親から虐待を受けて心に傷を負った子供たち。500日間密着取材。

虐待の傷は超えられるのか。職員と子供たちの格闘。社会に出ても心を閉ざす人。自分が親になる資格があるのか悩む女性。この春回復を目指す少女がいた。人と関係が結べない。かつて虐待した親とどう関係を結べばいいのかもわからない。

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年々増え続ける虐待。情緒障害児短期育成施設。

長崎県大村市。大村椿の森学園。虐待を受けた子供たちが暮らす。施設では子供たちの問題行動が後を絶たない。子供たちは他人との関係がうまく結べずに暴力となって現れる。

一般に人は母親などから大切に育てられることによって「愛着」が生まれて、社会性ができてくるが、虐待を受けた子供は「愛着」が育っていない。児童指導員やセラピストや精神科医師らが治療にあたる。

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去年3月、些細なことで職員に暴力を振るうアオイさん17歳。まもなく施設を出なくてはならない。原則18歳までが施設にいられる。アオイさんは実の父親と義理の母親から虐待を受けた。施設に来た6年前、他人に心を開こうとしなかった。

アオイさんが今、一番頼りにしているのが鳥羽瀬指導員。学校のことから身の回りのことまで相談する。アオイさんは施設から学校に通っているが、毎日通うことに苦労している。

7月、事件が起きた。ストレスから学校の備品を持ち帰ってしまい、謹慎処分を受けた。「クラスに行きたくない。」と学校をやめることを口にするようになった。

鳥羽瀬さんは自分に向き合うように指導していくが、アオイさんはなかなか素直になれない。鳥羽瀬さんは散歩に誘ってみたり、環境つくりにも考慮する。学校に出向いて保健室での授業を認めてもらった。

アオイさんは学校に行くことを決めた。大きな壁だがそれを乗り越えたいという決意を鳥羽瀬さんに手紙で伝えた。そして少しずつ他人との関係が築けるようになっていった。

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11月、アオイさんは受験勉強を始めていた。保育士になるのが夢と語る。

高校卒業が近くなった。しかし短大に行くには100万円以上かかる。身寄りのないアオイさん。施設もオカネは無い。施設の職員は考えた。虐待した親を頼るしかないが、再び親と向き合うことができるのかが疑問視された。再び親の支配下に入ることになることが

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椿の森学園を出て、船舶関係の仕事についているリョウスケ君。

虐待があった過去を知られたくないという思いがずっとある。

臨床心理士の玉井邦夫さん。「箱庭療法」で心の中の不安や恐怖が浮かび上がるという。虐待が将来に渡って人間を苦しめるという実態を見続けてきた。

精神のバランスを崩す人々。誰も味方がいない!誰もわかってくれない!という悩みを抱えている。

5年前に学園を出て食品関係の会社で働き始めたキョウコさん。

彼女を支えたのは恋人だった。結婚し翌年には子供も出来た。しかし同時に新たな不安が持ち上がった。キョウコさんの母親は育児放棄したため、母親の愛情が得られずに育ったキョウコさん。育児を投げ出したくなるときもあったが、夫がいて支えてくれている。

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今年1月、アオイさんも一歩を踏み出す決意をした。

アオイさんが大切にしているのはみんなで一緒に行った水族館の写真。

「怖いけど好き」虐待を受けた子供が持つ心情だ。アオイさんも父親と会う決意をする。

長崎に9年ぶりに大雪が降った日。施設の職員が付き添って、面会に行った。父親は「応援するぞ。」と答えたという。1週間後、父親から「保証人にはなるが、金銭面は1年後に」という回答がきた。

父親の誕生日にお祝いのメールを送ったアオイさん。一度壊れた絆を完全に断ち切ることも、修復することも容易ではない。

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スタジオに学園の精神科医宮田雄吾さん。映画監督の是枝さん、是枝さんは「誰も知らない」という映画で虐待の傷、克服の難しさを描いた。

是枝さん「自分の過去の親を否定できない。」

宮田さん「やさしかったときの親のイメージが深く刻まれる。」

鎌田キャスター「虐待の連鎖はあるんですか?」

宮田さん「3割か、4割はある。逆に言えば6割か7割は連鎖しない。そういうひとはどこかで他人のやさしさに触れて、信頼が築かれるから。」

鎌田キャスター「どうやって支えればいいのか?」

宮田「私は虐待されましたという人はいない。われわれのちょっと困っている隣人に声をかけることが大事。」

是枝さん「取り巻いている環境が変わることを期待したい。」

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アオイさんは施設を卒業する。懸案だったオカネは自治体の制度を活用することにした。アオイさんは一人暮らしを始める。鳥羽瀬さんは茶碗をプレゼントした。「いつでもメールするけん」と応援。そして一人暮らしをするアオイさんのために施設の人たち全員の努力がまとめられた生活指針ノートが置かれていた。鳥羽瀬さんのメッセージが最後に書いてあった。「あなたのしあわせを心から願っています。」