プレミアリーグにエースが帰ってきた。大山加奈25歳になった。

3年前に腰の痛みから、手術を決断。その後のリハビリでようやくコートに戻った。しかしスパイクが続かない。再び襲った腰の激痛。試合からは遠ざかり、リハビリに励む日々。’エースとして再び戻るために’

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12月、Vプレミアリーグ開幕。ファンは大山の復活に期待した。東レアローズは荒木、木村と全日本メンバーがいて、過去2シーズン優勝した。大山は2年間出場していなかった。

緒戦はJT。最初のトスをネットにかけた。第1セット、スパイクは1本も決められず、ようやく2セット目に決めた。だが見せ場はこれだけで、気持ちばかりが空回りした。

翌日は、ようやくエースの力を見せた。スパイクにブロックに得点を重ね、初勝利を決めた。インタビューに答える大山は「コートに戻れたのも、皆さんの御蔭です。」と怪我からの復活を印象付けた。

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ここまでくるまで長く苦しい日々が続いた。脊柱管が狭い、脊柱管狭窄症だった。腰の痛みと言うよりしびれて夜も眠れない状態だった。原因は大山のダイナミックなスパイクフォーム。

大山は小学生でバレーを始め、6年生で174センチあった。高校2年で全国制覇を果たし、広く名前が知られた。このときからダイナミックなフォームはトレードマークだった。アテネ五輪で抜擢されて大活躍したが、腰の痛みは既に高校生のときからあった。

社会人になっても、試合はこなしたが、状況は待ったなしだった。2008年8月に手術をし、そこから長いリハビリに入った。「良くなると信じて前向きに頑張る。」と日記にも記した。

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3年ぶりに臨んだ今シーズン。試合は毎週末に全国各地で行なわれる。およそ4ヶ月に渡るため、治療に専念するわけにもいかない。大山は恩返しのつもりで頑張った。4試合で2勝2敗、チームは波に乗れなかった。

大山自身も満足いかないと感じていた。バックアタックは5割を超える決定率を誇っていたが、フォワードの決定率は3割そこそこ。エースとしては物足りない。エースとしての責任が重く圧し掛かった。

大山「何か感覚が違って、思うように打てない。」

今季、大山はフォームを変えた。腰の負担を少なくするフォームにした。今までは腰を中心にしながら上半身と下半身はバラバラで打っていたが、股関節の強化を行なって、かつ柔軟性を高めて、カラダのバランスを重視するフォームに変えようとしていた。しかしこの新しいフォームはなかなかすぐには身につかない。

練習でも居残りで取り組むが、菅野監督は「大山は何を目指しているのか。自分を見失っているのではないか。」と見ていた。大山自身も「何が悪いのかがわからない。」と状況を語る。新しいフォームを早く身につけてチームに貢献したい!この思いで大山は焦っていた。

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食事は楽しいひととき。男子のアスリート並のカロリーを摂取する。

地元での試合。大山はどこか様子がおかしい。スパイクはジャンプが上がらず、決らない。この日の午後、大山の腰はかなりの違和感があった。午前中の練習では問題なかったが、午後になって違和感は痛みに変わった。

既に動けない状態になっており、大山は監督に出場は無理と告げた。

すぐに医師の診断を受ける。疲労性の腰痛で、精神的にも負のスパイラルに陥っていた。日記には「腰がいたいからといってスタメンを譲りたくない。」エースの苦悩がのぞく。

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再びリハビリに戻った。大山は遠征に同行し、ボール拾いからユニフォームの準備まで裏方に回る。チームは大山の穴を埋めるべく、若手の起用をする。迫田さおり、抜群の跳躍力で活躍し、チームは1月には3位に浮上した。

自分のいないチームが勝ち続けてきたことに複雑な思いの大山。

1ヶ月以上経過してもまだボールに触れる状態にはならなかった。

大山「最後の最後にコートに戻れたとしても、皆に申し訳ないなあと思うし、多分勇気が無いと思う。」

大山「動けないんじゃないかというより、また再び腰を痛めるんじゃないかな。という思い。」

大山「このリーグにかけていたので、自分はチームに必要ないんじゃないかなと思ってしまって。何年待ってもらっているかと考えると、もうこれ以上は待ってもらえないと思います。」

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シーズン後半戦。これまで負け無しのJTとの対戦。勝負はフルセットにもつれ込んだ。その時アクシデントが起きた。木村沙織が足に痙攣を起こし、退場。木村は緒戦から全試合フル出場していた。大山への期待は大きい。

終盤を迎えた3月6日、試合前のウォームアップで久々に大山がボールを手にした。

大山「正直、気持ちが入っていないときもあったけど、自分が落ち込んでいても申し訳ない。」

この日チームはファイナルラウンドへの進出を決めた。

大山加奈の’エースとして再びコートに立つ’まで、挑戦は終わらない。