今、ひとりひとりの胸の中 | Facing Forward

今、ひとりひとりの胸の中

ライダー兄弟スレにいつか投稿しようと思っていた話を
少し変更したものを書いてみた

※ライダー兄弟スレとは2chの特撮スレの一つ
 平成ライダーの主役(1号)が全員兄弟という設定
 年齢順で長男~十七男(フィリップ含む)
 パラレルだから細かい事は気にしない
 とにかくほのぼのするのがお約束

スレでは会話形式で展開される事が多いので
それに倣ってみたら下手な台本みたいになってしまったので
地の分も加えたらやたら長くなった上に
自分の下手さ加減がより際立ってしまったけれど
以前こういう感じの構想(妄想)が浮かんだことを何とか残したかった
とにかく載せてみる
二次創作SS嫌いな人はスルーして下さい

















毎日暑い日が続く7月も末、乾巧はバイクを駆って木場勇治が住むマンションにやって来た。
屋根の下ながら灼熱地獄のエントランスで、呼出し用テンキーを操る指先を、頬から落ちた汗が濡らして不快になる。

巧 「おい、木場。頼まれてた洗濯物持ってきたぜ」
勇治「いつもありがとう乾君。
   良かったら少しゆっくりしていかないか?今アイスコーヒー入れたところだから」
巧 「おう、助かる。あっついなあ今日も…」

オートロックが解除され、ロビーから冷房の乾いた風が巧の汗だくになった髪を撫でる。
文明の利器万歳。クーラー最高。

勇治の部屋へ通されると、ロビーより少し温度が高いような気がする。
エコには厳しいこの男らしい、多分設定温度は28度。
巧から受け取ったクリーニング済のスーツに架けられたビニールを外しながら「都内は36度超えたらしいからね」と言う勇治の声が、何となくうきうきした感じに響く。
巧が勧められたソファで待っていると、勇治がその原因を語りつつ、キッチンから運んで来る。

勇治「最近、水出しコーヒーに凝ってるんだ。
   海堂がどこからかこのサーバーを手に入れたんだけど、
   俺は使わないから!って押し付けられてさ。
   貰った手前使わないとなーって思ったら、見事にはまっちゃって」

一見、普通のコーヒーサーバーに見えるが、巧には通常のものとの差が分からない。
抽出するのに何時間もかかるから、すぐ飲みたい時は困るけどねと笑いながら言う勇治の、氷を入れたグラスにコーヒーを注ぐ仕草がもう慣れたものに見える。

巧 「…美味いな」
勇治「良かった。はい、お茶受け」
巧 「え、たちばなの羊羹?コーヒーに?」
勇治「そう。意外な組み合わせだけど、結構いけるよ。試してみてよ」

ニヤッと自信満々の笑みを浮かべて巧に勧める。
巧は半信半疑で、目の前の皿に盛られた小豆色の四角い物体を一つつまんで口へ運ぶ。

巧 「…美味いな」
勇治「だろう?なかなか美味しいよね、この取り合わせ。
   これについては不思議なことが切っ掛けだったんだけどさ」
巧 「不思議?」
勇治「そう」

大学の資料などの調べ物のついでに、買い物もして行こうと神田方面へ出かけた時のこと。
公園の前を通りかかると、植え込みから何やら話し声がする。

??「ご隠居が言っていたのだから間違いない!絶対にコーヒーと羊羹は合う!」
??「…それを俺たちが味わえるわけがないのに、何をむきになって…」
??「まあまあ、その辺で宜しいじゃありませんか。……」

男性3人の話し声がするけれど、姿は見えず。
はて…と思いながらも通り過ぎたその先に、たちばなの看板が見えた。
何となく吸い込まれるようにして、勇治は暖簾をくぐった。

勇治「その時は、日菜佳さんがお客さんにところてんを運んでいてね。
   そのお客ってのが君の兄さんの友達にそっくりの男と…」
巧 「…はぁ?何だそりゃ、兄貴の友達って」
勇治「真司さんの、えと…秋山さんかな?すっごい似てた。
   その人と、お連れは男子高校生でさ。
   その子が植え込みから聞こえた話と同じ事を言ってたんだよ」
巧 「はあ?」

男子高校生が「ご隠居おススメの組み合わせですよ、意外といけるから試してみて下さいって」とニコニコ顔で自分のコーヒーと羊羹を、渋面を解そうとしない秋山蓮そっくりの男の前にズイッと押しやる。
日菜佳が「あ、木場さんいらっしゃい」と言いつつ、二人の押し問答をワクワク顔で見守っている。
男がかたくなに羊羹の皿を押し返すので、少年はブツブツ言いながらも諦めたようだった。

本当に合うのかな…

勇治「で、俺も気になったから自分で試す事にしたんだ」

オーダーを告げると日菜佳が驚き、耳に入ったのだろう、二人組も「えっ!」と勇治を見る。
姉上、今日は何かチャレンジャーが連続していらっしゃいましたよー!と厨房へ走る日菜佳の後ろ姿を見送り、席で買った本や資料を広げて待っていたら、ほどなく興奮した日菜佳が戻り、目の前にそのチャレンジセット(違)が置かれる。
暑い日だったが、少年にならってコーヒーはホットにしてみた。
一口飲んで、羊羹をかじる。
破顔。
すると何となく二人組の視線を感じて…

勇治「高校生の方がね、俺にサムズアップしながら笑うんだよね。
   どうです、合うでしょう?って感じで」
巧 「…まあ、実際いけるな、これ」
勇治「半信半疑だったけどねー。で、高校生に俺はサムズアップを返しながら」

笑顔と仏頂面の二人に、チャレンジメニューを試す切っ掛けになった植え込みの話し声の事を話すと、彼らはひどく驚いたのだ。
二人とも弾かれたように立ち上がり、何かを叫びそうになっていた。
先に我に返ったのは秋山似の男の方で、そうか、そこにいるんだなアイツら…とつぶやいて、力が抜けたように再び腰を下ろした。
高校生の方はまだ仁王立ちで、今にも泣きそうな顔をして扉の向こうを凝視していた。

巧 「……」
勇治「それから二人は席について、黙ったまま食べててさ。
   俺も日菜佳さんもちょっと気が気じゃなくて。
   でも、お勘定済ませて出て行く時にね」
巧 「?」
勇治「高校生が「ありがとうございました」って笑顔で言うんだ。
   後ろで秋山さん似の男がフッと笑って会釈してさ。
   変だな、って思わないでもなかったけど…」

店を出る二人を見送った勇治と日菜佳は、顔を見合わせ、何となくお互い頬に笑みを浮かばせた。


テーブルの上のグラスの氷が溶けて、汗をかいている。
羊羹は食べ終わってしまった。
キッチンから氷の追加を持って来た勇治が、巧の顔を見ながら言う。

勇治「アイスコーヒーと羊羹も合うよね。
   乾君は猫舌だからホットも試して欲しいけど無理か…
   でも、機会があったらやってみてよ」
巧 「…ああ」

外から聞こえていた筈の蝉の声が、何だか遠くなった気がする。
巧は突然それが気になり始めた。

勇治「俺はね、こんな偶然の出会いって面白いなって思った。
   生きてると、こういうことってあるんだなってさ」
巧 「……」
勇治「俺達はこうして存在してるけど、あと何回こういう出来事があるのかな?
   無いかもしれないけど、あるかもしれないと考えるだけで楽しいよ」
巧 「……」

静かに微笑みながら語る、勇治の姿がぼんやりと薄れてきた。
手を伸ばそうとしたが、何故か自分の体もだるく感じて動かない。

勇治「俺はね、乾君」
巧 「…木場」
勇治「前を向いていけるようになって、本当に嬉しいんだ」
巧 「木場」
勇治「だから、乾君は」
巧 「木場!」







…………くん、
………くみ、
……っくん?

総司「巧!」
翔一「たっくん!」
巧 「…っ!」

台所の守護神二人に挟まれる形で巧が跳ね起きたのは、いつものライダーハウスのリビングだった。
キョロキョロと周りを見回す。

翔一「ビックリしたよたっくん。DVDつけっぱなしで寝ちゃってるんだもん」
総司「寝るなら自分の部屋へ行けと言っているだろう?真司兄さんじゃあるまいに」
巧 「…悪い。あとたっくん言うな、翔兄」

つけっぱなし…ああそうか、春映画のDVDが出たから観てたんだ。
何か夢を見ていた気がするが、思い出せない。
ふっと下を向いた時に、ぽたりと何かのしずくが巧の膝を濡らした。

総司「汗をかいているようだ、風呂に入ってから部屋へ戻ったらどうだ。
   まだ皆帰って来ないし、ゆっくりしているといい」

思いがけない優しい声の総司に洗い立てのタオルを渡されて、巧はゆるゆると立ち上がった。
そこへ、騒々しく「天高ライダー部、ただいま参上ー!!」と玄関から弦太朗の大声が響き、総司が鬼の形相で「静かにしないか!」と巧から離れる。
お邪魔しまーす!と叫びながらライダー部のメンツが弦太朗の部屋へ移動する音がしたが、弦太朗本人がリビングにひょいっと顔を出した。
巧の顔を見るなり、弦太朗は一瞬驚いたようだったが、すぐに笑顔になり

弦太朗「お、巧兄!どんな汗も大事な心の汗だ!しっかりかこうぜ!!」

お決まりの胸ドンポーズを決め、弦太朗は部員達の後を追ってリビングから出て行った。
ぼんやりしながら見送ると、翔一が「晩ご飯になったら声をかけるから」と、巧の背中をポンと叩いた。



手に握ったタオルで顔を拭く。
さらりとした肌触り。
自分が泣いていたのを知ったのは、その時だった。
だが、何故泣いたのかはわからない。思い出せない。
生きているから、そんなこともあるだろう…
何となくそう思う巧だった。





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