▼采配 落合博満 中日ドラゴンズ前監督


野球の試合では、

①先発投手が互いに3点以内に抑えて投げ合っているような展開を投手戦

②反対に両軍の打線が活発に機能し、5点以上を取り合っているような展開を打撃戦 と呼ぶ。

皆さんは、どちらの試合展開が好みだろうか。

私はドラゴンズの監督に就任してから、ずっと投手力を中心とした

守りの安定感で勝利を目指す戦いを続けてきた。

なぜなら、投手力はある程度の計算ができるのだが、

打撃力は「水もの」と言われているように、

10点を奪った翌日に1点も取れないことが珍しくないからだ。


どんな強打者を集めても、何試合も続けて打ち勝っていくことは至難の業である。

だからこそ、優勝への近道として投手力を押し出した戦いをしていく。
打者出身の私の考えとしては意外に思うかもしれないが、

これは私の好みではなく、勝つための選択なのだ。


ただ、投手力を前面に押し出すとは言っても、

肝心なのは投手力と攻撃力の歯車がいかに噛み合うかということ。

すなわち、投手陣と野手陣に相互信頼がなければならない。


いくら投手が1点も取らないよう、いいピッチングをしても、

打者が一人も打たなければ勝ちはない。その逆もしかり。


では、投手陣と野手陣の相互信頼はどうやって築いていくものだろうか。
監督になったつもりで考えてほしい。

01の悔しい敗戦が3試合も続いた。

ファンもメディアも「打てる選手がいない」と打線の低調ぶりを嘆いている。

この状況から抜け出そうと、チームでミーティングをすることになった。

監督であるあなたは、誰にどんなアドバイスをするか。


恐らく多くの方は、打撃コーチやスコアラーの分析結果も踏まえて、

3試合で1点も取れない野手陣に効果的なアドバイスをしようと考えるだろう。

技術的な問題点を指摘するか、「気合いを入れよう」と精神面に訴えるか。

ソフトに語りかけるか、檄(げき)を飛ばすか。

コミュニケートする方法も慎重に考えながら、何とか野手陣の奮起を促そうとするのではないか。

つまり、01」の「0」を改善するという考え方だ。

私は違う。

投手陣を集め、こう言うだろう。

「打線が援護できないのに、なぜ点を取られるんだ。

おまえたちが0点に抑えてくれれば、打てなくても0対0の引き分けになる。

勝てない時は負けない努力をするんだ


プロ野球界では、先発投手が67回を3点以内に抑えれば「仕事をした」と言われる。

つまり、3失点以内で負ければ「打線が仕事をしていない」、

3点以上奪っても負けると「投手が仕事をしていない」ということになる。

投手戦、打撃戦の区別もここからきているのかもしれない。


待ってほしい。

勝負事も含めた仕事というのは〝生き物〟だ。

経験に基づいたセオリーは尊重するとしても、一歩先では何が起こるか本当にわからない。

ならば、打線が3点取れなくても勝てる道を見つけ、

10点奪ったのに逆転負けしてしまうような展開だけは絶対に避けなければいけない。

そうなると、「3失点以内なら投手は仕事をした」という考え方はできないと思う。

投手には、あくまで打線の調子を踏まえた上で〝勝てる仕事〟をしてもらいたい。


繰り返すが試合は「1点を守り抜くか、相手を『0』にすれば、負けない」のだ。

また、得点できない野手を集めてミーティングをすると、

呼ばれなかった投手陣は「俺たちは仕事をしているんだ」という気持ちになり、

チームとしての敗戦を正面から受け止めなくなる。

このあと、また同じような状況になっても、「悪いのは野手陣だろう」と考えてしまい、

ここから投手陣と野手陣の相互信頼が失われていくものだ。