妄想でアレが退治できたら
帰宅ルートの乗換駅で、時間調整で入線していた電車に乗り、適当な席に座って買った銀魂16巻を広げていた。
車両連結部分に近い座席…わたしがよく拝読するテツのひとのブログで初めて知った、そこは『妻面』 と呼ぶらしい。
窓から残暑のような秋の日差しが入るのを感じながら、発車を待っていた。
やがて電車が動き出し、次の駅に向かう途中のトンネルを抜けたあたりで、最初の事件が起きた。
隣に座った中年女性が、妻面の窓の桟に腕を置いていたのだが、ビュッという勢いで何かを振り払ったのが目に映った。
おばちゃんの指先から連結扉の窓に移動する黒い影。
…ヤツが、いつの間に?!
一体何故、ヤツが電車に乗っているんだ!
てか、もうそろそろ会わずに済むとか思ってたけど、何で会っちゃうかなGKBR!
(※許可いただきました、ありがとうございましたキリサキ様!)
すすす、と扉下方面に移動するGを、警戒しながら目視で追跡した。
Gは、わたしの向かいに座って読書&イヤホンミュージック鑑賞に没頭している青年のジーンズに飛び移り、くるぶしから膝裏へ移動!
どうしよう、教えなくちゃと思いながら注視していると、青年と同じ長座席に座っていた初老のオヤジが「アハハ」と笑うのが聞こえた。
どうも「おばちゃん→扉→青年」の図式が面白かったみたいだ。
同じく笑いに気が付いたおばちゃんが「何が可笑しいのよ」とばかりにオヤジを睨む。
もしかしてこのオヤジは、Gが乗り込んだ最初から知っていたんじゃないのか?
そんなことを考えていたら、Gは青年の脚から隣の女性の足元へ移動、笑うオヤジの足先を掠めて何処へ行くかと思ったら、何と電車の揺れに反応して飛びやがった!
それを見てまた笑う親父。
ようやく気が付く他の乗客。
飛んだGが着地したのは、上品そうなOL風女性の剥き出しの膝!
彼女は悲鳴をあげて立ち上がり、スカートを振ってGを叩き落とそうとする。
「アブラムシや」と笑うだけで何もしないオヤジにむかつく。
素早くGは彼女のスカート上をすべり、後ろの裾あたりへ逃げる。
わたしは武器になるものを探した。
鞄の中には銀魂が5冊、まだ見ていない化粧品のカタログが1冊、DVD…ってこれは割れるから駄目だ、何かないか、Gをしばく何かが!
わたし「すいません、その新聞の読み終わった面もらえます?」
男性客「は?」
わたし「弁償しますから、渡して下さい」
女性のスカートからぶぶぶと飛んでいくGを見つめながら、反対側に座って新聞を読んでいた中年男性に手を突き出した。
ヤツは今、乗降扉の窓に張り付いている。
やるなら今だ。
わたし「早く!」
男性客「お、おお」
膝に置いた銀魂16巻を鞄に戻し、男性から受け取った新聞を縦に丸める。
もうすぐ駅に着くのか、電車が減速してガタガタ揺れたのをきっかけに、またGが座席に向かって飛ぶ。
キャーという女性客の悲鳴と、アハハハハと笑うオヤジの声が車内に響いた。
揺れる床に落ちようとしないGを目で追って、どこでもいいから止まるのを待った。
Gは、わたしがいる座席の1ブロック先の乗降扉手前の手すりに着地。
丸めた新聞をぎゅっと握り直して席から立ち上がったと同時に、電車が駅に着いた。
直前まで読んでいた銀魂のせいで、今わたしには銀さんが降りている。
行くぜ、俺の洞爺湖(紙製)!
笑うオヤジが下りて行くのを横目に、わたしは手すりのGに向かって早足で近付いた。
目標確認、直ちに駆除します…ってお掃除メイドさんかい!しかもそれ17巻じゃない?!
…そんなツッコミをする暇もなく、何とGは開いた扉から外へ飛んで行ってしまった。
構えた俺の洞爺湖(紙製)が唸る間もなく、ヤツぁ駅ホームに逃げたよコノヤロー。
ぷしーとドアが閉まった。
結局使わなかった丸めた新聞紙を握りながら、もと座っていた座席に戻る。
新聞を提供してくれた男性は、どうせ捨てるやつだったからとお金を受け取ってくれなかった。
それにしても、結構な乗客数だったにもかかわらず、誰も退治しようとしなかったのが残念だ。
Gが飛んでいった先には、雨上がりの茜色の空が広がっていた。
あの笑いオヤジの背中にでもくっついてやれよG。