ロマンス ~St. Valentine's Day Ver.~ | Facing Forward

ロマンス ~St. Valentine's Day Ver.~

雪がどさどさ降った翌日の朝のことだった。

晴れていたものの、夕べの雪が結構積もっていたので交通事情に影響がないか心配で、いつもより少し早目に家を出た。

駅までの途中に、歩道橋へ繋がる長いスロープがある。

小走りに行くわたしの目の前に、男女二人連れが駅を目指していた。

60代と思われる白髪のコート姿の男性と、おそらく彼の妻であろう、同じく60代に見える女性。

少し変だな?と思ったのは、女性が男性の周りを、まるで飛び跳ねるようにしてクルクル周りながら、携帯カメラで写真を撮ってはしゃいでいる姿。

「やめなさい」「もういいだろう」と言う男性の声と、「うふふ」「だって撮りたいんだもん」という、柔らかく、甘えたような女性の声が聞こえる。

「だって雪の中のあなたなんてなかなか撮れないんだもの」

それはまるで少女のような反応だと思った。

男性の方は、彼女がはしゃぎながら歩くので滑らないかと心配そうではあったが、特に困っているとか照れた様子でもないように見える。

これが彼等の日常なのかもしれない。


歩調が僅かにわたしの方が早く、スロープを上りきる前に脇から追い抜いた。

すると、背後から「きゃはは!」という奇声とともに、ずんずん彼女がわたしの背中に迫ってくる気配がした。

まさか、追っかけてきたの?!と緊張するわたし。

が、「よしなさい、走ると危ないから!」という男性の声に、「つられちゃった~」と笑って答える女性。

気配が遠退いたので、歩道橋に差し掛かるカーブの時にチラッと背後を確認したら、また彼女の興味は男性に戻ったように携帯で彼を激写し始めていた。


反応を見ていて思った。

子供や少女のように受け答えするひとはいるだろうけど、彼女の場合は少し違うと思った。

純粋に、彼だけを愛しているんだなと思った。

彼も、そんな彼女を愛しているんだな。

もし、気持ちがささくれ立っている時に彼等を見たなら、「朝からウゼーよ」とか「いい歳をして何だ」とか思ってしまうだろう。

確かにその日、わたしは朝から少々だが機嫌が悪かったはず。

彼等のやり取りを見ていて、何だか羨ましい気持ちになった…気がする。


USJ 2007


今朝、またいつもより早く家を出た。

別に天候は悪くないし、交通事情が荒れているわけでもなく、たまたま仕度が早く済んだから。

すると、またあの初老の男女がわたしの前を行くところに遭遇した。

今日は写真を撮っていなかったが、相変わらず彼女は、彼のそばに一生懸命くっついている。

あの日と違って距離があるので、一体何を話しているのかは聞こえない。

彼の方が歩く速度が速いのだろう、時折、彼女が小走りになりながら横に並ぶ。

まるで、子供が親に追いつこうとしているようにも見える。

何か可愛らしかった。


駅に着いて、彼が改札を抜けるのを、彼女がじっと見つめていた。

彼は真っ直ぐホームへの階段を目指して歩くが、柱の陰になるところで振り返った。

わたしから見て後姿の彼女が、振り返った彼に向かって両手を振るのを見て、何となく「寂しそうだな」と思った。

つかの間のお別れですよ、また夕方になったら帰ってくるんでしょう。

そう心の中でつぶやきながら、彼女の近くを横切って改札を通った。

気になったのでふと振り返ると、ちょうど彼女がもと来た道を引き返すところだった。

背中が丸くなっていた。

彼と並んで歩いていた時は、あんなに真っ直ぐ背筋を伸ばしていたのに。

そうしないと、背が高い彼の顔をよく見られないから。

その彼女が、今は両手をポケットに突っ込んで、とぼとぼと帰ってゆく。

そんなに好きなんだ、彼のことが。

また、少し羨ましい気持ちが…した。多分。


USJ 2008


彼等がどういう風に暮しているかなんて興味は無いけど。

出来れば毎日、こうやって愛し合ってることを確認していてほしいな。

たまにケンカして、信じられないこともあって。

でも、やっぱり大好きで。

それぞれの家には、他人には分からないことだらけだし、知らせる必要なんてないけど。

願わくばまた次に会った時、ラブラブでいて欲しいな。