「つくば地震観測研究施設」で、台湾の深層崩壊を捕らえていた。その波形は今まで観測されたことのないものだった。

台湾南部高雄県。いまだいたるところに傷跡が残る。

日本からもたくさんの研究者が訪れていた。筑波大学宮本邦明教授は現地を訪れて、その想像を超える被害状況を目の当たりにする。川沿いにあった村は今まで大きな災害とは無縁だった。昨年8月の被害で500人以上が亡くなった。村人は小学校に避難していた。鉄筋3階建てのその小学校も跡形も無く、避難者も全員が亡くなった。

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わずか50人の生存者のひとり「黄」さんは、村のはずれに出ており、その飲み込まれる様子を目の当たりにした。生存者の証言を聞き、その様子を再現。記録的な豪雨で川の氾濫が相次いでいた。年間雨量に匹敵する雨が3日で降った。村も橋が流されて孤立し、川沿いの家は浸水していった。

高台の建物に避難した黄さん、北側の住民は小学校に避難していた。

翌朝、轟音と激しい揺れが村を襲い、山が崩れ始めた。土砂は時速80kmの速さで村に向かっていき、その幅は1キロにも及んだ。避難所の小学校は一気に破壊され、村の南の高台に避難していた50人だけが土砂を免れて生存できた。幅1キロ、長さ3キロにも及んだ。

山口県防府市の表層崩壊と小林村の深層崩壊では、その規模の差は歴然としている。

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小林村でも土石流のハザードマップが作成されており、小学校は高台にあり、避難場所として最適とされていた。訓練も実施され、さらに台風警報や、土石流の注意報も出された。しかしこのような大規模な危険性認識はされていなかった。

京都大学の堤大三准教授は台湾と合同での調査を実施。

斜面の一角に平らな岩が露出しているのが数箇所あり、崩れ始めた最初の場所が特定された。深さ84mもの深さで巨大な岩盤が崩れ落ちた。同じ京都大学の千木良教授は’一番高いところの僅かな起伏’に着目。以前からズレが発生していたのではないかと推測。

標高1000m付近で亀裂の入った大きな岩を発見。岩盤クリープといわれるものができていた。長い時間をかけてできた岩盤のたわみがこのクリープとなるのだ。

長い間変形していった岩盤に、記録的な大雨が降り、岩盤が水の浮力で浮き上がり一気に滑り落ちると考えられる。

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「深層崩壊」は日本でも発生している。1997年鹿児島県出水市で発生した土砂災害。集落の21人が亡くなった。2003年には熊本県水俣市でも発生。地頭村さんは「あまり発生しないものが6年に2回も起きたことに驚いた。」と語る。

原因は大雨の増加だ。1日に400mm以上の雨が降る日が10年前の4倍以上に増えている。

台風も大型化している。京都大学防災研究所の中北教授も危機感を語る。

土木研究所の内田太郎さんは、航空写真を使用して各地の被害状況を研究。

斜面がたわむ「岩盤クリープ」の存在を確認し、深層崩壊の危険性を検地するもの。現場を訪れて「岩盤クリープ」を確認。地上から45mの深さまで達していることがわかった。

国はこうして危険箇所の調査を始めた。始めたばかりだが危険箇所がいたるところに点在していることがわかった。

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日本でも台湾と同じような発生の危険性がある。

2000mmもの雨が数日で降る状況があらわれているのだ。

その危険性は、山際ばかりではないのだ。

去年の小林村の崩壊では10km離れた和安村にも被害が及んだ。

突然川の水位が下がったのだ。それは山の崩壊が川をせき止めてしまい天然のダムができたからだ。しかしダムの水位はどんどんあがり、川から60mもの高さにまで達し、わずか1時間後に水が溢れ出し、一気にダムが決壊。土砂の直撃を免れた南側の民家も飲み込んで一気に和安村に達した。

激流は川幅いっぱいに押し寄せ道路や橋を次々と破壊し、川沿いの家も飲み込んでいった。

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日本でも流域の調査が始まり、天然ダムの決壊による被害調査をシミュレーションした。こうしてハザードマップを書き換えていった。川底から5mの高さにある民家も危険だという結果だ。

こういった場合はいち早く高いところに避難する必要があるという。

国はこの地域の自治体を訪問し、その被害想定を説明。地図を示して「深層崩壊」の危険性を報告。自治体側は寝耳に水。避難する道路も無くなり、避難対策も抜本的に見直す必要がある。

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台湾では、今回の小林村の件を教訓に避難勧告を200mmに下げて、一刻も早い避難が命を救うとした。

「深層崩壊」が起きる前に避難するのが重要で、こういった情報開示と、大雨の正確な予測を国土交通省が行うことも始めた。

気象が変わり、防災対策も変わっていく。こういった新たな対策が必要になってくる。

台湾の「黄」さんはビニールシートでテントをこしらえて3日間救助を待った。黄さんは「躊躇無く避難したことが良かった。もし戻れるならあのときに’すぐに避難しよう’とみんなに呼びかけたかった。」と語った。