・・・・・・


翔くんが耳元で『約束だよ』って囁いて、
妖しげな笑みを浮べておいらから離れた。


・・・ゾクっとした。


こんな君は知らない。


その前だって、ロッカーに押し付けられて、どんどん君の顔が近づいて来て、
キスされるんじゃないかと思ってたら、
じっと見つめられて・・・


もう全身心臓かって思う程、ドキドキしてる。


また淡い期待がおいらの中に生まれる。
この前、相葉ちゃんには気持ちを伝えるって言ったものの、
本当はそのつもりはなかったんだ。


でもこんなことされたら・・・
もしかしたら、翔くんもおいらと同じ気持ちなんじゃないかと、
錯覚してしまう。


蓋をした気持ちが一気に溢れてしまう。
何度も何度も蓋をしてるのに。


一生懸命落ち着こうとするのに、
ドキドキが止まらず、君の顔も真っ直ぐ見れない。


動揺が隠せないおいらを尻目に、帰り支度を済ませ、
いつもの翔君がそこにいた。



「さ・て・と、智くん、この後ヒマ?
お腹すいたし、ご飯行かない?」


「ふええ?」


思わず変な声が出てしまった。
それに構わず、翔くんが続ける。


「美味しい和食屋さん見つけたんだ。
きっと智くんも気に入るはずだよ、ね、いこ?」


有無を言わさず、おいらの手を掴んで、
楽屋から出ようとする君。
ちょうど、後輩達が楽屋の前を通りすぎるところだった。


「あ、大野さん。今終わりですか?
俺ら、今から飯行くんですけど一緒にどうですか?
あ、もちろん櫻井さんも」


「うん、ちょうどおいら達もご飯行くとこだったんだ。
翔くん、一緒に行っても良いよね?」


「・・・え?、まあ・・・良いよ」


いつもは後輩達とのご飯は理由をつけて断るんだけど、
今日は君と2人っきりになるのが気まずくて、
一瞬、君の顔が曇ったのに気がついたけど、
気付かないフリして、後輩達と一緒に行くことにした。



まずはビールで乾杯した。


「は~うんまいね」

「そうすね、仕事終わりのビールはたまんないっす」


せっかく貴方と2人で飲もうと思ってたのに、とんだ邪魔が入ったもんだ。
いつもなら絶対に断るはずの後輩の誘いに乗って、
うまうまとビールを飲み干す貴方。


貴方は気付いてないけど、
この2人、完全に貴方狙いだからね。


俺なんかそっちのけで、前のめりで貴方に話をする後輩達。
ここまで露骨だと、何も言えないね。
俺にもこいつらほどの若さがあれば・・・


いつもより飲むピッチが早いような・・・
すでに出来上がりつつある貴方に、そして隙あらばと狙ってる後輩達に、
気が気でなくて、お酒が進まない。


「ちょっと、トイレ行ってくるわ」


ここで席を立つのは心配だけど、
さすがにこんなとこで、何も起きないだろっと思っていた。


戻って、びっくり。


貴方の腕が後輩の首に巻きつき、
「はー、可愛いな、おじちゃん、ちゅうしちゃうぞ!」
そう言って、まさに貴方が後輩の唇に顔を近づけてるところだった。


慌てて、貴方の唇を手のひらで塞いで、
すっかりその気になってる後輩から引き離す。


「ちょっとおじさん、なにやってんの?
ゴメンね、この酔っ払いが・・・」


そう言って、その後輩をギロっと睨みつけた。


「もう、しょうくん。
ちゅうしてほしいっていってるんだよ、してあげなくちゃ・・・」


「・・・はいはい、ちょっと、黙っててね。
大野さんかなり酔ってるみたいだから連れて帰るわ。
お前らも、明日仕事だろ?時間大丈夫か?」


「はい、すみません。
俺らも、残り食べたら帰ります」


さっき睨んだのが効いたのか、
そそくさと片付け体制に入る後輩達。


「それじゃ、気をつけてな」


まだ飲むって駄々をこねる貴方に抱えて、
会計を済ませて店を出た。


タクシーを捕まえ、貴方の家に向かおうとしたけど、
すっかり熟睡してしまってて、住所が聞き出せず、
仕方なく俺の家に行ってもらうことにした。