発声練習をする場面からスタート。

世田谷区、準備を進める人たちの中に、今年からマネージャーをしている息子の二千翔君がいた。

車に乗り込んだ大竹は台本を手にして、表情を一変させる。

舞台は「ヘンリー六世」、狂気さえ帯びた演技は鬼気迫るものがある。

10代で一躍スターになり、20代で幸せも不幸も味わい。30代はたとえ非難されても自分の道を貫き、40代、今年は50代になる。

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時折セリフを覚える書斎。台本は相手のセリフまで全部覚えてしまうという。「そこに行くんです。脳をイメージするんです。」という答え。

劇作家・演出家の野田秀樹さん。かつては生活のパートナーだった時期もある。「ザ・ダイバー」という16年前に起きた実際の事件を下敷きに、不倫の末に放火によって恋人の子供を焼き殺してしまう多重人格者山中由美を演じる。この複雑な役に挑戦する。稽古は「憎い」という気持ちが放火殺人に繋がる気持ちがわからない!と演技はここで止まってしまう。そして「脳」の世界に入っていこうとする。

また、警部の恫喝にたじろぐのか、ライターの炎にたじろぐのか、尋問のシーンで悩む。ライターの種類までにも拘る。野田さんも「台本を読める稀有な女優さん」と評する。

大竹「乗り移っちゃうとかいうけど、どっかで冷静ではいます。」

稽古を繰り返して、最終日は音を収録する。多摩美術大学の音響室で、ため息などを収録。

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舞台初日。野田秀樹演出、大竹しのぶ主演で、話題性も抜群、客席の期待も高まる。大竹はリラックスして舞台に上がった。しかし上がればそこは大竹の独壇場。多重人格者の山中由美を演じきる。

大竹「舞台に立った瞬間、手を縛られて歩く状態、血液の流れや、カラダのバランス、目の位置まで含めて、その人の状態になるのが当たり前だと思うんですよね。山中由美を演じている私に、私が教えられるんですよ。うまく説明できないんですけど・・・。それが仕事なんですよね。」

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最初の夫、服部さんが眠る墓で、法事が営まれた。

大竹は5人兄弟の3番目。教師だった父は病気がちで良く家にいた。クラシックを流して本を読んでいた。父は音楽を聴きながら想像力を育むことを子供たちに教えた。

「女の子はかわいくなくちゃいけない。」というのが父の章雄さんの口癖だった。

芸能界入りのきっかけは、つかこうへいさんのオーディションに合格したこと。その翌年には映画デビューを果たす。その後の服部さん、明石家さんまさんとの結婚、死別、離婚はご存知のとおり。

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ラジオのDJで家族のことを話す。二千翔・いまるの二人を育てたことを、何気なく話す。

そして子育てが終わった今、好きな歌でのステージも行なっている。

観客の女性たちの共感を呼んでいる。その楽屋に新藤兼人監督が訪問。激励する。スタッフへの挨拶に子供たち二人も頭を下げる。

Q「どんな時に男の人を好きになるんですか?」

A「金平糖のようにとがっている人が好きで、私といると丸まってきて、つまんなくなるらしいです。野田さんもさんまさんも」

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打ち上げは行きつけのすし屋さんで。親子三人が集まった。

大竹しのぶをどう思うかという質問に対して

いまる「お医者さんの子供が医者に診て貰いに行く感じで、行事みたいなもの。」

女将さんが大竹が声が枯れないのは何故ということを聞いたときに’赤ちゃんて声枯れないでしょう。’という答えだったと披露。健康でタフなんだ。

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今度はミュージカルへの挑戦。「グレー・ガーデンス」はハリウッドミュージカル。歌や踊りと格闘。演出家は宮本亜門。役の感情移入についても宮本に問いかける。納得するまで突き詰める。

宮本「やるなら最高のものにしたいという貪欲さがあるんですよ。」

本番前日、衣装を着てのリハーサル。音の高さを最後まで調整。

初日、見事に演技も歌もハマル。

大竹「心を開放していない人の芝居は見たくないですよね。自分じゃない人がカラダの中で声を出すんですよ。」

そしてシェークスピア劇が始まった。また別の人にスイッチが変わっていった。