「本当にここでいいの?」


「ん。いつも来てるのはここですか?」


「え?う、うん」



大野さんに連れられて来たのは、
こじんまりとしたお寿司屋さん。
店内に入ると、大将の大きな声が響く。



「いらっしゃい!お!大野くん。
珍しいね。一人じゃないのか」


「うん。ニノも少食だから、大将よろしくね。
今日は何がある?いつもの2人前で」


「おまかせ二つね。了解」



大野さんはカウンターの一番奥の席に座った。
私もその隣に座った。



女将さんが冷酒と、つまみを運んで来た。
グラスに注いで、乾杯する。



「お疲れさま。大野さん」


「お疲れさま、・・・ってうわあ!」



一口お酒を口にしたあなたが、
珍しく大声を上げる。



「へ?何?どうしたんですか⁈」


「おいら、お酒のんじゃ駄目だった!
翔くんに怒られちゃう・・・」


「え?そんな約束してんの?」


「・・・いや、最近酒の失敗が多いからその・・・」


「今夜はちょっとぐらいいいでしょ?
翔さんには私から言っときますよ。私が無理矢理進めたって」


「・・・マジで。
ちょっとだったらいいよね?ばれないよね!」



さっきの不安顔が一気に明るい顔になって、
嬉しそうに、お酒を口に運ぶあなた。



「・・・でも、日本酒ですからね、
ほどほどにしないと、私も怒られますから」


「・・・ん」




大将のお寿司がきた。
鯛の荒汁と茶碗蒸しをサービスしてくれた。



「・・・あ、おいしい」


「だろ!大将の料理は旨いんだよ。量もちょうどいいし、
お酒が進むんだよね」



すでにほろ酔いなあなたが嬉しそうにいう。



「ねえ、大野さん。あなた今幸せですか?」


「ん。当たり前じゃん」


「・・・翔さんと一緒に住むし?」


「ぶはっ!ば、何言って・・・」


「合鍵交換したんですってね。もう一緒に住んじゃえばいいんじゃないですか。
行き来すんの面倒でしょ?」


「・・・そうなんだけど」


「なんか問題でも?」


「問題っていうか・・・一緒だと・・・」



急に真っ赤になってうつむくあなた。
でも、どこか嬉しそうだ。



「あーもー!何?はっきりしゃべんなさいよ!」


「だって、翔くん、寝かしてくれないんだもん。
お、おいらもその、我慢出来なくなるっていうか・・・
それに、たまには1人で絵も書きたいし・・・」


「・・・・・」


「え?ニノ?・・・もしや引いちゃった?」


「引くというか、呆れたっていうか・・・
私の大好きだった大野さんは、
いつの間にこんな付き合いたてのバカップルみたいなことを、
言うようになったんだと思ってね」


「・・・え?」


「ふふ、覚えてませんか?
前に話したでしょ?私の好きな人の話」


「・・・覚えてるけど・・・え?」


「あれ、あなたのことです。
私はあなたが好きなんです。最後まで気づいてもらえませんでしたがね」


「・・・ニノ」


「ふふ、ちゃんとわかってる。
あなたをずっと見て来たから。
私が好きになったとき、あなたはもうすでに櫻井翔を好きだった」


「・・・・・」


「それ込みで好きになったんですよ。
あなたはそれだけ魅力的ってこと」


「・・・ニノ」


「・・・でももう、あなたの心配はしないことにします。
翔さんがいるから。翔さんなら大丈夫。
・・・最初から勝ち目はなかったんです。
けど、それを認めたくなかった」


「・・・・・」


「私はあなたの笑顔が見られれば、それで十分。
そろそろ私も幸せってのになりたいですし」


「へ?それって・・・」


「あのバカが私のこと心配するんでね。
ちゃんと前に進もうと思って・・・」


「・・・もしかして、相葉ちゃん?」


「ん。もう、あなた以外好きになることなんて無いと思ってたんです。
なのに、あいつはいつの間にか私の中にいて、
しかも、うるさいんでね、存在が・・・」


「素直じゃないな。
相葉ちゃんの存在がおいらより大きくなったってことでしょ?
相葉ちゃんが大切ってことだよね」


「・・・まあ、そんな感じです」


「ふふ、そっか。も、食べ終わったし、そろそろでる?」




少し顔を赤らめたあなたが優しく笑って立ち上がった。




「今日はおいらがおごってやるよ」


「ん?最初からそのつもりでしたけど?」


「ふふ、ニノにはかなわんな」



大将に挨拶して、店を出るあなた。
私の前を歩いて行く。
いつもそう、私があなたの背中を追いかける。
きっとこれからも・・・



「さてと、ニノ、行っといでよ。
もう帰ってるんじゃない?相葉ちゃん」


「え?・・・」


「相葉ちゃんと幸せになるんだよ」


「・・・ん。一つお願いがあるんですけど。
その・・・抱きしめてもいい?」


「え?・・・ん。いいぞ」




そう言うと両手を広げて、
私の大好きなふにゃふにゃの笑顔になるあなた。




「・・・これからも変わらず隣にいていいですか?」


「当たり前じゃん」





私は力いっぱいあなたを抱きしめた。
あなたの全部が好き。きっとずっと好き。



涙がこみ上げて来た。
ギュっと我慢していると、あなたが私の頭をポンポンってした。
私は我慢出来なくなって、あなたの腕の中で泣き崩れてしまった。





あなたは何も言わず、


私が落ち着くまで、




ずっと抱きしめてくれた。