
突然だが、この建物、一体何に見えるだろうか?

正直、近づいても分からないかもしれないが、これは浜松市立秋野不矩美術館である。今回の浜松旅、第一のスポットである。
天竜杉と漆喰の外壁は異国情緒にあふれつつ、幾何学的外観が適度なスパイスとなって何とも言えない新鮮さと落ち着きを感じるデザインだ。
ちなみに内装も白い漆喰が塗られている。
1Fの展示室には籐ござと大理石の敷き詰められている部屋があり、スリッパを脱いでそれぞれの感触を足裏で味わいながら作品を鑑賞するという粋な計らいがなされている。
秋野不矩はとても気に入っている近代日本画家だ。
若い頃は創造美術というグループを結成し西洋美術を取り入れながら日本画の新しく自由な表現を模索していた。その頃より文展に入選するなど、活躍はしていた。
しかし、転機が訪れた。
54歳で初めての海外であるインドに渡り、インドの風土に魅せられて、インドやアフガニスタンの風景や人物を描き始めた。
ここからの彼女の絵画が素晴らしい。砂漠の黄色、空の青、煉瓦のオレンジ、ガンジスの緑、曇り空の銀、砂塵の黄金・・・。余りに鮮やかな配色、だけどとてもソフトで繊細でいくら見ても何回見ても溜息が出る位美しい。
これらの絵は、彼女の眼差しから見たインドで、彼女がインドをとても慈しんでいる様子が伺える。
彼女はとても優しい人なのだと思った。
けれど、型に囚われず、思い通りの色が描ける様になるには相当な努力が必要なはずで、それを自己流に仕上げたのだから表現に対する思いの強さを感じずにはいられない。
54歳にして言葉も分からないままにインドへ行くという行動にも恐れ入るし、そこで描く絵の質を変えてしまう程の衝撃を受ける感受性の高さにも舌を巻く。
93歳で亡くなったが、91歳で文化勲章を受賞するなど死の直前まで絵を描いていた。
最後まで自分を追及して前進し続けた人なのだと思う。
最後に彼女が遺した一文を紹介する。

彼女の描く色合いは、webやコピーでは決して再現出来ないので、気になった方は自ら足を運んで頂きたいと思う。