罪 | 書道家 北村雲星の小ネタ集

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「無知は罪だ」
と、先生は言った。


幼かった僕には、その意味が理解できなかった。




師匠の教室に手伝いに行くと、子供達の言動に振り回されてばかりだ。


例を挙げよう。


2~3ヶ月に一度は年齢を訊いてくる。


同じ子供達に、だ。


はぐらかせばしつこく何度も訊いてくるし、言えば言ったで人の事を、
「見えない」
だっけの
「老けてる」
だっけの
「四十代半ばかと思った」
とか嬉しそうに激しくdisってくる。


ついでに幾度となく、結婚しているか否か、恋人がいるかどうか、なども訊かれる。


繰り返すが同じ子供達に、だ。


はぐれかせば答えるまでしつこく何度も訊いてくるし、「いる」と言えば「ありえない」と言うし、「いない」と言えば、例によって例の如く、満面の笑みを浮かべながら人のコンプレックスを的確に打ちのめしてくれる。


豆腐メンタルでは子供の相手は務まらないらしい。


しかし僕はまだ良い。


段々と慣れてきてしまったし、なんだかんだでコミュニケーションの一つだと理解したし。


しかし離婚経験のある女性が手伝いに入った時、子供達が彼女に対し、結婚やら恋人やらについてしつこく訊き出した時には少し焦った。


流石にその時には主犯の男の子を端に呼び出し、少しばかり説教をした。


「大人には君達には想像も出来ないような傷を、心に負っている人がいるのだから、無闇矢鱈にそういう事を訊いてはいけない」
と。


「離婚している人もいれば、恋人に裏切られた人だっていたりもする。誰がどんな地雷を抱えているか分からないのだから、大人のプライバシーには触れない様にしなさい」


みたいな事をトクトクと語った。


その子はというと、ニッコリ笑って、
「うん! わかったーっ!!」
と言っていたが、残念ながら三ヵ月後には元に戻っていた。


一度くらい痛い目をみないと学習しないらしい。





昨晩、小学校の時の同級生の夢を見た。


満面の笑みを浮かべている彼は、とても幸せそうに見えた。


実際、彼とは小学校卒業以来、一度も逢っていない。


夢で見た様に、今、幸せそうに笑っているならとても嬉しいのだけれど……。



その彼とは、実はそんなに仲が良かった訳ではない。


クラスは一緒だったが、所謂、友達の友達という仲で、直接連絡を取ったり、遊ぶ約束をしたり、という間柄ではなかった。


そんな関係だったが、ある日、友達に連れられて、一度だけ彼の家に遊びに行ったことがある。


彼の家は木造平屋のアパートだった。


当時の僕は貧富の差とか、その辺の機微に物凄く疎かったが、それでも彼の家を見た時に、彼が余り恵まれてた生活をしていない事が分かった。


それほどまでに彼の家は質素だった。


しかし彼の家にあった物は、僕がずっと買って貰えなかったファミコン。


それだけで僕は彼が、僕よりもずっと凄い宝物を持っている気がした。



……気がしてしまったのだ。



狭い部屋に4、5人がギュウギュウになって代わる代わるファミコンをしながら、僕達は色々な話をした。


その内容のほどんどを忘れてしまったが、一つ、忘れられない内容がある。


自分達の父親の話しだ。


どういった話しの流れでそうなったのかはよく憶えていない。


ただファミコンと同じ様に代わる代わる、自分達の父親がどういった職業に就いている、とかを話した事が強く心に残っている。


飾りっ気のない灰色の壁をバックに、薄暗い蛍光灯に照れされたその時の彼の笑顔が、とても寂しそうだった気がする……。




――それから数週間経ったある日の事。


僕は彼の父親が、数年前に病気で他界している事を知った……。




なんて残酷な事をしてしまったのだろう……。


そう思ったのだが、謝罪をするには時間が経ち過ぎていた。


それ以上に、元々それほど仲が良かった訳ではなかった事もあり、今更蒸し返すのも気まずかったのだ。


そしてその後、悶々としたまま時が過ぎ、小学校を卒業する事になってしまった。




学区の関係で、彼とは違う中学校に通う事になり、もう二度と逢う事はなかった。


風の噂では、彼は中学校半ばで登校拒否となり、そのまま学校に来る事なく中学を卒業したらしい。


僕のネットワークではそれ以上の事はもう何も分からない。


今、彼は元気にしているだろうか?


そんな事を時々考える。


よく笑っていた彼は、本当は無理をして笑っていたのではないか、と今にして思う。


この記憶がいつまでも忘れられないのは、きっと僕は僕をまだ許していないからなのだろう。




罪




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