解説その2、小説です。
出典は、加能作次郎の「羽織と時計」(一九一八年)という小説。
ところで、もうすぐバレンタインデーですね。
もしあなたがお友達から高級チョコをもらったら、どんな気持ちになりますか?
嬉しいような、ちょっと重いような…?
本文は、そんな現代人にも通じる心情を描いた作品です。
さて、小説を解く上で一番のポイントは、「誰の、何に対する、どんな気持ちか」を把握すること。
「何に対する」は、ひっかけ問題で誤答を作りやすい部分です。
例えば主人公が怒っているのは、薄情な友達に対してなのか、ふがいない自分自身に対してなのか。
これを見分けられれば、選択肢をかなり絞ることができますね。
「何に対する」を考えるヒントは、「人物関係の把握」にあります。
まず本文の前書きには、主人公の「私」は、病気で休職中の同僚W君を度々訪れ、同僚から集めた見舞金を渡したという関係だと書かれています。
W君が「私」に恩義を感じていることは容易に推測できるでしょう。
次に、本文における人物関係と気持ちを、図にしてまとめました。
今回の本文は、
【一】羽織のエピソード 【二】時計のエピソード 【三】W君と疎遠になる私
の三場面に分けて整理します。
さあ、この大枠をふまえつつ、問題に挑戦していきましょう!
問1 13~15 語彙の問題です。
13 (ア)術もなかった ② 手立てもなかった
「術」を使った熟語を挙げてみると、「手術」「魔術」など、何かをするための「方法」であるとわかります。
14 (イ)言いはぐれて ②言う機会を逃して
本文18行目をみると、妻が羽織について「機会のある毎」に言っていること、それに対して私は「つい」言いはぐれている、とあります。「機会」「つい」などがヒントになりますね。
15 (ウ)足が遠くなった ①訪れることがなくなった
よく使う慣用表現ではありますが、本文50行目「訪わねばならぬ」と思いながら「足が遠くなった」とありますから、「訪れる」の反対と考えられます。
問2 16 擽られるような思いとは?
【一】を見ると、妻が何度も「いい」羽織(17行目・21行目)だとほめていること、私が持っている理由を「打ち明けてない」(19行目)「誤魔化して」(23行目)いるという状況が分かります。
つまり、「妻」の反応と、「自分」の行動が、擽られるような思いになった要因です。
この二点をふまえている選択肢は③。
それぞれ、①②④は「妻」の反応のみで、「自分」の行動に言及していないので×、⑤は「自分を侮っている妻」「打ち明けてみたい衝動」がそれぞれ真逆なので×。
問3 17 やましいような気恥しいような、一種の重苦しい感情とは?
【二】を見ると、私は贈り物をしてくれたW君に対して、「感謝の念」(42行目)と「重い圧迫」(42行目)を感じていると分かります。
この二つをふまえた選択肢は①。
ほか、②W君に対して「評判を落としたこと」を「申し訳なく」思う気持ち、③私自身に対して「欲の深さを恥」じる気持ち、④私自身に対して「自分の力で手に入れられなかったことを情け」なく思う気持ち、⑤W君に対して自分の「見返りを期待」していると感じている、という点で×です。
それぞれ、誰に対する気持ちかを確認してみてください。
問4 18 W君の妻の眼を気にするのはなぜ?
【三】の前半を見れば、W君の妻は私を「薄情な方」(62行目)と言って「責めて」(64行目)いると思ったからだと分かります。
これをふまえた選択肢は①。
ほか、②「経済的に助けられないこと」への「申し訳ない」気持ち、③「偽善的な態度を指摘される」ことへの恐れ、④「卑屈にへりくだらねばならない」ことへの「疎ましさ」、⑤「自分だけが幸せになっている」ことへの後ろめたさ、が×です。
どれも、自分の「薄情さ」に対する気持ちではないので×ということになります。
問5 19 私が妻にW君のお店でパンを買わせるという行動の説明は?
【三】の後半を見ると、ここは、「私の、妻とW君二人に対する気持ち」がこめられた行動だと読み取れます。
「妻に対する、事情を悟られたくない気持ち」と「W君に対する、彼の現状を知りたい気持ち」の二つがあります。
両方にふれている選択肢は⑤。
ほか、①質素な生活の演出、②妻に対する気持ちのみ、③W君に対する「厚意に少しでも応えることができれば」という気持ち、④「W君の家族との間柄がこじれてしまった」という点が×です。
問6 20、21
今回の小説について批評をした宮島新三郎さんの文章からの出題です。
内容をまとめると、次のようになります。
今までの氏の小説…1~3行目「生活の」~「描写する」=全体をありのまま描写
⇕
「羽織と時計」…6~7行目「ある一つ」~「嫌い」=1点を狙いオチをつける
これをふまえ、問題を解いていきましょう。
20
今回の小説に対しての批評です。
「羽織と時計」にまつわるW君の態度という一点に狙いを定めたために、W君のありのままの自然な生活を書くことができていない、ということでしょう。
たとえばギャクマンガや漫才は、ボケ、ツッコミ、など性格を一点にしぼることで、キャラクターの役割やオチが明確になり、面白みがでます。
では、ミステリー小説はどうでしょうか。
凶悪な殺人鬼を、ただただサイコパスな人間として描くより、実は子供には優しいという一面も描いた方が、人間の複雑さや、作品の深みを引き出すことになりますよね。
今回の小説では、W君は「羽織と時計」を贈るような、恩義に報いる人間だという一面しか書かれていません。
「羽織と時計」のエピソードにこだわりすぎたために、W君はただのキャラクターになってしまい、複雑な感情は浮き上がってきません。
そのため、小説自体が漫才のような、オチを意識した話のようになってしまったと評者は感じたのでしょう。
W君を取り囲む様々な事情も含めて書いたほうが、作品に深みが生まれるという考えに至ったのです。
よって正解は④。
ほか、①「多くの挿話」ではなく「羽織と時計」にしぼっているので×、②「忠実に再現」ではなく「羽織と時計」のことだけを切り取って書いているので×、③がひっかけですが、「思い出の品への愛着が強かったため」ではなく「品にこめられたW君の恩義を感じたため」なので×です。
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ここは実は資料を読まなくても、小説全体を読み返し、「書いてあること」「書いていないこと」を探せば解けます。
正解は④。
それぞれ、①「W君を信頼できなくなっていく」②「複雑な人間関係に耐えられず」は本文に書いていないので×。
③がひっかけです。
「W君の思いの純粋さを想起させる」とありますが、この小説は「羽織と時計」にまつわる「私の気持ち」がメインテーマであり、「W君の純粋さ」を強調したい話ではないので、×。


